見送り、一緒に寝ながら
9月13日
結局結羽歌は閉店の時間まで帰ろうとしなかった。普段ならとっくにギブアップするはずの量まで行っていたのに、人間本気を出せば限界を超えられるってところかしらね。
でも流石に自力で歩けることは出来ず、最後の方はカウンターに突っ伏しながら何かを呟く結羽歌の姿がそこにはあった。
「結羽歌~、もう閉店だから帰るわよ」
「んん~...」
「送ってあげるからね、立てそう?」
「ん~」
何とか立とうと頑張るけど無理だったみたいで、結羽歌はその場で尻餅をつく。これスカートだったら確実にパンツ見えてたわね...。閉店間際で私とマスター以外誰も居なかったからよかったものの、これから着替えないといけないから、ソファの席で横になってもらうしかないわね...。
「結羽歌ごめん、着替えないといけないからここで待ってて」
「ん~、琴実ちゃん、メイドさんなのに着替えるの~?」
「最初から私はメイドが本職じゃないわよ...」
全く、どうしようもない所は高校の頃と何にも変わってないんだから。そんな結羽歌が可愛くて仕方ないって思ってしまう私も大分おかしいのかもしれないわね。
「着替えるから、ちょっとだけ待っててね」
「うん...」
身体面もだけど、精神面も心配だから早いとこ結羽歌が安心してられるようにしなくちゃいけないわよね。急いで更衣室に向かって着替えを済ませ、結羽歌の寝ているソファに近寄る。
「ほら、帰るわよ」
「は~い...」
自力で歩けない結羽歌の肩を持って何とかして結羽歌の部屋に向かう。お店のシャッターが下げられ、マスターと別れると私と結羽歌はそのまま駅前まで歩き出し、何とかして帰る。
「琴実ちゃん...」
「どうしたのよ」
「私担ぐの、大変だよね...、ごめんね...」
「...別に。あんた軽いから大丈夫よ。ほんと、無駄な肉がなくて羨ましいわよ」
「そんな...、もっとおっぱい大きくなりたいのに...」
「はいはい、その話は部屋に着いたらいくらでも聞いてあげるから、外ではしないことね」
「うん...」
それ以降、部屋に着くまでは結羽歌は静かだった。元々大人しいこだけど、言いたいことを言えてすっきりしているのかもしれない。後はちゃんと寝かせて明日以降はいつも通りの結羽歌になることを願うしかないわね。
結羽歌の部屋は何回か行ったことあるから知ってるし、結羽歌が持っているポーチの中から鍵を取り出せば入ることができる。
「悪いけど、入らせてもらうわよ」
「うん...、」
何とか鍵を見つけ、扉が開くとそのまま中に入って、リビングにあるベッドに結羽歌を寝かせる。
「琴実ちゃん...、ありがと...」
「全く、ここまで酔ったあんた見るの初めてよ。ほら、早く寝て全て忘れなさいよね」
「うん...」
顔を真っ赤にして、寝転がる結羽歌。まだ吐いてないから、酔いが覚めた瞬間にトイレに直行することになるかもしれないけど、その時まで見守った方がいいかもしれないわね。
「琴実ちゃん、帰っちゃう...?」
虚ろな瞳で結羽歌は私にそう言う。守ってあげたくなるようなそんな目で、私はずっとその目に魅せられていたのかもしれない。
それくらい、結羽歌は大事な友達で、辛い想いをしたらお互いに守り合いたいって、私は思っているから...。
「帰らないわよ、結羽歌の酔いが覚めるまで一緒に居てあげるわよ」
「そっか...」
何度も寝返りを打ち、そのたびに辛そうな表情をするから、トイレで吐くように促しても結羽歌は頑なに動こうとしなかった。
振られたことがショックなのは痛いほどわかるけど、自分の身体は心配してほしいし、病院に行くレベルの話にはならないで欲しい。
別にお酒が好きなのは悪いことではないんだけどもね。
「ほら、おへそ出して寝たら風邪引くわよ」
「う~ん、腹巻き買ったから、持ってきて~」
寝返りを打って服がめくれ、大胆にお腹が露出している結羽歌は、そんなことも気にせず、よくわからないことを頼んでくる。
「どこにあるのよ」
「ベッドの下の引き出しに...」
「はいはい」
お腹を出して寝させるわけにもいかないから、下の箪笥の引き出しをいちいち開けて、それっぽいものを取り出し、服の裾を戻したら結羽歌のお腹に巻いてあげる。服の上からで良かったかしら...?
にしても、本当に無駄のない身体付きね...、別に腹筋が割れているわけじゃないけど、それでも充分スリムな身体は維持されていて、羨ましい。
「これでいい...?」
「うん...、ありがとね...、琴実ちゃん...」
腹巻きを巻かれて安心したのか、結羽歌の瞼がゆっくり落ちていって、やがて静かな寝息が聞こえてきた。そのたびにアルコールのにおいがしたけど、そんなこと気にしてる余裕もなくて、いつの間にか私も結羽歌の隣で寝転がり、暫くしたら眠りについていた。




