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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第18章 九月、某、雨の匂い
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空の色、染まっていた色

 慣れない枕で目が覚める。背中にべっとりと汗の感触が張り付いて、今すぐにもシャワーを浴びたくなったけど、ここは結羽歌の部屋だし、前酔って迷惑掛けたこと考えるとこのまま帰った方がいいかもしれないわね。

 当の結羽歌はまだ深い眠りに嵌まったままだし、LINEで帰ったこと教えとけば大丈夫よね?

 掛け布団を剥がし、私が寝ていた分まで結羽歌に掛けてあげる。そしてベッドから降りようとしたら...、


「んぅ~...」


 結羽歌が声を出し、右手で私の服の裾を掴む。目は閉じたままだから、夢でもみてるのかしらね。でも、きっとそんな良くない夢をみているに違いない。

 あれだけ飲んで酔って、それでも吐かなかった。自分の中にため込んでいたモノを暫くは無くしたくないのかもしれない。だとしたら、私に出来ることは...、


「仕方ないわね...」


 結羽歌が完全に起きるまでは、一緒に寝てあげることに決めた。大切な友達の涙を見たばかりで、起きた時に誰も居なかったら孤独を感じてしまうに違いない。

 私もそうだった。あんなことがあってから1週間くらいは、結羽歌以外の人みんなが私の敵になって、どこに居ても胸の奥が苦しくなったことがあった。

 きっと結羽歌も同じようなことを考えていて、誰かが寄り添ってくれることを願っている。だったら、私がその『誰か』にならないといけない。今すぐにとは言わないけど、出来るだけ早く、いつも通りの結羽歌に戻って欲しい。


「琴実ちゃん...」


 夢の中で結羽歌は私と何をしているのかしらね。楽しいことをしているようには見えないけど、二人抱き合って泣いていたりしたら、それはそれで悪い夢ではないわよ。


「...大丈夫よ、私があんたの隣に居てあげるから」


 瞳から滲んでいた涙を拭いてあげ、頭を撫でる。結羽歌の小さな頭を私の胸元に寄せ、撫でながらもう一度、私も眠りに就いた。


 ・・・・・・・・・


「......」

「......」


 目に映るはオレンジ色の空。今日なんか用事あったかしら?なんて考えながら頭を回転させ、全体練習とかもなかったことを思い出す。ってか、朝早くからの用事がある日の前日にはシフト入れたりしないわよね...?多分。

 それはともかく、ようやく起きた結羽歌の方が心配かしらね。


「おはようね」

「もう早くないけどね...」

「そうね...」


 やっぱり1回起きた時に結羽歌も起こせば良かったかしら...。でも、あんな顔してたら無理矢理起こすのも悪いし、間違いではないと思いたい。


「私は大丈夫だけど、結羽歌の方は用事とか無かったの?」

「自学の予定、3時間前に入ってた...。先生から何件も不在着信入ってる...」

「そう、まずは先生に謝って、その後どうするかよね」

「うん...」


 急いで電話を掛け、結羽歌は幾度か頭を下げながら応対して、1分足らずで通話が終わった。でもこれ、仮に時間通りに行けたとしてもアルコールが抜けきれなくて運転どころでは無かったんじゃないかしらね。それだったら寝坊したのは不幸中の幸いってとこかしら。


「琴実ちゃん、シャワー浴びてきなよ」

「えっ?」

「実は私、ちゃんと帰るまでのこと、覚えてるんだ...。いつもはあれだけ飲んだら忘れちゃうんだけど、なんか今回は、忘れられなかったの、かな?」

「そう、身体にだけは気をつけなさいよね。忘れてないのは良い事よ」

「うん。私も早くシャワー浴びたいし、でも琴実ちゃんは帰んなきゃだから、先に入っててね」


 結羽歌に笑顔は戻ったものの、まだ最初の段階に過ぎないし、思い出しただけで泣いちゃうことだってあるかもしれない。

 笑うことなら簡単にできるけど、心の底から笑うのは、難しいことよね。


「ねえ結羽歌、この際一緒に入ろうとは思わない?」

「ふぇっ!?」

「私が入っている間、あんたは一人じゃない。寂しい想いはさせたくないわよ」


 どうせ私が帰ったら結羽歌は一人になる。だからこそ、少しでも二人の時間を増やしたい。

 帰ったら何度もLINEしたり、電話したりすればいい。結羽歌の声を聞きたくなったら、何度も、何度も...、


「本当は私のお腹触りたいだけなんじゃないの?」

「そういう意味で言ったわけではないわよ。でも、結羽歌がお望みなら、やってあげてもいいけど...」

「そっか。私、琴実ちゃんにお腹撫でてもらったら安心するから、お願いしちゃおっかな...」

「いくらでもあんたのこと安心させてやるわよ」


 いつもの冗談も、他愛ない話も、出来てはいる。でもやっぱり、どこかおかしくて、歯車が噛み合わない感じもする。

 結羽歌が好きだった男の子は同じクラスで、夏音とあともう一人と授業を受けているって聞いた。そしてそのもう一人の女子と彼が付き合っているってことを知って、告白もままならないまま結羽歌の願いは砕けてしまった。

 顔は記憶にないけど、一番最初の部会には参加していてその後すぐ辞めた人が居るってのは覚えてるし、その人だってことも教えてくれた。

 夏休みの間はまだ大丈夫かもしれないけど、学校が始まったらどうなるかも見えない。


「結羽歌、あんた少し大きくなったんじゃない?」

「そ、そうかな...。この前モールにあるラーメン屋行ったからかな...?」

「それってあの背脂と野菜がすごいとこ?」

「うん...」

「今度一緒に行くわよ。なんならこの後夜ご飯にでも」

「確かに、あれだけで一日三食分のカロリー超えてそうだし...」

「ね!行くわよ!」


 私も結羽歌も全て脱ぎ、浴室に入る。ただシャワーを浴びるだけの話なのに、お互いに水を掛け合ったりして、私達は子供のようにはしゃいでいた。

 いや、私も結羽歌も、まだまだ子供よ。何勝手に大人だと思ってたのかしらね。

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