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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第15章 Trouble Killing Party
232/572

貸借、帰る前に

 ***


 もうすぐ午後5時、空はオレンジ色に染まり、あと1時間ほどで太陽は沈んでしまう。楽しい時間はあっという間で、また一つ私にとって大切な日が幕を閉じる。あとは部屋に戻って残りの夏休みをうんと楽しまないとね...!


「音琶ちゃん、このあと時間ある?」

「このあと?」

「うん、ちょっと頼みたいことあって...」

「うーん...」


 このあと、か...。6時の電車乗る予定だから手短に済ませられる用事なら大丈夫だけど、あとは夏音次第かな?

 私達女子組は更衣室でシャワーを浴び終え、用意していた服に着替えながら結羽歌のお願いを聞く。


「6時の電車に間に合うんなら、大丈夫かな」

「あー...、移動距離考えると間に合わないかも...。でも、7時半だったかな。バスはあったはずだから...」

「夏音と相談してみるよ」

「そっか、ありがとね。バス停は私の家とそんなに遠くないから」


 そして鞄の中から替えの下着を取り出そうとして、私の手が止まる。あれ...?確か入れたはず...?

 ...いや、予め中に水着着てたから、入れてなかったか...。


「音琶ちゃん?」


 未だ水着姿のまま固まっている私に結羽歌が心配そうに話しかけてくる。当の結羽歌はもうすぐ着替え終わろうとしていたけど、ちゃんと用意すべきものは用意していたみたいだった。


「いや...、何でもない!先に行ってていいよ!」

「そっか、ゆっくりしてて大丈夫だからね」

「うん...」


 琴実は着替えるのが面倒だからか、水着の上に裾を結んだ白Tシャツを着ているだけで、下は水着のままだった。徒歩で帰れる距離なんだろうからこの格好でいいのかもしれないけど、私の場合は公共の交通機関を利用するからちゃんと服を着てないとまずい。

 実羽歌ちゃんに関してはちゃんと準備はしていたみたいで、着替え終わった結羽歌と共に外に出て行ってしまった。どうしよう...。


「さっきから水着姿のままだけど、どうしたのよ」

「はぅっ!」


 Tシャツでガードしているとはいえ、それなりに露出度の高い格好をしている琴実が話しかけてきた。一応これで着替えを済ませたつもりなんだろうからいつまで経っても着替えない私に違和感を覚えたのだろう。


「いや、ちょっと。海の余韻に浸りたいと思ってて...」

「別に隠さなくていいわよ。忘れたんでしょ?下着」

「...はい」


 遠慮無く言う琴実に対して嘘はつけなかった。


「替えの下着くらい貸してあげてもよかったけど、あんたとじゃサイズが合わないわよねぇ~」

「う、うん」


 嫌らしい目で私の胸を凝視する琴実。その前に解決法がほしいんだよ...。


「ちょっと待ってなさい」


 そう言うと琴実は鞄からタオルを取り出して私に差し出した。


「下はこの際仕方ないから自分で何とかしなさい。でも、これを胸に巻いとけば少しは良くなるでしょ?」

「あ、ありがと」

「礼には及ばないわよ、次会ったときにちゃんと返しなさいよね」

「うん...」


 荷物を纏めて更衣室を後にする琴実。琴実から受け取ったタオルを胸に巻き、外れないように何とか結び終えると、ようやく私は着替えを終えた。下は、もうどうしようもないからそのままズボンを履いた。持ってきた着替えがスカートじゃなくて本当に良かったと思えた。


 ・・・・・・・・・


 元の場所に戻ると、夏音も既に着替え終わっていた。結局私が一番遅かった。


「結構掛かったんだな」

「うん、ちょっとね。それで夏音、ちょっとお願いがあって...」


 何とか誤魔化しつつさっきの結羽歌のお願いを聞くために話題を変える。バスで帰っても大丈夫かも聞かないといけないしね。


「なるほどな」

「いいよね?」

「ちゃんと帰れるなら問題ない。それで、結羽歌の頼みってなんなんだ?」

「うん、それはね...」


 そして私達は15分ほど歩いて結羽歌の家の前に辿り着いた。両親がいるみたいだから簡単な挨拶を済ませて、二人のあとをついていく。何故か琴実は玄関の前で待機することになっているけど、その理由を知るのはまだ後の話である。

 案内された部屋に入ると、そこには大量の虫かごがあった。


「えっと、これは?」

「うん、実羽歌が大量に捕まえたカブトムシだよ」

「えっ、これ全部実羽歌ちゃんが捕まえたの!?」

「うん、そうなんだ...」


 私の問いに実羽歌ちゃんが恥ずかしそうに答える。これ全部で20匹は居るよね...?でもこれくらいの田舎町だとすぐに捕まえられるのかな?


「それでその...、もし良かったらなんだけど、音琶ちゃんに引き取ってもらえないかな?って...」

「みうがいっぱい捕まえちゃったから、お世話するの大変で...」

「そっか...」


 ケースの中を覗いて元気に動くカブトムシ達を見つめる私。よく見ると可愛いよね。


「ねえ夏音、どうする?私は大丈夫だけど...」

「......」


 私の隣でカブトムシを観察する夏音に相談する。私は全然いいんだけど、今は同居しているからお世話するとしたら夏音の部屋になっちゃうよね。どうしよっかな?夏休み終わったら自分の部屋で責任持ってお世話はしようと思うけど...。

 それから夏音は黙って結羽歌の方を向き、こう言った。


「俺と音琶、ふたカゴずつもらっていいか」

「...いいの?」

「別にこれくらいどうってことない」


 夏音がそう言うと結羽歌と実羽歌ちゃんは手を合わせて目を大きく開く。


「...お姉ちゃん!」

「うん!良かったよ!」

「それはともかくだが...」

「ん?」


 承諾はしたものの夏音はまだ疑問があるようで、二人に再び質問する。


「流石に今日持ち帰るのはきつい」

「あ、それは大丈夫。郵送させるから、あとでLINEとかで住所と電話番号教えてくれれば大丈夫だよ」

「ならいい」

「大体2日か3日後には届くからね」

「そしたらあとでLINEする、全部俺のとこに送ってもらっていいからな」

「音琶ちゃんの分は?」

「ああ、夏休みの間は一緒に住んでるからな」

「ふぇっ...!?」


 あっさりと一緒に住んでることを結羽歌と実羽歌ちゃんにバラす夏音だった。それはいいとして、昆虫のお世話って楽しそうだから、届くの心待ちにしてるからね。

 あとはバスに乗って鳴成市に帰るだけだね!

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