連写、残したい記録
こいつの食欲を何度も疑ったことがあったが、流石に今回は今までにないくらいの衝撃を受けている。
あれほどのモノを食っておきながらこいつはアイスを頬張り(しかもダブルのやつだ)、満足そうに笑みを浮かべている。
「やっぱデザートは別腹だよね!」
「いや、よくここまでもまあ......」
「てか夏音は何で食べないの?こんなに冷たくて美味しいのに」
「そういう気分じゃねえだけだっての。多分これから数時間は何か食ったら確実に吐く」
「もう、弱いんだから」
「お前が食い過ぎなだけだ」
何をどう返したらいいのかよく分からなくなっていた俺だが、音琶が楽しんでいるならそれでいい。体調は心配だけどな、ほんの少しだけ。
「それでさ、明日に備えて買っておきたいものがあるんだけど、付き合ってよね!」
「はぁ」
「何その気の抜けた返事」
「別に、俺が付き合わないって言うとでも思ったのか?」
「そんなことないけど、夏音は楽しくないのかな?って、ちょっと心配になったんだよ」
「楽しくなかったら、最初からここには居ない」
だったらどうして......、と音琶は言い掛けていた。だが、俺はその言葉が出てくる前に音琶に言う。
「音琶が元気過ぎるから、それにどうやって付いていこうか考えてただけだ」
全く、こいつは俺がいちいち懇切丁寧に説明しないと理解できないのだろうか。こっちだって未だに本音をぶつけるのは恥ずかしいのだが。
「......」
木のスプーンを動かす手が止まり、音琶は恥ずかしそうに俯く。
「バカお前、下向いてると危ないだろ」
前髪で隠れて表情がうまく見えないが、心の底から喜んでいるってのはわかった。いつも元気な音琶でも幸せ指数が限界まで上がるとこうして黙り込んでしまう。黙り込んでしまうくらい、嬉しいのだ。
「わ、わかってるもん!」
ようやく顔を上げながら音琶は返し、目の前のアイスをスプーンも使わずに丸呑みした。
「頭が~!夏音のせいだからね!」
冷たいものを勢いよく飲み込んだせいで音琶の頭の中は悲鳴を上げだし、それに伴って音琶は頭を押さえながら涙目になる。
別に俺のせいでもないだろ、少しずつ味わえばいいものを。
「そのためにコーンがあるんだろ、しっかり味わえよ」
「言われなくてもわかってるもん......」
「安心しろ、この程度の頭痛、すぐに治る」
「うん......」
大きな瞳に涙を浮かべながら、音琶はゆっくりと三角上の小麦と砂糖の塊を囓っていた。そんな仕草もまた可愛くて、思わず俺はスマホを取り出して写真を撮っていた。
「な、夏音!?突然どうしたの?」
「い、いや......」
俺は写真があまり好きではない。記憶は忘れることで消すことが出来ても、記録は忘れても消えることがないから......。
でも、決して戻ることのできない一瞬を収める事が出来るなら、音琶と過ごした一瞬一瞬を記録に残していきたい。
とは言え、俺から音琶の写真を撮るのはこれが初めてだけどな。
「なんかびっくりしちゃった。夏音が写真撮ってるとこ、初めて見たから」
「これだけ一緒に居るのに、一枚も写真撮ってないなんて、変だろ?」
「う、うん」
「だからだな、今日からって言ったらもう遅いかもしれねえけど、俺は音琶の写真を取っていきたい」
コーンを全て食べ終えた音琶は、紙ナプキンで口元を拭いたら僅かに微笑んでいた。そして、優しい声で俺に告げる。
「そしたら、私も夏音の写真いっぱい撮らないとね。もう容量が足りなくなっちゃうくらいにね」
「せめてスマホの容量くらいは気にしろよ」
「嫌だ、気にしてたら撮りたいものも撮れなくなっちゃうもん」
「......」
こういった我儘も音琶らしくて、余計にからかいたくなったから頬を赤らめた音琶を連写する。だが、音琶は抵抗する気配すら見せず、仕返しとばかりに俺を連写していた。
「私が今から行きたいとこでも、写真撮ってよね!」
連写に満足したのか、スマホで隠れていた顔が露わになる。口角が上がり、真っ白な歯が見えていて、顔の色も表情もいつもの音琶だった。恥じらいなんて感じられない。
喜怒哀楽が豊かで、どこまでも本音をぶつけてくる少女。
そんな少女との思い出の残し方を俺はまた一つ手に入れることができた。
音琶が行きたいと言っていた所でも、新しい思い出を作り上げるとするか。




