看病、日々の疲れから
帰ってきた時には午前3時を過ぎていて、お互いシャワーを浴びたらすぐに眠りに就いた。一応俺も音琶もバイトがあるから最低限睡眠は取っておかないといけないのだが、前日にあんなことして大丈夫だったのだろうか。
とは言え、一日三食をモットーに生きているから、遅くても8時には起きて朝食を作りたいという願望はある。だから手で止めないと鳴ることをやめない目覚ましを取ろうとしてベッドから起き上がる。まだ眠気はあるが、音琶のためにも毎日の生活を貫かなくては...。
「......?」
目覚ましを止めた時、不意に頭に違和感を覚え、思わず右手で後頭部を押さえる。それでも違和感は消えず、むしろさっきより重くなっているような感覚が...、
次の瞬間、頭への猛烈な痛みと全身への気だるさが一気に襲いかかってきて、思わず俺はその場に踞った。
***
「あれ?」
何か今、大きな物音がしたような気がする。私の身体は目覚ましの音では起き上がることすら難しくなっていたけど、あまり聞かない類いの生活音や夏音のモーニングコールでなら起きれる自信はある。
壁に何かがぶつかったような音はミニテーブルを超えてすぐの所で聴こえたけど...。って、え!?
「な、夏音!?大丈夫!?」
壁に寄りかかりながら体育座りをして、両手で頭を押さえる夏音の姿がそこにはあった。苦しそうにしているから思わず飛び起きて夏音に近づく。
「...少し頭痛がな」
「いや、少しって次元じゃないよ!熱もある感じだし、横になりなよ!」
「ああ...、そうさせてもらう」
自分では起き上がれない夏音の肩を持って、私は夏音をベッドに移動させた。
・・・・・・・・・
「38度8分か...」
体温計で熱を測らせ、表示された数字が全てを物語っていた。すっかり弱ってしまった夏音は目付きが少しだけ良くなっていていつも以上に可愛くなってたけど、今はそれどころじゃない。
「すまんな、今日は飯作れねぇ...」
「ううん、いいんだよ。最近練習ばっかで無理してたんだよきっと」
ここ数日、夏音は絶対音感を探すために部室で練習漬けの日々を送っていた。練習時間を急激に増やしてしまったせいで体調を崩しちゃったのかな。それとも、昨日私と夜遅くに飲みに行ったのが良くなかったかな...?
ってことはまさか夏音が風邪をひいたのは、全部私のせい...!?
「そうかもな...、たかが練習程度で体調崩すなんて、俺がまだまだ何一つ取り戻せてない証拠かもな」
「そんなこと...」
「高校卒業してから大学入学まで全くやってなかったわけだし、時間のバランスが崩れたのが原因だ、多分」
「......」
夏音はどういったわけかわからないけど、一度ドラムを辞めている。あのライブがあった日の直後なのか、もうちょっと後なのか、まだその話は夏音から聞いてない。
あんなに上手くて、誰かの心を揺さぶれる演奏をしていた夏音が突然ドラムを辞めただなんて、再会した時はにわかに信じられなかった。でも、部室での演奏を聴いて確信してしまった。部室から僅かに聴こえてきた音色は、同じ人が奏でているとは思えないような...。
別に辞めた理由なんて知らなくたっていい。でも、過去に囚われて好きなことから背を向けるのはいいことではない。私はそんな夏音を見たくない。私だってこの先どうなるかわからないのに...。
「夏音は、一生懸命頑張っているよ」
「......」
「まだ取り戻せなくても、いつか必ず出来るって信じてる。だからさ、今はゆっくり休んでよ」
「いつか...、ね」
頭に濡れたタオルを乗せながら、夏音はどこか遠くを見るような目で返事をした。夏音にとっても思うところが沢山あって、悩みに悩んでいるのはわかる。でも、それをそのまま言葉に出さないで、心の内に隠している。
私の行動や発言だって、夏音が今こうなっている原因の一つなんだけど、責任を感じて謝るようなことはしない。謝るくらいなら、夏音が早く良くなるように何かしてあげなければならないし...。
「ね、朝ご飯何作ろうとしてたの?」
シリアスな話はしたくなから、さりげなく夏音が喜びそうな話を振る。
「お茶漬けにでもしようと思ってた。米はもうあるし」
「そっか、でも病人だからお粥にしようね」
「ああ...」
えっと、炊飯器の場所を確認して...。ってか私、普段全然料理しないからこういうのどうすればいいのかわかんないんだけど...。でも夏音を起こして操作させるわけにもいかないからちゃんとネットで調べて慎重に使おう。
取りあえず夏音の熱が引くまでちゃんと看病しないと...!大変かもしれないけど、夏音には感謝してもし切れないから、せめてもの恩返しとして付きっきりで一緒に居てあげよう!




