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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第16章 不完全感覚Drummer
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レコ、スリーピースのギター

 基本レコの間は私語が禁止されている。僅かな話し声でも音源の中に入ってしまうことがあるし、演奏の阻害になることもある。だから見守る時はただそこに立つだけになることだってあるし、余計なことはできない。


「すみません、もう大丈夫です。あと、ツマミ上げてもらっていいですか?」


 生意気なところはあるけど、挨拶はしっかりするし、このこは自分にも他人にも厳しいのかな?それだったらいいんだけど...。

 私が数歩下がったところでレコが再開し、ベースの音色が響き渡る。このこ、とても女子高校生とは思えないくらいパワフルな演奏するんだね...。まだギターが入ってないからどんな曲なのかは完全には把握できないけど、このままだとドラムよりも音が目立つことになるかもしれない。どのようにして音量の調整をするかはバンド次第だけど、バランス良く編集したいのは私も洋美さんも同じだとは思う。

 これに関しては演奏後にどんな要望が出てくるのかにもよるんだけど、レコというのは音感を上手く揃えないといけないから、下手に偏ったものにはしたくないと思う。本人次第なのかもしれないけどね。


「......」


 ベースの彼女は弾き終えると徐に自分の機材を片付けようとしていた。え、ちょっと待って...?


「ちょっと...!」

「どうしたんですか?」

「まだ20分以上残ってますよ...?」

「それなら大丈夫です。私のレコはこれで終わりで。今ので自分の演奏を全て出し切れましたし、これ以上良い演奏ができるとは思えないので」

「えぇ...」


 別に早めに切り上げることが禁止されているわけではない。時間効率を良くするために他のパートに時間を捧げるというやり方もあるけど、まずはそれ以前に!


「あのー、すみません。終わったときはまず最初に合図をお願いします」

「......」


 咄嗟に洋美さんがミキサーの音量をゼロにしたからシールドを外しても問題無かったけど、タイミングが少しでも遅れたらアンプが逝っていたかもしれない。なんて恐ろしい...。


「私の演奏に、何か不満でも?」

「そういうわけではなくて...」

「だったらどうして?」

「終わったら合図してくれないと、大変なことになるので」

「でも、準備も片付けも全て私がやるって言いましたので」

「......」


 どうしよう、会話が成り立たない...。こんなことしている間にも時間が過ぎていって、他のメンバーに与えられた時間が短くなっていくってのに...。いや、このこの演奏が短かったから押すことはまずないんだけどね。


「音琶」


 ミキサーから一旦離れた洋美さんは私の右肩に手を乗せ、優しく話しかけてきた。


「あとは私に任せて、取りあえず次のギターの準備お願いね」

「わ、わかりました!」


 ここは大人に任せて、私は後ろで控えているギターの彼女のところに行き、ステージまで連れ出す。その間洋美さんはベースの片付けを秒速で終わらせ、いつの間にかミキサーに戻っていた。ベースの彼女はというと、さっきと表情一つ変えずギターの彼女と入れ替わるように後ろに立っていた。あまりの作業の速さに驚くと共に、自分がまだまだだということを思い知らされて折れてしまいそうになったけど、仕事が続いている間は気にしてはいけない。

 それに、ギターは私の専門なんだし、ここは3年の経験を活かすチャンスだ。私だって伊達にギターを掻き鳴らしていたわけではないんだからね!


「そしたら、よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします...。あの、さっきはすみませんでした」


 このこはギターだけでなく、ボーカルのレコもするから前の2人より話す機会が得られている。でもまさか挨拶してから謝られるなんて思ってなかったから、他のメンバーよりはまともな感じなのかな?いやでも、ドラムのこは物静かな感じなだけで悪いこではなかったし、ベースの彼女が癖の強すぎるこだったせいでバンドの印象が少し変わって見えていたのかもしれない。


「あのこ、根は良いこなんです。ただ、ベースのことになると変なスイッチ入っちゃうだけで...」

「......」


 ベースのことになると変なスイッチが入る...、かぁ。何か私の周りにもそんな感じの人が約2名いるような気がしなくもないんだけど...。『ベーシストは変態』って言葉、割と本気にした方がいいかもしれないね。


「このバンドのリーダーとして、しっかり言っておきます...!」

「そ、そっか...。でも、私は大丈夫だからね」


 本当は仕事上敬語で話さないといけないんだけど、申し訳なさそうに謝ってくる女の子に堅苦しい言葉は使えなかった。洋美さんも親指を立ててるし、このライブハウスのルールを破ったわけではない。にしても、このこリーダーなんだね。もう少し堂々とした方がバンドの雰囲気良くなるかな。流石にそれは言えなかったけど。

 ZOOMのマルチエフェクターが置かれ、アンプに。エフェクターから伸びたシールドがSQUIERのストラトキャスターにそれぞれ繋げられて、ミキサーの準備が整ったら始まる。

 スリーピースのギターともなるとカッティングやリズムギターが目立つからストラトキャスターを選んだのかな、だとしたらこのこはギターのことよく調べた上で選んだのかもしれない。もしかしたらもう一本くらいリードギター用としてレスポールとか持ってたら面白いかも。

 別にギターの種類は演奏する本人が決めることだから、種類とかは人それぞれなんだけどね。


「準備完了です!よろしくお願いします!」


 ネックを持つ手とマイク越しの声が少し震えていたけど、ギターの彼女は合図を出し、3つ目の楽器のレコが始まった。

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