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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第18章 九月、某、雨の匂い
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幸福、そんなものは...

 ***


 9月10日


 夏休みもあと2週間を切っている。また退屈な授業と忌々しい部会に追われる日々が始まるとなると、もうこの際永遠に夏休みだったらいいのになんて思ってしまう。

 そう思えるくらい、夏休みが楽しかったのかもしれない。音琶と過ごす時間がこの上なく幸福だったから...。


 そんな音琶が、明日からどんな日々を送ることになるか、俺はそれが心配で仕方がない。


「行くか...」


 風邪も治り、身体は思うように動く。これならまた捜し物を見つける旅に出かけることができるだろう。だから今日これからすることも、正解に辿り着く第一歩になることを願う。


 音琶はバイトで部屋に居ない。空になった部屋に鍵を掛け、アパートを後にする。歩いてそこまで時間の掛からない部室まで歩き、広いキャンバス内に入る。

 荷物はドラムスティックのみで、他の物は無い。全く持ってないというわけではないし、元々はある程度の個人機材は持っていた。それだけど...、


『お前は俺らと住んでる世界が違うんだよ』

『折角卒業するんだから、下手な奴と組んだら格好付かないからお前を利用しただけだ』

『上手いからって調子に乗るな』


 何で俺はあんな奴らがいる所に、3年間も居たのだろうと疑問に思うこともあった。だが、俺にはドラムという最高の相棒があったから、耐えられたし、何とかやっていけた。

 それでも、一度信じた直後に裏切られ、もう何もかも信じられなくなった。俺に必要なものは何も無く、ただ呼吸をしているだけの孤独な生き物。それが俺だと認識した途端、手放すことの出来なかったものまで邪魔な存在に変わり、俺の味方をしてくれるモノが一つ消えていった。その後も...、


「...ふざけんなよ」


 所詮昨日の茉弓先輩のLINEは、音琶や俺を利用しただけの行為だろう。鈴乃先輩が抜けてしまってはバンドの形が崩れるのは確実だが、他にもギタリストは居る。その中でも音琶を選んだということは、何か策があるとしか思えない。

 承諾しても、拒否しても、メリットはない。俺や音琶、結羽歌や琴実がしていることは間違ったことではないけど、あいつらの思う正には背く行為に相当するのだ。真っ先に察した、というより鈴乃先輩とのやり取りで気づいてしまった茉弓先輩は、まずは音琶を使って何かを企むつもりだろう。他の部員が恐らく気づいてないであろうことをだ。

 そんな茉弓先輩とは、今日の全体練習で会うことになっている。一応、鳴香に誘われて組むことになったバンドも20日の部内でのライブに出ることになってるからな。


 過去と現在、そして未来。良いことも悪いことも何もかも消えてしまえばいいのにと思っていた。それでも、俺には、大切だと思える、かけがえのない人が居る。だから、ここまで来ることが出来た。

 部室の扉を開ける。まだ誰も居ない、真っ暗な部屋の中に俺は足を踏み入れて一つ思い込む。


 掴み取るべき幸せなんて、そんなもの最初から存在してない。探したって見つからない。

 結局は、自己満足で感じ取るしかないってことをな。

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