呼出、飲み屋の誘い
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本来は出勤するはずじゃなかった今日。だけど、音琶ちゃんが出れなくなって、教習が終わったらライブハウスに向かっていた。
オーナーから聞いた話によると、夏音君が風邪を引いて音琶ちゃんが看病するから急遽出れなくなったみたいな話だった。たまに夏音君と部室で会うことあったけど、無理しちゃったのかな。
そんなこんなでバイトが終わって、シャワー浴びたらすぐに寝ようと思ったんだけど、琴実ちゃんから連絡が来ていて繁華街にあるお店の位置情報が送られてきた。LINEからは『ここに来て』みたいな感じだったから、送られた場所の通りに目的地に向かうことにした。明日は特に何もないし、用事と言ったら部室に行くくらいだし...。
赤と黒の看板があって、マップの場所と一致することを確認したら扉を開けて中に入る。すると...、
「あ、結羽歌来たわね」
メイド服に身を包み、短めのツインテールにした琴実ちゃんがカウンターの前に立っていた。
「琴実ちゃん...?」
「いらっしゃいませ!カウンター座ってよ!」
「う、うん!」
普段と違う格好をした友達を認識するのは少し戸惑ったけど、ここでバイトしていたんだ...。今まで知らなかったから、隠してたのかもしれないけど、友達として来て欲しくなったのかな?
「何飲みたい?」
「えっと...」
疲れていたからお酒を飲むには絶好のタイミングだったかな。美味しいお酒飲んで、少しすっきりしたいし、琴実ちゃんと一緒に飲めるのは嬉しいことこの上ないし...。
メニューを眺めながら何を飲もうか決めていき、その中でも自分が一番好きそうなものを探す。
「レモンサワーで...!」
「かしこまりました!」
見慣れないメイド姿の琴実ちゃんは、私から注文を受けてすぐにグラスを用意し、氷を入れたらレモンサワーの原液と炭酸水を注いでいき、マドラーで混ぜたら私の前に出してきた。
「はい、レモンサワーよ」
「ありがと...」
何だかんだでお酒は久しぶりに飲むから、ちょっと新鮮かな。唐突に働くことになって、普段のサークルの予定だったり、ベースの練習だったりであんまり飲む機会なかったから、こうして飲めるのは楽しいかも。
「カラオケだってあるんだから、あんたの好きな歌、歌いなさいよね」
「うん...」
琴実ちゃん、恥ずかしいのかな...?自分から誘ってきたけど、抵抗あるのかな...?
そういう不器用なとこ、高校時代から変わってないな...。
「琴実ちゃん、いつの間にかバイトしてたんだね」
「そうよ、大体2ヶ月前からやってるけど、昨日とうとう奴らに見つかったのよ」
「奴ら...?」
そっか、私も琴実ちゃんがこんな感じのバイトしているの知らなかったし、部員の誰かにばれたのもあって、私に来て欲しいって思ったのかな...?
でも、別に隠す事じゃないと思うよ。だって、琴実ちゃんが作ったお酒、美味しいもん。
「あのバカップルよ、あんたもよく連んでるでしょ?」
「あ...、あの二人...」
「そ、どうしてこうもあんなに一緒に居れるのかしらね」
「二人とも、何だかんだ仲良いもんね」
「羨ましいけど、気味悪いくらいよ」
「あはは...」
琴実ちゃんは素直じゃないだけで、あの二人のことも人として大好きなんだもんね。嫌だったら、話題にもしないもんね。
「とにかく、基本私が出る時は連絡するから、結羽歌も余裕あったら来なさいよ。あいつらも誘うから」
「そうだね、私も、琴実ちゃんが出る時は、行きたいよ」
「良かった。そしたら、今日はいっぱい飲んできなさいよ」
「うん...!」
二日酔い...、にだけはならないように、先輩達みたいな人にはならないように、折角琴実ちゃんが私達の仲間になったんだから、琴実ちゃんの期待に応えたいかな。
「琴実ちゃんの髪型、可愛いね」
「そ、そう?このフリフリに合うかなって思ってこうしたんだけど...」
「似合ってるよ、私も短くだったらできるから、次からここ来るときは同じ髪型にしちゃおっかな」
「ヘアゴム持ってるから、私が結んであげよっか?」
「いいの?そしたらお願いしちゃおっかな」
「これくらい安いものよ」
そう言って琴実ちゃんは私の背後に廻り、内巻きボブの私の髪を優しく掴んで短めのツインテールにしてくれた。
「可愛いじゃないの。これでメイド服着たら完璧ね」
「も、もう...、私には合わないよ...」
鏡を見て、いつも以上に変わってしまった自分の容姿を眺めながら、私は恥ずかしさと共に照れくさくなって俯いてしまった。気分を紛らわすためにサワーを飲んで...、
「あんた、相変わらずね。二日酔いになっても知らないわよ」
「流石に歩いて帰るから、そこまでは飲まない予定だよ」
「ふーん、でも気をつけなさいよね」
それから私はデンモクとマイクをもらったから、夜にしか眠れないバンドの曲を選んで歌い出した。
こんな何気ない日常が、ずっと続いたらいいな。




