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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第18章 九月、某、雨の匂い
267/572

琴実と結羽歌、二人はどこまでも...

 +++


 高島琴実、18歳。誕生日、11月25日。身長155センチ、体重は...、

 いやいや、別に今の私はそんなこと考えている場合じゃないわよ、ちゃんと仕事に集中しないと...。


 鳴成市内の繁華街にあるカジュアルバー。そこで私はバイトをしている。

 ゴスロリの衣装を身に包み、カラオケ付きの飲み屋に相応しいのかはわからないけど、主に年配のお客様のために美味しいお酒を提供することがこの店のルールだから、マニュアル通りに進めていこうとは思っている。

 そんなこんなで2ヶ月経った今、最近バイトが楽しくて仕方がない。今までは会ったことのない人達に飲み物を提供していたけど、夏休み後半になって結羽歌や音琶、夏音だってきてくれるようになっていた。

 そして今日も一人、私が求めていたお客さんがご来店している。なんかちょっといつもと様子がおかしいんだけど。


「どうしたのよ、そんなに暗い顔して。お酒飲むのにテンション低い人初めて見たわよ」


 いつものように楽しそうにお酒を飲んで、透き通るような綺麗な歌声を披露してくれると思ったのに、今日はその気配すら感じられなかった。

 長い付き合いだからわかるけど、このこって何か嫌なことがあったら私の元に駆けつけてくるわよね...。頼りにされるのは嬉しいけど、心配な気持ちにさせられるからあんまり嫌な話じゃなきゃいいんだけどね。


「実は...、琴実ちゃんとの約束、守れないかもしれなくて...」

「へっ!?」


 結羽歌と私の約束?それってサークル関係の話?それとも日常的な他愛のない何かの約束だったり?

 いやでも、直近でした約束って言ったら...。


「私、振られちゃった...」

「......」


 えっと、こういうときって、どう対処したらいいものなのかしらね...。私だって高校時代に恋愛関連では碌な目に遭わなかった身だから、結羽歌の気持ちは瞬時に理解することは出来るけど、過程ってものもあるでしょうし...。

 振られ方にも色々あるのよ...、もしかしたら結羽歌の勘違いかもしれないんだし。


「もう、付き合ってる人が居るって...、それで...」


 言葉一つ一つを発する度に泣きそうな顔になっていき、やがて耐えれなくなって可愛い瞳からは涙が流れ落ちる。


「わ、わかったから、取りあえず何か飲みなさいよ」

「う、うん...。そしたら...、テキーラショット...」

「はぁ!?」


 袖で涙を拭いながら、信じがたい注文をしてくる結羽歌。このこがよく飲むってことは前から知ってたけど、ここまで度数の高いのをショットで飲んでいた所は見たことがない。

 いや、もしかしたら私の知らないとこで飲んでたのかもしれないけどさ...。


「どうしたの、琴実ちゃん?そんな大きな声出して...」

「いや、大きな声も出るわよ...。ってか、本当にいいの?」

「うん...。辛いことは飲んで忘れたいから...」


 バカ結羽歌...、そんなことしても忘れることは出来ないわよ...。辛いのはよく分かったし、いくらでも泣いていいから、せめて自分の身体だけは気遣いなさいよね...!

 でも、お客様の注文を無理矢理変えるのはダメだし、注文通りにしないといけないから、乗り気じゃないけど、せめて小さめのグラスにテキーラの原液を注いで結羽歌の前に出す。


「ほら、テキーラショットよ」

「ありがと...」


 結羽歌は未だに涙を浮かべながらグラスを眺め、暫くしたら一気に全て飲み干してしまった。


「琴実ちゃん...、もう一杯...!」

「えぇ...」


 結羽歌のいつも以上の飲みっぷりに若干引きながらも、同じものをもう一杯注ぐ。初っ端からエンジン全開の結羽歌を止めることも出来ず、私もどうしらいいのかわからなくなっていたけど、せめてもの話を聞くくらいはできる。


「ほら、同じのよ」

「......」


 既に顔が赤くなりつつある結羽歌だけど、グラスを握る手はまだ震えていない。まだ結羽歌にも話さなきゃいけない体力を残しているってとこかしら。


「ごめんね...」


 消えそうな声で、謝る結羽歌。別に謝ることでもないと思うけど、私のバイト先で酔っ払う未来を想定して言ったのかしらね。

 でも本当に辛いんだったら、無理してでも止めさせてもらうわよ。


「結局、何があったのよ」


 結羽歌の話だけじゃ簡潔に纏められてないから、せめてもの詳細を知らないと納得出来ないわよ。辛いのはわかるけど。


「う、うん」


 今度は一気に飲まないで、話していく内に水が欲しいって言ってくれて、テキーラと水を交互に飲みながら、結羽歌は少しずつ話してくれた。


 ・・・・・・・・・


「なるほどね...」

「......」


 2杯目のグラスが空になったから次の注文を待つけど、流石にもう...、


「ウーロンハイ、お願い...」

「......!」


 なんか、ちょっと安心した。


「良かった」

「な、何が...?」

「何でもいいわよ」


 言いたかったことを全て話してくれて、結羽歌の辛い想いもわかって、私も泣きそうになったけど、業務中お客様に情けない姿は見せれなかったから、後日結羽歌と一緒に飲んで色々話したいな。


「結羽歌は、よく頑張ったわよ」

「そう...、なのかな...?」

「誰かを好きになるのって、勇気いることだし、叶えられなくても叶えようとしたんだから、誰もあんたを責めたりなんかしないわよ。その男の子だって、結羽歌に好かれて嬉しかったはずよ」

「......」

「私のお願いって言ったら大袈裟かもしれないけど、切り替えも大事だから、自学のほうもバンドのほうも、これ以上引きずらないでほしいかしらね」

「琴実ちゃん...」

「一緒に授業受けてるんだったら、今まで通りに接すればいいのよ。私が言うのも何だけど、落ち込んだままだと返って逆効果だから、辛くても頑張んないとよね!」


 そう言いながらウーロンハイを結羽歌に渡し、自分の中でも優しいと思える声を掛ける。

 これで結羽歌が元気になれるかは正直微妙だけど、大事な友達が辛い顔しているのを見るのは、何か嫌。


「うん...、私、頑張りたい...」


 泣きながらウーロンハイを飲んで、決意を表す結羽歌。高校の時よりずっと強くなっていたけど、それでも弱くて、人一倍泣き虫な結羽歌。

 でも、嘘なんてないし、頑張りたいって気持ちが誰よりも強いのは私だってわかっている。私が一番わかっている。


「免許取れたら、一緒にドライブするわよ!結羽歌の運転でできる限り遠いとこまで行くんだから!」

「ふぇっ!」

「何よ、折角なんだから行けるとこまで行かないと面白くないじゃない」


 無理してでも、いつものノリで話しかける。

 きっと、それでいいのよ。どんなことがあっても私と結羽歌は一緒に居れる。私の大切な人とどこまでも...。


「私が、結羽歌を幸せにしてあげるんだから、覚悟しなさいよね」


 こんなこと言っていいのか、疑問かもしれなくても、結羽歌とどこまでも行きたい。

 もう二度と、あんな想いをしないためにも...。

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