表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第18章 九月、某、雨の匂い
273/572

頼り、気づかないうちに

 何も知らない奴からしたら違和感しかない景色だっただろう。だが、部室に居る人達全員は何故こうなっているのかが分かっているかのような振る舞いで、全体練習の時にここまで集まっていることが話題になることもなかった。

 一瞬戸惑っていた琴実も途中から察したようで、必死に感情を殺しているように見えた。そんな琴実だが......、


「全く、何なのよアレ」


 練習終了後、俺らが帰ると同時にギャラリーも足を揃えて部室を後にするということはなかった。そんなことしたら逆に怪しまれるだろうし、これくらい考える頭は残ってるよな流石に。


「私、本当は琴実ちゃんに見てもらいたかっただけなのに......」


 やっぱりそうか、琴実にも申し訳ないことしたな。


「もう、私も正直に言うしかないのかな......」


 結羽歌の次に、音琶が自信なさげに発言する。因みに湯川は部室に残ると言ってたから鳴フェス関連の話題を出すことが出来ている。

 どうせ部室の中で意味の無い作戦会議みたいなものを立てているのだろう。時間が勿体ないと思わないのかね。


「それは......」

「そんなのダメよ」


 俺が返す前に琴実が口を開いたか。まあいい、こいつとだって鳴フェスで偶然会って、それ以来俺の中で信用できる相手として認識するようになったのだから。

 海に行った時だって感謝しているくらいだし、こんな現状でも俺や音琶のことを正しいと思ってくれている。


「そんなことしたら、私が絶対に許さない。許されないことしてる奴らに降伏するようなことしてどうするのよ」

「......」


 こいつも変わったよな。初めて会ったときは変人を超越した奇人だと思っていたが、人の性格なんて見た目だけでは判断できない。

 不器用なんだろうけども、それでも自分の味方をしてくれる人には素直になれるってとこなんだよな。


「と、とにかく!誰かとの約束守らないでどうするのって話よ!」


 約束......、ね。俺だって音琶との約束はまだ果たせてないし、ここで降伏なんてしたら音琶の信頼を失うだけでは済まされないだろう。

 まだまだ解決法はあるはずだ。出来ればサークル外の人間を巻き込まない程度の、部内だけで収められるやり方が......。


 もしもだ、もしも仮にサークルと関係無い誰かにこの現状を話したら勝手に訴えられる可能性だってある。

 だが、俺はそれを求めているわけではない。訴えたら勝利出来るのは明確だし、自由というものを手に入れることは出来る。

 だが、それだとサークルはどうなる?俺らはあくまでサークルを変えるために行動しているだけだ。別に潰そうとしているわけではない。

 それにまだ話してなくても、音琶も、結羽歌も、琴実も、それを求めているわけではないってことくらいわかっている。もし求めているのならば、とっくの昔に発言くらいはしているだろう。


「ごめん、ちょっと弱気になってた」

「ちょっとどころじゃない気もするけど、わかったなら良し!」


 両手で拳を作りながら腰に手を当て、強がる琴実。こいつだって本当は不安なはずなのに、周りを悪い意味で巻き込まないように必死になっているのが伝わってきた。

 本当に、ぼっちのせいで手にした洞察力って、ろくなことに使えないよな。


「......あのさ、良かったらまた、4人で何かしようよ?」


 少しの間があって、音琶が口を開く。

 こいつも諦めが悪いし、俺だって同じだ。

 どんな理不尽も悪なら悪、善なら善。その根底を曲げたいなんて思ったことはない。


「......」


 正門を出て、4人は立ち止まる。夏休みももうすぐ終わるし、授業が始まればそれと同時にサークルの行事だって増えていくだろう。

 こいつらと過ごす夏休みは有意義なものだったし、ずっとこの関係を続けていきたいとすら思える。

 だが、こうして4人集まる所を誰かに見られたら、鈴乃先輩の二の舞になりかねない。そうならないためにはどうしたらいいものなのか......。


「4人で何かするなら、俺以外の全員のTwitterの更新は止めて、人目のつかない所で上手くやるしかない......」

「はあ!?」


 どうしたことか大きな声を出す琴実だったが、そのせいで通行人が驚いてこっち見てるじゃねえかよ。近所迷惑になる言動は控えた方がいいと思うぞ。


「確かに鈴乃先輩は茉弓先輩にあんたらのこと見られて疑われたのかもしれないけど、だからって私達が一緒に行動しちゃダメな理由ってあるのかしら?仲の良い人が集まって何かするくらい誰だってしてることよ」

