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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第16章 不完全感覚Drummer
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来着、届いたモノ

 一昨日録音した音を何度も再生している。再生する度に溜息が出てしまいそうなくらいだったが、これも現実と向き合う良い機会だ、音琶に言われたことも受け止めないといけない。

 当の本人はついさっき届いたばかりの荷物に夢中になっていて録音に耳すら傾けてない。あれだけ言っておいて俺のやってることに興味を示さないなんて大したご身分だな。俺はカブトムシ以下ですかそうですか。


「おぉ~!ゼリーの中に顔突っ込んでるよ!」


 ケースの中で何かが起きているみたいだったが、正直はしゃがれると集中力が削がれる。


「おい音琶、こっちは真面目に録音聴いてるんだから静かにしてくれ」

「え?」

「いや、声でかいから」

「む、夏音は録音聴いて何かわかったのかな?もうかれこれ1時間は同じ事繰り返してるけど切り替えしようって思わないの?」

「はあ?」

「大事なことではあるけど、すぐにどうにかできることじゃなかったら、他の事して気分転換しなよ」

「......」


 まさに飴と鞭、さっきまで散々説教しといてよくそんなこと言えたものだな。勝手な奴だとは思いつつ、これが音琶の平常運転だからもう慣れたけどさ。


「折角カブトムシ届いたのに興味も示さないなんて、夏音らしいけどね。でも、無理しすぎはダメだよ」

「はいはい」

「わかったんなら、一緒に癒やされようよ」


 仕方ないから玄関前でしゃがんでいる音琶の隣に移動し、四つのケースを覗き込む。確かに雌の個体がゼリーに顔突っ込んでいて離れようとしてなかった。なんていうかこれ...、


「お前みたいだな」

「へっ?」

「いや、この雌、飯のことになると我を忘れてる所とかが音琶にそっくりだと思ってだな」

「私そんなんじゃないよ!?」

「どの口が言ってんだか」


 こいつ自己分析できないタイプだよな。それはそうと、結羽歌の家から送られてきたカブトムシ達は雄雌それぞれ4匹ずつで、それなりに大きいものだった。実羽歌のやつ、あの量本当にどうやって捕まえたんだか。


「それに、これは昆虫用のゼリーだからね!私が蒟蒻ゼリーに夢中になってたら話は別かもしれないけど」

「そういう意味で言ったわけじゃなくてだな...」


 もう無茶苦茶だが、これ以上話すと主旨がどんどん違う方向に行ってしまうから話題を変えることにした。と言っても、その話題も大した中身のある内容ではないんだけどな。


 ◈◈◈


「音琶ちゃん達に届いたかな」


 実羽歌と二人、浴室で温かいお湯に浸かりながらそう呟いた。明日には鳴成に帰っちゃうから、せめて最後にお姉ちゃんとお風呂入りたいっていう、実羽歌のささやかなお願いがあってのことだった。


「連絡全然なかったもんね、寝てるのかな?夏音君と一緒に」

「!!」


 一緒に寝てるから...、そう言えばTwitterのほうも今日はあんまり動いてない感じだったような...。


「お姉ちゃん、今えっちなこと考えてたでしょ?」

「え...?そんなこと、ない、かな...」

「もう、誤魔化さなくてもいいんだよ。私だって考えてたから」


 実羽歌って今彼氏いるのかな...?中学の時は居たけど、可愛いから学校では凄いモテてそうかな。でも、まだ実羽歌は子供なんだからあんまり変なことしてたらお姉ちゃんは心配だな。


「でも、みうにはどうしても気になることがあるんだよ」

「えっ、何?」

「音琶ちゃんって、夏音君のどういうとこが好きなのかな?って」

「うーん...」


 夏音君が音琶ちゃんのこと好きな理由は海の家で話した時に知ったけど、音琶ちゃんには同じこと聞いてない。何となくだけど、夏音君に聞いた方が面白いと思ったから優先したのはあるかな。


「夏音君が音琶ちゃんのこと好きなのは何となくわかる。ってか、音琶ちゃんってクラスで凄いモテてたと思うよ。多分彼氏も夏音君が最初じゃないと思う」

「みう、それはわかんないよ。それに、この前初めて会ったのにそんなすぐわかることなのかな」

「わかりやすいからわかるんだよ」

「そ、そうなんだ。でも、そう言うことは私以外に言わない方がいいかな」

「大丈夫、お姉ちゃん以外には言わないつもりだったから」

「そっか」


 でも確かに、音琶ちゃんは夏音君のどういうとこが好きなのかはちょっと疑問かな。琴実ちゃんだって同じようなこと前言ってたし...。


「夏音君って、目つき悪いし、ぶっきらぼうだったし、根暗でキモいし、みうだったら絶対好きになれないもん。感じ悪いし、第一印象最悪だし、顔は悪くないと思うけど表情のせいで思いっきり損してる感すごいし」

「みう...、一応私、夏音君と同じバンド組んでるんだけどな...」


 言いたい放題の実羽歌だったけど、気持ちが全くわからないわけではないから複雑だな。でも、夏音君だっていいとこいっぱいあると思うよ。素直じゃないだけで音琶ちゃんのこと凄い大切にしてるし、何だかんだ優しいもん。ベース弾き始めたばかりの私を遠回しだけど励ましてくれたし、同じクラスでもあるから内面とかよく知っている。


「お姉ちゃん、夏音君にいじめられてない?大丈夫?」

「そんなこと絶対ないよ。だって、夏音君、いい人だもん」

「えー?」

「人は第一印象が全てじゃないんだよ。見た目で決めるのは良くないかな」

「別に、見た目では決めてないんだけどな...。夏音君笑えばかっこいいと思うし...。うーん、なんだろな

この感じ」

「みうも、これから色々学んでいけばいいんだよ」

「みうそんな子供じゃないよ」

「大学生から見たら、高校生なんて子供なのです」

「ふ~ん」


 とは言ったけど、自分の胸に手を当てるとまだまだ未熟な点が私には幾つもある。実羽歌の前では強がってるけど、辛くて泣いてしまうこともよくあった。これからも、もしかしたら今まで以上に辛いことが待ち受けてるかもしれない。でも、その経験が私を強くするのなら、少しは大人に近づけるかな。


「お姉ちゃんも音琶ちゃんくらいの抜群のプロポーションがほしいんだね」

「あ...、いや、これは違くて...!」

「もう、誤魔化さなくていいんだよ。お姉ちゃん、人のこと言えないんじゃないかな」

「こればかりは...、否定出来ません...」


 こんな話をしていると、大人と子供の違いがなんなのか、わかんなくなっちゃうかな。もしかしたら、それがわかって初めて大人になれるのかもしれないね。

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