愛らしさ、少女と少年
昼飯も食い終わり、さっきの場所に戻る。戻ったのはいいのだが、結羽歌達三人も付いてきて、奴らの私物も俺と音琶の陣地に移動させていた。許可取った覚えは無いが、いつもよく一緒に居る奴らだし、文句を言うつもりはない。
時間は午後二時、電車の時間を考えると残り3時間くらいしかここに居れないのか。そう考えると少し物足りないような気がするが、楽しいことはすぐに終わってしまうのだ。せめて悔いの残らないようにしないとな。
「んっ!」
「......?」
シートの上に座っていると音琶も左隣に座ってきて、突然俺の腕を掴んで頬を膨らませていた。やや幼さの残る顔立ちに大きな瞳、長く伸びた髪に水色のリボン、柔らかい手。誰が見ても魅力的に感じる少女だろう、こんな奴の隣に居れることは幸せだと思っている。だが、今の音琶は少しばかり不機嫌なようだ。
「何か言うことあるんじゃないの?」
「言うこと?」
「あっちの方で遊んでる二人と、何話してたのさ。聞かせてよ」
結羽歌と琴実と話していたこと、それは音琶のどういうところが好きなのか、だったな。一応席はさほど遠くなかったから聞かれてても不思議ではない。音琶と実羽歌の会話も少しばかり聞こえてたからな。
今になって恥ずかしくなってきたのだが、これはさっきと同じ事こいつにも言えばいいのか...?
「聞いてたんだろ」
「...うん」
「ならわざわざ同じ事2回も言わなくていいだろ」
「ダメ。私にも言ってよ。私の目の前で言ってよ」
「あのなぁ...」
「言ってくれないと、一緒に遊んであげない」
「......」
本当に我儘な奴だな。結羽歌と琴実には言えたことをどうして本人の前では言わないのか、とでも思っているのだろう。言って欲しいなら、言わないといけないよな、こいつの願いはいくらでも叶えないといけないし。
「...今みたいに、音琶の隣に居れることが幸せだってあいつらに言ったんだよ」
「あとは?」
「音琶に会えた事が運命だって思ってるし、音琶のことを守り抜きたいって思ってもいる」
「......」
腕を掴んだまま、音琶は俺を見つめている。それから数秒見つめたままだった音琶は突如、身体を寄せてきて胸を俺の腕に当てた。
「なっ...!」
「運命かぁ...」
「いや、そのだな...」
腕に拡がる胸の感触と、さっき言ったことを思い出して二重で気まずくなる。それでも音琶はその手を離そうとしない。むしろさっきよりも近づいている。
「夏音も、変わったよね」
「お前からしたら俺は変わってるのかもしれないな」
「うん、変わってるよ。でもね、優しかった夏音がもっと優しくなってて、一緒に居ると安心するんだ」
「......」
「夏音から、本当のこと聞けて嬉しいよ」
「良かったな」
「うん、良かったよ!」
そう言って、音琶は俺に抱きつく。今までこいつに抱きつかれたことはあったが、こんな露出の多い姿で抱きつかれたのは初めてだ。俺から抱きついたことはあったけどな。
それはともかく、全身に音琶の素肌が密着してしまっては身動きがとれない。水色のビキニから覗く谷間も何もかも触れてしまっているが、頑なに自ら手を出そうとしないあたり俺は何も成長していない。
「大好きだよ」
耳元でそう囁いて、音琶はその場に両手を広げながら仰向けに寝転がった。呼吸と共に飯を食った直後でやや膨れ気味の腹が上下に動いている。さっき見ていたが、俺らの倍は食ってたよな。いつものことなんだけどな。
奴の腹に左手をのせると、多分胸と同じくらいの柔らかさがあった。胸に関しては直接手で触れたことはないが、どうもそれに関しては俺の中の理性によって止められている。
「もう、なにしてるの?」
「いや、こんな無防備に晒されてたら自然と手が出るもんでな」
「胸は頑なに触らないくせに」
「悪かったな」
「ううん、こんなにお腹出すことなかったから、ちょっと新鮮。涼しくて気持ちいいんだよ」
「思い切ったな」
「せっかくの海だもん」
満足げに雲一つ無い青空を眺める音琶。その表情を少し崩してやろうと思ったのは俺の出来心だ。俺は立ち上がり、辺り一面に敷き詰められている熱い砂を手で掬い、無防備な音琶の腹の上にのせた。
「どうだ」
「一気に暖かくなったね」
「風邪引かれても困るからな」
「そんなに心配?」
「...別に」
さっきから音琶の声や表情が色っぽい感じがするのだが、それは気にせずに奴の話を聞いてあげる。今はいつもの破天荒っぷりの面影はなかった。
「音琶ちゃん!夏音君!二人とも泳がないの~?」
海の方で波に対抗したりボールで遊んでいる実羽歌達が手を振りながら呼んでいた。いつまでもここでゆっくりするつもりはないから、あいつらに混ざってやるとするか。
「ううん、今行こうと思ってたところ!」
音琶が砂を払って立ち上がり、三人に返事をする。海に向かって走る音琶を見守りながら、俺はゆっくりと歩き出す。
合流した音琶はいつもの満面の笑顔に戻り、幼い子供のようにはしゃいでいた。本当に、可愛い奴め。




