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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第17章 或る街の日常
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看病、何を買えばいいか

 モールに着いたものの、こうしてまともに一人で買い物することなんてほとんどなかったから、どうすればいいのか分からなくなっていた。買う物は決まっているけど、昼ご飯と夜ご飯の食材とか考えなきゃいけないし...。

 さっき冷蔵庫見た時はネギと申し分程度の野菜くらいしか入ってなかったから、レモンティーの素と生姜以外にも何か買った方がいいよね?


「えっと...」


 歩きスマホは危険だから自動ドアの前に置いてあるベンチに腰掛け、再び風邪に効く食べ物をスマホで調べることにした。お粥は作ったからそれ以外だと...、


「うどんくらいなら作れるかな...?ネギ入れるくらいなら出来なくもない...?」


 あとは果物かな、林檎とかバナナがいいみたいだから買っておこうかな、いくら甘い物苦手だからって言っても風邪に効くんなら無理してでも食べてもらわないと。

 生姜は少し多めに買って他の料理にも使おう、あとはヨーグルトがいいみたいだね。


「うーん、豚肉と卵も買おうかな」


 卵があれば色んな料理作れると思うし、夏音って多分卵好きだよね?今日は冷蔵庫に入ってなかったけど。米類はまだあるから買わなくて良し。調べるだけで割と時間掛かっちゃったけど、あとは買うだけだから早く戻って夏音を安心させないと!


 ・・・・・・・・・


 どうしよう...、どこに何があるのかとか全然分からなかったから迷っちゃった。元引きこもりは大変だな、ご飯だって作ってもらったり外食だったり、ほとんど自分から何かをすることはなかった。だから、一緒に居て当たり前だと思ってた人が突然居なくなると、どうすればいいのか分からなくなる。

 そうなってしまうとは思いたくなかったけど、現実は受け入れないといけない。泣いてばかりでは何も始まらない。ようやく自分の立場に気づけた私は、少しずつ変わっていこうと努力したし、その努力がいい結果に繋がったこともあった。

 今この瞬間だって、あまり経験の無いことをする良い機会だと思うし、私が頑張って大切な人の力になれるかもと考えると私まで嬉しくなる。まあ、結果が良くないとダメなんだけどね。


 何とかして買うべき食材を全部カゴに入れ終え、レジに向かう。やっぱりコンビニとかよりもこっちで買う方が安いから、距離よりも値段を優先した方がいいな。品揃えだってこっちの方がいいし...。

 生まれたときからこの街に住んでいるけど、まともに外に出れるようになったのは夏音と出会ってからだった。そもそも今こうしてちゃんと生活できるのが奇跡のようなものだし、今まで出会った、たった2人の大切な人が居なかったら今の私はここに居たのだろうかとすら思うこともある。


「お会計はこちらのセルフレジをお使い下さい」

「......」


 セルフレジ...?

 えっと、これ何?商品をバーコードでスキャンしたらお金払って終わりなんじゃないの?なんで私がこの良くわからない機械操作しなきゃいけないの?

 音楽以外では機械音痴だからどうすればいいのかわからないけど、画面に表示されてる手順に従えばいいのかな...?


「......」


 お札入れる所と、小銭入れる所、お釣りが出てくる所を確認して、現金払いを選択。お金を入れるように要求されたから確認した場所にそれぞれ投入していった。

 なんかこう、誰かに頼りすぎていたからいざ自分で何かするとなると、全然上手くいかないな...。何も出来なかったし、何もしようとしなかった過去の私が情けない...。外の世界のルールだって、曖昧なんだ。

 引きこもりって、治った後でも普通の人の生活に合わせなきゃいけないから、大変だな。社会に溶け込むって、こういうことなのかな。


 ***


 音琶が出かけてどれくらい経っただろうか。体感では1時間以上経っている気がするが、時計を確認するのも阻まれるくらい頭が重い。熱だってまだ引いてる感じはないし、起き上がるだけでもフラフラになる。


「......」


 にしても、まさかこの俺が風邪引くなんてな。割と健康的な生活はしてきたはずなのに、リズムが少しでも崩れると体調に影響するのかもしれない。

 ...やっぱり、闇雲に練習するのは良くないな。


 その時、鍵が開く音が聞こえ、聞き慣れた元気な声が部屋の中に響き渡った。


「ただいま~!」


 思わず起き上がりそうになったが、そんなことしたらまた怒られるだろうから我慢する。


「飲み物だけじゃなくて、身体に良さそうな食べ物買ってきたよ!」


 笑顔でエコ袋の中から食材を取り出し、俺に見せてくる音琶。こいつ、料理する気なのか?お粥くらいなら誰でも作れるだろうから任せたけど、うどんとかスープ類はどうなるかわからない。ましてや卵まで買ってるから何を作ろうとしているか想像出来ないものもあったりする。

 この前こいつに卵焼きの作り方教えたけど、お世辞にも上手く出来てるとは思えなかった。こいつ普段は学食行ってるみたいだし、まともに料理したことなんてないよな...?


「...作るのか?」

「うん!いつまでも夏音に頼るわけにもいかないからね!」

「......」


 本当は奴の隣で手伝ってやりたくて仕方がない。まともに包丁を扱えるかすら分からない音琶が一人で料理するなんて心配だ。心配だが...、


「くれぐれも包丁と火には気をつけろよ」

「うん!」


 それでも、俺のために頑張ってくれる少女の邪魔をすることは出来なかった。いくら時間が掛かっても、俺は音琶が作ってくれる料理が楽しみだし、一つ残さず食べてやるって決めた。


「楽しみにしててね」


 無邪気な笑顔を俺に向け、音琶は台所に向かっていった。どこまでも子供みたいで、不安定で、頼りなくて、一緒に居て安心できなくて、今すぐにでも抱きしめてやりたくなる奴だよな。

 そんな音琶が、自分から俺に何かしてあげようとしているのだから、止めることは出来なかった。

 ただ単に、止める体力すら残ってなかっただけかもしれないけどな。

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