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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第16章 不完全感覚Drummer
237/572

大人、住んでる世界

 ***


 暫く休んでいたバイトだったけど、今日から再開。高校生バンドのレコという、普段はあまり出来ないことに挑戦することになった。それもまた楽しみで、ただ仕事をこなすだけじゃなくて自分自身の成長にも繋げていきたいと思っているし、夏音の音楽も変えていける手がかりが掴めるかもしれないということに期待していた。

 レコの知識はあんまり無いから、洋美さんの指示しっかり聞いて頑張ろう...!



「あの、洋美さんはお父さんのこといつから知ってたんですか?」

「ん?突然どうした」


 休憩時間、洋美さんと向かい合いながらずっと気になってたことを聞いていた。休憩時間と言ってもまかないを食べるだけの時間であって、食べるのに設けられてる時間は20分のみ。しかも食べ終わったらすぐに作業に戻らなければいけないから早めに済ませないといけない。だからこうした雑談をするときも手を止めてはいけない。


「いや、ちょっと気になって...。だって、初めて会ったとき和兄とお父さんの話してましたし...」

「鳴フェスで見てきたんでしょ?」

「一番前で夏音と一緒に見ました」

「そっか」


 和兄が教えたのかな?そうじゃないと変だよね?履歴書の保護者名...、ううん、お父さんは今まで本名で活動したことはなかった。だったら...、

 それから一呼吸置いて洋美さんは語り出す。


「和琶と初めて会う前から知ってたよ。だって私、旭と知り合いだし。和琶だって旭にそっくりだし、苗字で察したし」

「え...」


 そんな前から...?でも、別に不思議なことではないかな。


「旭だって有名になる前はここのライブハウス使ってたし、話したことだってある。今はもう居ないけどここで旭と対バンしていた人ならみんな知ってるよ」

「そんな、でもお父さんのことなんてネットとかでは...」

「知り合いがそんなこと書き込むと思う?個人情報を勝手に掲示板とかで書いてプロフィール公開、だなんてそんな勝手にプライバシーを侵害するようなこと。今の時代誰が書いたかなんて特定しようと思えば簡単にできちゃうのよ、それに旭が侵害だって言って訴えたら一発よそんなの」

「......」


 洋美さんも今、お父さんと自分との関係言ったような気もするけど、先に質問したの私だから本当のこと教えてあげてるだけって認識なのかな...?


「あんたらは子供、そして私達は大人。住んでる世界が違うのよ」

「......。そしたら、人気バンドの娘として、聞いてもいいですか?その、大人の世界ってのを」

「そうね、まず何から話したらいいものか...」


 洋美さんは口元に右手を当てながら考え込む。ほとんど会ったことのない人の話を聞くのは初めてだし、和兄だって知らないことは沢山あると思う。


「確か、和琶が生まれる前からだったかな?仕事しながら密かにバンドやってたのは」


 お父さんはこの時まだ21~23頃で、いつからドラムをしていたのかはわからないけど、既にプロ顔負けの演奏をしていたみたいだから、かなり昔からやってたんだろうな。

 その頃洋美さんはこのライブハウスに就職したばっかりで、上司に怒られながらも頑張っていただとか。


「あいつは自分のこと言いたがらなかったからね、私だって知ってることは少ないけど、大体その頃からここに来てライブしてたのは確かよ。レコだって頻繁にやっててCDもよくやってたわよ」

「そんなことまでしてたんですね」

「そりゃあ子育てもあるんだし、どうにかしてお金稼がなきゃいけなかったと思う。あの時はあそこまで這い上がるなんて思ってもなかったから、本当に報われてよかったよ」

「そうだったんですね...、教えてくれてありがとうございます」

「いいのいいの、あと言い忘れてたんだけど...」

「?」


 何だろう?和兄のことについて何か知ってたりなんて...、それはないか。


「LoMがメンバーの細かいプロフィール公開しないのは、旭が強く念を押してるからなんだよ。音琶も和琶も、自分がバンドマンの子供だってことに囚われないで成長して欲しいっていう、旭なりの不器用なやり方ね」

「......」

「ほんとに、あれから20年くらい経ってるけど、あいつは何も変わらないままなんだよね」


 あのバンドにそんな裏話があったなんて、私は何も知らなかった。ただお父さんがメンバーだからって理由で、病室のベッドの上で何となく聴き始めて、いつの間にか虜になっていた。

 どうして私の家にはお父さんもお母さんも居ないんだろうって、幼い私はいつも疑問に思っていた。和兄に聞いても、時々様子をみに来てくれる叔母さんも、はぐらかしながらでしか答えてくれなかった。でも、今となっては真実を私に教えて辛い想いをさせたくなかったからだってことはわかる。

 他の家とは違う事情を抱えていても、こうして生まれてきたことも、沢山の人と出会えたことも幸せに感じている。だから、今の自分は不幸だとは思わない。


「もうすぐ休憩終わるから、急いでね」

「あっ...!すみません」

「いいのよ」


 すっかり昔話に夢中になってたから時間を忘れていた。これからやらなければならないことを肝に銘じ、気持ちを切り替える。

 やるべきことはレコのサポート作業。頑張ってるバンドマンに最高の思い出を作ってあげるんだ。

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