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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第19章 115万Mbに届かなくても
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乗越、平和な日々を送るため

 もうすぐで日付が変わるけど、結羽歌は明日また教習があるからって理由で先に帰ってしまった。私はもうちょっと居ようと思ってるけど結羽歌の様子、いつもより少し変だったような......。

 確かにお酒入った状態で車なんて運転できるわけないからってのもあるだろうけどね。


「全く、あんたといい結羽歌といい、みんな抱えすぎなんだから」

「えっ?」


 結羽歌が店を出た直後、琴実はそう呟いていた。まるで無意識に言ったみたいだけど、結羽歌に何かあったのかな?


「そっか、音琶のことだからもうとっくに知ってると思ってたけど」

「どういうこと?」

「結羽歌、多分明日教習所行かないわよ」

「......」


 行かないってどういうこと?だって、早いとこ免許取らないといけないみたいなこと言ってたし、上手くいけば夏休み中に終われるかもしれないってことじゃなかったの?


「どうして?」

「本当に、何も知らないんだよね?」

「うん」

「他の人には絶対言わないって約束出来るよね?あ、別に夏音には言っていいけど」

「出来るよ、仲間同士なんだからそれくらい大丈夫だよ」


 琴実がここまで念を押すってことは結構深刻な話なのかもしれない。運転が突然怖くなって行けなくなったってわけでもないよね?


「最初の部会に参加して、その後すぐに辞めた奴、覚えてる?」


 一呼吸置いて出された琴実の質問。

 その解答は勿論『覚えている』だし、今でもたまに連絡を取ることもある。それに、結羽歌は......、


「うん。琴実はあんま付き合い無いかもしれないけど夏音のクラスメイトだし、話したことはそれなりにあるよ」

「そう、だったら話が早いわね」


 グラスを拭く手を止め、真剣な表情で私を見つめる琴実。でも結羽歌と日高君の話だとしたら、祭りの日に知ったアノ事以外考えられない。ってことは......、


「簡単に言うとね、結羽歌は破れたってこと。その男子に」

「......」

「もう付き合ってる人が居るってこと知っちゃって......。あ、でも告ったわけじゃなくて、たまたま聞いちゃった感じだったみたいよ」


 やっぱり......、あの時は日高君は千弦と一緒に居たし、いい感じだったのはよく覚えている。結羽歌に勝ち目があるかって問われると、あまり答えたくないかな。

 勿論結羽歌のことは応援していたし、実ることを願っていた。辛い想いもしてほしくないし、笑顔のままで居て欲しいって思ってた。


「しかも結羽歌、その男子と同じ教習所通ってるのよね。向こうは結羽歌の想い気づいてないみたいだから話す分には問題ないんだけど、あのこのことだから、顔合わせるのが辛いのよ......」


 琴実の声がどんどん小さくなっていく。私もどう返答したらいいのかわかんなくなっていた。だって、さっきまで結羽歌は辛い気持ちを押し殺してたってことなんだもん。

 辛くて仕方ないのに、行かなきゃいけない場所にも行けなくなってるのに、私や琴実と会って気を紛らわそうって思っているに違いない。

 きっと、私達が居なかったら、いつの間にか何も出来なくなったりなんて......。


「それに、同じクラスで一緒に授業受けるくらいの仲なんでしょ?それだと三角関係になっちゃうし、学校まで行きづらくなるんじゃないかしらね」

「それは......」

「私だって高校の時に色々あって学校行きづらくなったことあったんだけど、結羽歌のお陰で何とかなったことがあったのよ。だからせめてもの恩返しって言うのかしらね、とにかく何かしてあげたいのよ」


 誰だって辛い過去はある。それを乗り越えたからこそ今の自分が居るのかもしれないし、囚われ続けて立ち直れない人も居る。

 きっと琴実は立ち直れてないんだと思う。どんな過去なのかは知らないし、それを知る必要もない。だけど、結羽歌に何かしてあげることで少しでも過去を振り切れるのかもしれない。

 もし結羽歌が今以上に辛い想いをしてしまって、サークルも学校も、何もかも嫌になってしまうんだったら、話を聞かずとも一緒に居るだけで安心させることだってきっと出来る。

 こういう時って、直接話を聞くと思わぬ所で相手を辛くさせてしまうから、今日みたいな感じでいつも通りを貫けばいいんじゃないかな。いつも通りの日常を取り戻すためには、いつも通りを曲げずに生きていけばいいんだから。


「もう、何かしてあげれてるよ」

「音琶、何言って......」

「一緒に居てあげるだけでいいんだよ。何があった聞いて話の根底掴んじゃったら、結羽歌がもっと辛くなるだけだよ」

「......」


 私も、人に言えないくらいの過去があるし、本当は通いたかった高校なんてほとんど行ってないし、ギターに出会えてなかったら、絶対ここには居ないって断言できる。

 今はまだ、夏音にも、自分の過去を話せるような精神状態じゃない。いつかは絶対に話すって決めてるし、私の過去を知っている数少ない人になってほしいから......。


「琴実も昔何かあったみたいだけど、『何があったか』とか聞かれたら、すぐに言える?」

「あ......」

「言えない、よね?」

「......そうね、言えるわけないわね。だって、私の欠点なんか話した所でいいことないし」


 言い方は相変わらずだけど、私と考えていることは一緒だった。


「でもまあ、音琶にも人に言えないような過去があるってことがわかったわ」

「えっ!?なんでいきなり......」

「『琴実も』なんて言ってたら、自分のことと重ねてるとしか思われないわよ」

「あ......」


 やってしまった。別に完璧な人間を目指しているわけじゃないけど、私にも何かがあるだなんて思われたくなかった。

 でもこれは隠せ通せなかった私が悪いんだし、仕方ないかな。


「大丈夫よ、音琶の辛かったことを掘り返したりなんかしない。だって、今が楽しいんだから、それでいいじゃない」

「う、うん。課題はまだまだいっぱいあるけど、仲間と居ると楽しいから、いつまでも続くといいな」

「課題があるくらいが丁度良いわよ。完全に平和な日々を送れた人なんて最初から居ないんだから」

「そういう琴実だって大変な癖に」

「それも楽しんでるのよ」


 もう、本当に調子良いんだから......。

 でも、私が今送っている日々は、決して楽しくないことはない。何かを築き上げ、仲間と共に乗り越える。それが出来てるだけで、幸せなんじゃないかな。


 まだ何も解決出来てないけど、きっと大丈夫。必ず今以上に幸せな未来が待っているって、信じているから。

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