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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第15章 Trouble Killing Party
233/572

同朋、変えていくために

 ***


 結羽歌からの依頼を終わらせ、あと2日か3日もすれば例の物が俺の部屋に届く。午後6時の電車に乗る予定を7時半のバスに変えたために、結羽歌の家を後にしても少しだけ時間が余っていた。


「バス停まで案内するよ」

「いいのかよ」

「うん、些細なことだけど、これくらいはさせて欲しいな」

「なら、そうさせてもらう」


 バス停までは歩いて15分くらいかかるらしい。鳴成市までのルートとして暫く海沿いを走ることになるようだが、暗いと海の青もよく見えないな。今はただ波の音が聞こえてくるだけだ。

 実羽歌は家の手伝いがあるからという理由で玄関前で分かれたが、結羽歌と琴実はそのまま付いてきている。歩いている間、音琶とは他愛の無い話をしていたが暫くして前を歩く二人が入ってきた。


「ねえ、二人とも...」


 神妙な顔つきで振り返り、立ち止まる結羽歌と琴実。さっきまでの楽しそうな表情と一変して、深刻なことに足を踏み入れる事態に発展する未来が見えた。どうせこの二人のことだから、俺らが知らない間に色々相談し合っているのだろう。特に実羽歌には知られないように。


「どうしたんだよ」

「...夏音君も、音琶ちゃんも、LINE見たよね...?」

「LINEって...」

「鳴フェスのあとのアレよ」


 人気の無い、波の音しか聞こえない暗い道路に四人の声が響く。ああ、アレってあれのことか。


「察したよ」

「あの時何があったかなんだけど、夏音君達も、鈴乃先輩と連絡取れない...、よね?」

「ああ、取れてねえよ。ブロックはされてないみたいだけどな」

「そっか...」


 俺の返答に悲しそうな表情をする結羽歌。そりゃそうだよな、あれほど良くしてもらって、本来なら知ってはいけない情報まで教えてくれた。少しでもあの人は俺らのことを応援していたのだ。

 そんな人が、目の前から姿を消した。連絡すら取れない。残された奴らがするべきことは何なのか。


「ってか、琴実に言って大丈夫なのかよ。一応口止めされてただろ」

「それなら心配に及ばないわよ。私は結羽歌の味方だし、あんたらバカ2人の敵になるつもりはないわ!」

「......」


 右手を胸に乗せて自慢げに話す琴実。こいつ、こういう空気でも相変わらずだな。


「それに、言っておくけど私だってあの状況には納得してないわよ。変えれるなら変えたいし、それが出来なかったらいつだって辞めてやるわよ」

「えっ...」

「あ...」


 琴実の『辞めてやる』という言葉に結羽歌が反応し、口を滑らせたのであろう琴実は慌てる。とは言っても、奴の言葉を否定するつもりはない。俺だって最初の部会の時点で辞めてやろうかと思ってたくらいだし。

 あの時引き下がってたら今の俺はここにはいないし、大切な人を見つけることが出来なかったかもしれない。だから、鈴乃先輩が果たせなかったことを実現させれば、もっと良くなると信じている。


「結羽歌、まずは琴実の話を聞いてやれ」

「うん...」


 心配そうに琴実を見つめる結羽歌。だが、それを気にせず琴実は続ける。


「まああれよ、これも私の性格の問題よね。あんな奴らに囲まれても今こうしてあんたらと共に居れるんだし、何かを途中で投げ出すのが嫌いなだけよ。でも、本当にどうしようもなかったら、諦めてもいいと思ってるだけ」

「琴実ちゃん...」

「それに、辞めたところでベース弾ける環境って限られるじゃない。スタジオ借りるとなると部費以上のお金がかかると思うわよ。部屋でやるのは物足りないし、隣から壁ドンされるし」

「......」


 それから数秒沈黙の時間が流れ、ふとバスのことを思い出した俺らは再び歩き出す。続きはバス停に着いたらだな。

 にしても琴実のやつ、初心者なりに色々調べているんだな。確かにあれだけアホみたいに部費を払わされたとしても、どこかのライブハウスでスタジオを頻繁に借りるとなるとそれなりの金がかかる。鳴成大のサークルで一番部費が高いと言っても過言ではないかもしれないが、一年間の合計を計算したらサークルに入っていた方が安いのは事実である。

 そもそも音楽やるとなると、楽器や何らかの機材を買う時点で相当金を溶かすことになるけどな。甘く見てると痛い目見るとはこのことを言う。


「ねえ、夏音は辞めたいって思ってる?」

「どうしてそんなこと聞く」


 バス停が奥の方に見えてきた時、音琶が不意にこう言った。可愛らしくも、消え入りそうな力の声で。


「だって、さっき琴実が...」

「音琶が居る間は、辞めるつもりはない。何今更心配してんだよ」

「...良かった」


 さっきまで楽しかったはずなのに、今は正反対の状況に陥っているのは無理もない。ここでなら知り合いも居ないだろうし、話しやすいのだろう。言いたいことは即座に言わないと余計に疲れるしな。


「音琶ちゃん、夏音君、ここで待ってれば大丈夫だから」

「うん、ありがと」

「すまんな」


 それから4人でベンチに座り、再び本題に入る。鳴フェス最終日に何があったのか、結羽歌が見てしまったもの、陰の圧力が働いていること、このままでは良くない未来しか見えないということ。まあ大体想像付いてたこともあったが、いざ事実を聞かされるといたたまれないものがある。


「どうしたらいいのかなって...」

「でもまあ、こうなった以上は今まで通りのことを続ける代わりに、一層対策を練らないと俺らの首も怪しいな」

「ところで、どうして茉弓先輩に勘付かれたのよ?夏音だってバンド組んでるんだし、ある程度のことは把握できるんじゃないの?」

「俺らが鈴乃先輩の部屋に入るとこ見られてたんだよ。それにあの人が俺を誘ったのは監視を兼ねてのことだろ。一応脅しみたいなのは受けたし、これからも色々尋問されるのは目に見えてる」

「なるほど...」

「今は何も解決法がないから残された3人でどうにかするしかないけどな」

「......」


 俺がそう言った途端、琴実は立ち上がり、目の前で仁王立ちをし始めた。俺何かまずいこと言ったか?


「ほんとバカね、私をいれて、4人でしょ?」

「...は?」


 海沿いだからか、奴のポニーテールが風とともに揺れている。腕を組み、強い口調で俺と音琶、結羽歌に言葉を放った。


「私はあんた達の味方なんだから!協力しないわけがないじゃないのよ。ほんとに、こんなこと言わせるんじゃないわよ...」


 そう言って、俯きながら頬を赤らめる琴実。残されたのは、3人とあと1人...、だったのか。いや、そうだったんだよな。


「琴実...!」

「琴実ちゃん...!」


 音琶と結羽歌が感嘆の声を漏らし、立ち上がる。そのはずみで音琶の上着から1枚のタオルがこぼれ落ちたが、なんでこいつ服の中にタオルなんて入れてたんだ?


「「あっ...」」


 音琶と琴実が同時に慌てふためいたが、どうしたんだ?このタオルと何か関係が...。


「......」


 ブツを拾い、音琶の方を見ると、胸元を押さえて恥ずかしがる奴の姿がそこにあった。これはまさかだとは思うが...、そのまさかだよな...?


「すまんな、見なかったことにする」


 俺はそれだけ言って後ろを向いた。背後から衣擦れの音が聞こえたが、俺は何も知らなかったことにする。

 何はともあれ、心強い仲間が居たことがわかり、俺は安心と共にまた何か大切な物を知ることができたような気がした。

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