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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第17章 或る街の日常
260/572

気掛、練習とリードと

 ***


 9月9日


 戸井茉弓:明後日までに送った曲のリード弾けるようにしておいてね!


 昨日茉弓先輩から受けたバンド勧誘。受け入れても断っても待ち受けているのは過酷な道だったのかもしれない。でも、どっちかを選ぶなら、受け入れる方がまだマシだ。夏音も結羽歌も琴実も、きっと守ってくれるから...。


 上川音琶:はい、頑張ります


 もう後戻りは出来ない、明後日には部室で全体練習することになっていて、それまでに3曲覚えておかないといけない。持ち曲は5曲あるみたいだけど、20日の部内だけのライブではLINEで送られてきた曲だけをするみたいだった。

 だとしても、これはちょっとどころじゃないくらい大変かな。何か上手く嵌められた感じがするし、いくらそこまで難しくない曲だとしても、たった二日で完成なんてできるのかな...。エフェクターとかだって、曲によって音作りが色々変わっちゃうし、ただ弾けるだけじゃダメなのに...。

 それに今日はバイトあるし...。


「夏音え...」


 泣きそうになりながらも、すっかり元気になった夏音に助けを求める。こんなことしている間にも練習できたかもしれないのに、今の私にはそんな余裕はなかった。


「......」


 夏音は考えるようにスマホを横画面にして眺めている。何か動画でも見ているのかな?


「ねえ...」


 黙ったままの夏音のスマホを覗き込むと、そこには多分ほとんどの人が知っているであろうスマホゲームの女の子が映っていた。どうやらゲームにログインしていたみたいだった。私の話も聞かずに一つ下の次元の女の子に夢中になってたんだ、へえ~。

 だから私はスマホを無理矢理取り上げ、夏音に言う。


「ちゃんと私の話聞いてた!?」

「話?」

「ちゃんと呼んだじゃん!ってか夏音は私とペ〇リーヌちゃんのどっちが大事なの!?」

「あ、いや、そりゃお前の方が大事だけど...」

「だったら、すぐに返事してよ!」


 病み上がりだからなのかはわからないけど、私の呼びかけに気づけてないのはちょっと重症かな?でも、夏音だって少しは現実逃避したい時だってあると思う。責めるのは申し訳ない気がするけど...、するけど!


「すまんかったな」

「もう、またイベント周回してたの?」

「まあ、そんなところだ」

「仕方ないんだから...」


 こう見えて夏音って結構アプリゲーム入れてるもんね。周回するのも大変だと思うけど、私の話もちゃんと聞いて欲しかったかな。


「すまん、ゲームは中断するから。どうしたんだよ」

「それが...」


 ようやく察してくれた夏音に茉弓先輩とのLINEを見せる。夏音は表情一つ変えずにスマホの画面を確認し、口を開く。


「...頑張るしかないよな」

「うん...」


 少し寂しそうな顔で、そう言っていた。


「明後日なんだよな、合わせるのって」

「そうだよ」

「そしたら、昨日言った通りに部室行ってやるよ。あくまで音琶の練習風景が見たいっていう体でな」

「うん...、ありがと」


 夏音だって複雑な想いを抱えているよね...。でも、敢えて文句一つ言わずに耐えている。耐えれなかったら、サークルから退くことになるかもしれないから...。

 鈴乃先輩はもうあの場所には居ない。今でも連絡が取れなくて、私達がこれからどうしたらいいかもわからないほど追い込まれている。だとしたら、これからは1年生である私達がどうにかして場を抑えなければいけなくなる。


「俺だって出来そうならサポートくらいは出来る。茉弓先輩から送られてきた曲のURL送ってくれたら、練習に付き合うことくらいできるしな。この前みたいに簡単なセッションくらいなら」

「...いいの?」

「逆にダメな理由がどこにあるってんだよ」

「あるわけ...、ないよね」


 そうだよね、夏音が私をどれだけ想ってくれてるかなんて周知の事実、疑いの目を向けるなんて以ての外、大切に思われてることを信じないでどうする私。


「そうだよ、俺は音琶のギターがもっと上に行くところを見たいんだよ」

「......」


 初めて会ったばかりの頃は、私の事を信じ切れてない感じだったのはよくわかっている。私だって必死だったし、周りが見えてなかった。でも、それが良い結果に繋がったのは、間違いではない。


「...とにかくだ、俺はお前のギターをもっと見たいし、こんな中途半端な所で終われない...」


 夏音もずっと考えてたんだな...。私のことも、自分のドラムのことも...。


「と、取りあえず、今日のライブハウス、バイト頑張れよ。練習なら、明日部室行って見てやるからな」

「うん!絶対に見てよね!」


 本心だった。これから、この先、どんな過酷な運命が待ち受けてるかもわからない私達。何かが起こる前に、せめて大切なものをなくしてしまわないように...。


 何があっても私達なら、乗り越えられると思っていた。この時までは...。

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