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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第17章 或る街の日常
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名前、由来はわからなくても

 9月7日


「それでさ~、夏音が私のメイド姿見たいって行ってて~」

「うわあ~、あんた本当にその顔から考えられないこというわよね」

「うるせえな、大体顔はそこまで悪くねえだろ」


 1時間ほど経過しただろうか、ほろ酔い状態になった音琶は琴実に対して俺の話をずっと持ちかけている。そんなに俺のことが好きなのはわかったから、少しは自重してくれてもいいんだからな。歌も歌ってたけどな。


「別に私は夏音の顔が悪いからって意味で言ったわけじゃないし、実際そう思ったことはないわよ」

「それは光栄だな」

「根暗でさえなければ普通に可愛い顔していると思うわよ」

「根暗で悪かったな」


 なんだよ可愛い顔って。茶化してんのか。


「そうそう!夏音って、笑えば今以上にかっこよくなると思うよ!」

「......」


 琴実の話に乗った音琶が桃サワーを飲みながら本当か冗談かよくわからないことを言っている。どこまで信じればいいのだか。


「そういう琴実だって、こんな服着てるけど恥ずかしくないのか?」

「何ムキになってんのよ、褒めたつもりだったのに。ま、嫌ならこれ以上言わない方がいいわよね。...この制服に関してはもう慣れたわよ、知り合いに見られるのは今日が初めてだったから少し抵抗あったけどね」

「はあ」


 いつもと違う髪型だし、こんなにも人の目を惹いてしまうような服を着るのはこいつにとっては新鮮なのだろう。まあ、こいつだって可愛くないわけではないしな。


「夏音、私という彼女がいるのに琴実の可愛いメイド姿に夢中になってるのはどういうことかな?」

「音琶...」

「そんなに気になるんだったら、1回夏音がメイド服着てみればいいじゃん!」

「...はあ!?」


 俺がメイド服って何の罰ゲームだよ...。いや、酔った勢いで言ったのかもしれないけど、だとしてもだ。


「だってだって、可愛い顔してるのはさっきも言ったけど、夏音って女の子みたいな名前してるし、髪も結べる長さだから、意外と似合うとおもうんだよ~」

「......」


 さっきからこいつらは何なんだ。別に女顔でもないと思うけどな、名前は別として。髪に関しては耳元と、首筋の半分にかかるくらいはあるし、前髪だって眉毛が隠れるくらいにはなっている。

 名前の方はというと...、正直この名前は誰が付けたのか分かってない。物心が付く前から呼ばれ続けてきたし、当たり前だと思ってたから嫌悪感はない。ただ、生みの親と育ての親が違うわけだし、最近までずっと隠されてきたことだから、どこまでが本当なのか奴らの言葉は信用していない。

 真実を知ったときはただ奴らに当たり散らすだけでまともに話を聞こうとしてなかった。冷静になれなかったのは色々抱えていたからというのもあるが、もしあの時話を聞いていれば俺という人間の何かがわかったのかもしれない。この名前だって誰が付けたのかとか、由来とかだって...。

 あんな嘘を付き続けてきた奴らの仕送りの金を今でも持ち歩いていることに嫌気は差すが、生きていくのに必要不可欠なものを手放せない辺り、俺はあいつらに申し訳ない気持ちを持っているのだろうか。それに関しても、よく分かってない、自分の事だというのに...。


「ん?お~い、夏音~、大丈夫?」

「あ......」


 また昔の事を考えて音琶達の話を聞いてなかった。なんか、久しぶりに考え事をしていたような気がする。


「そんなに自分の名前が嫌いなの?」

「別に...」

「ならいいけど、音琶がさっきから寂しそうにしてるんだから、彼氏として可愛がってあげなさいよ」

「ああ...」


 夏の音、俺は夏に生まれたことになっているからその漢字が使われるのはわかる。『音』に関しては、音琶と同じ漢字が入っていて、何と気持ちに表せばいいか困るくらいだが、これも何か理由があって付けられたのだろうか。

 だが、育ての親は音楽に関しては疎い。俺がドラムやりたいと言い出したときは本気で驚いていたし、何から手を付ければいいのかわかってないように見えた。だとしたら...、


「ねえ夏音~、メイド服着てくれないの~?」

「お前が先に着ろよ」

「私が着たら着てくれる?」

「なんでそうなる」


 ほろ酔いとは言え、いつも以上に絡んでくる音琶に対してどう接すればいいのか見えなくなりつつある。だが、これはこれで可愛いし...、

 いやその前に俺がメイド服着る未来を何とかして回避しないと意味がない。なんでこんな話になったんだよ本当に...。


「そもそも、俺に合うサイズなんてあんのかよ。女物なのに」

「夏音って何センチだっけ?」

「177だけど」

「すごい!私より15センチも大きいよ!」

「あのなあ...」


 だめだこの酔っ払い。たちが悪いわけではないが話がまともに成立しない。次から次へと話が変わっていくし、手の付けようが無いからこのまま好きにさせとくか。


「琴実は何センチだったっけ~?」

「私は...、155...」


 まあそんなもんか。見たまんまの身長だな。


「一応、結羽歌よりは5センチ高いことにはなってるけど、私はもうちょっとだけ、せめて160はいきたいかなって思ってるわよ...」

「毎日牛乳のも~!」

「もう飲んでるわよ...」

「あらぁ...」


 聞いてもないのに女子陣の身長がわかってしまったのだが。てか結羽歌って150いってたんだな。ギリギリだけどさ。


「でも、流石に結羽歌みたいに強がったりはしないわよ、例え160に満たなくてもね」

「どういうこと?」

「あのこ、実際は149.6センチなのよ。でも、四捨五入したら150だからどうのこうのって、身長の話になったら目の色変えて言うのよね」

「そっか、小さいって思われたくないんだね」

「まあ私も同じようなこと思ってるから気持ちはよく分かるんだけど」


 どうやらメイド服の話は終わったようだ。安心したから飲みかけのコーラを飲もうとしたとき...、


「ってか、結羽歌もメイド服めちゃくちゃ似合うと思うのよね~。ちょっとLINEしてみようかしら」

「お!いいね~」

「......」


 どうやら、俺の力ではこいつらの話を止めることは不可能に近いようだった。

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