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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第18章 九月、某、雨の匂い
270/572

救いたい、救われたい想い

 ***


 夕方まで続いた部室でのセッション。その間鳴香が照明のデータを取りながらパソコンを眺めていたけど、2時間ほどしたら居なくなっていた。

 鳴香もそうだけど、淳詩もPAだし、私も手伝いたいけど先輩達は『余計なことするな』とか言いそうだし、茉弓先輩に監視されていることを考えたら簡単に踏み込めなかった。


「ねえ、夏音は自分がどんな演奏しているか考えている?」

「どうしたんだよ」


 スティックをケースに入れ、鞄に仕舞う夏音は、私に視線を向けていない。元々用意されていたスネアタムとペダルを元の場所に戻し、ようやく顔をこっちに向ける。

 端から見たらいつもと変わらない表情なのかもしれない。でも、夏音は今、私の質問に興味津々で返している。そんなことわざわざ聞かなくなってわかる。


「こんなこと私が聞いてくるってことはさ、私がどう思っているかわかるんじゃない?」


 ちょっと意地悪だったかもしれないけど、私の思っていることと同じ返答が来たら嬉しいなって、勝手に思っている。でも、きっと期待通りの...、


「少しは音琶の望み通りになれてるかもな」


 わざと私から目を逸らし、恥ずかしそうになりながら答える夏音。

 そうだよ、私も、少しずつ、本当にまだ最初の一歩になってるかもわかんないけど、夏音は着実に良くなってきている。

 私が夏音をそうさせたんじゃなくて、夏音の意思がそうさせたんだよ。どんなに上手い人でも、音楽や、一緒に居てくれる人の想いによって演奏なんて変わってしまう。

 夏音は良い意味で変わろうとしているんだよ、それに気づけたら、確信できたら、もうあの時の夏音に戻れるかもしれないんだよ。


「かもじゃないよ」

「あ...?」

「ゆっくりだけど、私の願ったことに近づいてるんだよ」

「......」


 当たり前のように過ぎていく日々、その日々に音楽が混ざり合って、手放せないモノになっていく。


「俺がどうとか言う前に、音琶はまず自分の現状を心配しろよ」

「うん、そんなの分かってるよ。でもね、別に夏音が心配だから言ったわけじゃないよ」

「...だったら、なんで...」

「嬉しいからだよ」

「......」

「初めて会ったときの音が、聴こえた感じがしたんだよ」


 夏音には、何もかも本音をぶつけていた。今も前も、そしてこれからも...。


「お前がそれで満足しているなら、俺は何の文句も言わねえ。でもな、俺がまだ満足していない」

「うん...」

「どっちかの話で済ませるわけには行かねえんだよ、この話は。俺も音琶も、完全に満足するまでは嬉しそうな顔されても、二人同時には満足出来ない」

「うん...」


 分かってるよ。でも、それで安心した。夏音の演奏に限界なんてないんだから...、私が保証する。


「いくら掛かってもなんて甘えだ。それでも、少しでも、近づけたんなら、今日のセッションは大事にする」


 扉の前に立ち、私に背中を向けて夏音は言った。どんな顔しているのかは見えないけど、声色とか間の開け方でどんな感情を抱いているのかはバレバレだよ。



「俺はお前に救われたいし、俺もお前を救いたい」



 そう言って、夏音は一人で先に外に出てしまった。私まだ片付け終わってないのに...。

 夏音も結構なツンデレさんだな...。


 でもね、夏音。夏音は一つだけ、気づいてないことがあるんだよ。

 確かに私は夏音を救いたい。でもね、私はもう、夏音に救われてるんだよ。

 世界に絶望して、いつかひとりぼっちでこの世界とさよならするんだと、思ってたんだよ。

 夏音が居るから、私は一人じゃなくなったんだよ。


 私が夏音に言えてないこと。夏音が気づいてないこと。

 それは、私がひとりぼっちだったこと。終わりが来るまでずっとひとりぼっちだったかもしれないこと。


 あとは...、私が.................。






 私が、夏音を救わないと、ダメなんだ。


 ・・・・・・・・・


「もう、何で先に外出ちゃうのさ」

「うるせえ、お前が悪い」

「どうしてさ、私何か変な事言った?」

「いつも言ってるだろ」

「むう~~!!」


 私をひとりにした夏音を責めるけど、夏音はいつもの調子で私を責め返していた。

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