「だけどな......」

「人目なんか気にしてたら、何も出来ないじゃないのよ。逆に警戒するとかえって怪しまれるって思わないのかしら?確かに鈴乃先輩の件もあるけど、運が悪かったって思いたいし、私だって制限された生活なんて送りたくないわよ」

「......」


 まあ確かに、誰かが監視していたとしても、仲の良い奴らで連むことに悪はないよな。だって必ずしもサークルの話をしているとは限らないわけだし、プライベートな空間ならばいくらでもあり得る話だ。

 俺も少しは物事を広く見る必要があるかもしれないな。


「私は今日バイトだから、」

「この先誰が私達の味方してくれるかわかんないけど、少なくとも4人では支え合えるんだから、夏音ももっと私達のこと信用しなさいよね」

「......言われなくても、お前らを信じることは朝飯前だ。今日は厳しくても、明日以降なら4人で集まるとするか」

「ねえ夏音、もっと私は仲間を大切にしたいよ。1人で抱えて解決できるような話じゃないって思うんだよ」


 琴実も音琶も、黙ってはいるけど結羽歌も、それぞれ抱えている想いは同じはずだ。俺だって、3人との想いを通じて、ここに居るわけだ。


「お前らが大切じゃないと言えば嘘になる。ならば俺は最低限のことをしておかないといけない使命があるって実感できるから、音琶と琴実の提案は賛同する」


 堅苦しいのは承知だが、俺だって真剣だ。ここまで複数人のことを大切にしたいって思ったことはなかったから、どうせなら最低限の人間関係くらい築いてやっても罰は当たらないだろう。

 大切の絶対値がそれぞれ異なることになるかもしれないが、俺だって男女問わず誰かを守りたいって思う善意くらい持っている。これも環境の違いで変わっていったことなのかもしれないけどな。


「まあいい。どうせならその集まりが後悔しない程度のものになるように努力しないといけないけどな」


 説得力が無くても、取りやめだけにはならないようにしなくてはいけない。ならば、上手いやり方でどうにかすべく......、


「......私のバイト先で......、次のシフトの時に一緒に集まりなさいよ。それだったら、少しは誤解生まなくて済む話じゃない?」


 琴実のバイト先、例のカジュアルバー。そこなら軽音部はおろか鳴大生が集まる心配はないだろうし、奴らもそのことを知らないはずだ。きっとあの場所が一番安全だろう。


「琴実がそれでいいのなら、参加くらいはしてやるよ」

「参加しないとダメなんじゃないの?それに、マスターだって居るからお客様が変な事出来るわけ無いはずだし」

「まあ安全な場所と言えばあそこしかないよな。それで、次のシフトはいつなんだ?」

「明後日の18日よ」

「なるほど......」


 18日、ね。予定を確認すれば、俺が丁度夜勤の日じゃねえかよ。


「すまんが、3人で集まってくれ。俺はバイトだ」


 そう言った瞬間、3人の表情が暗くなった。いやでもだな、別に俺が居ないからってそこまで大きな影響はないだろ。


「夏音が居ないのって、なんか寂しいな......」


 真っ先にそう言ったのは音琶だったが、結羽歌も琴実も不安げな表情を浮かべていた。どうしてこいつらはこうも心配性なんだか。


「そっか......。夏音君がいないのは、不安だけど、私達でも、どうにかするしか、ないのかな......」

「夏音なら、私達には考えられない解決法が思い浮かぶって思ってたけど......。そうよね、いつまでも夏音に頼るわけにもいかないわよね」


 ......こいつらは何を言ってるんだ?俺を頼るだとかなんだとかって......。

 そんなに俺が頼りになる存在なのかよ。意味がわかんねえよ。


「そしたら、音琶も結羽歌も、明後日は女子会ってことで楽しむわよ!」

「おーっ!」

「おー.....!」


 音琶と結羽歌とで反応が真逆だけど、一つだけわかったことは、こいつらが俺を頼りにしているってことだった。

 全く、もっと良い奴がいるはずだってのに、こいつらは人選が悪すぎる。

 でもまあ、期待されてるならそれくらい応えてやってもいいかもな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