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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第15章 Trouble Killing Party
227/572

海、少女と向かう先

 ***


 8月30日


 朝6時。今までこんなに早く起きたことがあっただろうか。上がりきってない瞼を覚ますべく顔を洗おうとして起き上がると、音琶が微かに寝息を立てているのが見えた。こういう日はいつも早起きな癖に、まだ寝てるとはな。

 音琶と同居できる期間はあと1ヶ月もない。その間はずっと同じベッドで隣り合って寝ていたが、俺はあと一歩踏み出すことが出来ないでいる。音琶が寝返りを打ったときは柔らかくて弾力のある身体が密着してしまって、睡眠どころではなくなったことも少なくない。もういっそ、こいつと一線を越えてしまってもいいのではないかと思っているものの、俺がそう言ったところで音琶が承諾してくれるとは思えないし、他に大事なことがあるわけだから、そっちの方を中途半端にするわけにもいかない。

 それはともかく、まずはこいつを起こさないと電車に乗り遅れてしまう。俺とどこかに行くことを何よりも楽しみにしている音琶のことだ、起こした途端に素早く着替えを済ませて部屋を出てしまうだろう。その前に昨日の夜作り置きしておいた朝食があるけどな。


「起きろ」

「んん~」


 僅かに寝返りを打ち、左手で俺の寝間着の裾を掴む音琶。目は閉じたままだが、起きてはいるようだ。寝返りを打ったせいで寝間着の隙間から豊かな胸の谷間が露出していて、俺としては早く起き上がって欲しいのだが。てかこいつ、寝るときいつもノーブラなのどうにかしてほしい。

 どうにかしてほしいから、無理矢理音琶の身体を起こそうとして両脇を抱える。昨日6時に起きるって自分から言っておいて俺より起きるのが遅いのは話が違うだろ。頼むから早く目を開けてくれ。


「んぅ、夏音...、おはよ」


 可愛らしい声を出してようやく音琶は目を覚ました。少しはだけた寝間着と右目を擦る仕草も可愛らしいが、少し急がないといけないからあまり見てる余裕もなかった。訂正、今のは言い訳だ、本当はあまりの音琶の可愛さに思わず視線を向けるのに抵抗があったのだ。


 ・・・・・・・・・


 何とか電車の時間に間に合い、西吹市へと向かう。電車なんて緑宴市から鳴成市に引っ越す時以来だが、音琶はどうなのだろう。最初から鳴成市出身なら旅行でもしない限り電車を使う機会なんてあまりないだろう。割と音琶はアウトドア派だろうから、珍しい物見てはしゃぐなんてことはないと思ってたが...。


「ねえ夏音!海見えてきたよ!」

「わかってるよ、電車の中は静かにしろよ」

「むう~、夏音はなんにもわかってないよ」

「何がだよ」

「あんなに綺麗な海が見えてるってのに、どうしてそんな素っ気ない反応するのさ!?」

「電車の中は静かにって、幼稚園の頃に教わったからな」

「だからって、何も喋らないのは違うと思うな」

「お前はもう少し自重しろよ...」


 てっきり静かにするか、寝るかのどっちかだと思ってたが、俺の判断が甘かったようだ。電車に乗る機会が多かれ少なかれこいつが起きている間は騒がしい以外の何物でもないのだな。


「......」

「別に俺の部屋で騒ぐなら構わない。でもな、ここは俺ら以外にも人がいるんだよ。そいつらの迷惑は考えないといけないだろ」

「む...」


 俺から軽い説教を受けた音琶は黙り込み、頬を膨らませて不満を露わにしていたが...、


「そうだよね、ごめんね」


 素直に謝っていた。今までなら言うこと聞かなかった音琶も、俺と関わってくことで心境に変化が現れたのだろうか。にしても、こいつ落ち込むと顔赤くなるよな。


 それから数十分経っただろうか、電車は目的地である西吹市に辿り着き、俺と音琶はホームに降りる。降りた瞬間、焼けるような熱気と日差しに襲われた。もうすぐ8月も終わるというのにこんなに暑いのは、地球という奇跡の惑星に異常事態が起こってるからなのだろう。

 でもまあ晴れてよかったし、こんなに暑いと海に入るのは絶好の日だから、結果的には悪いことではないだろう。それに...、


「夏音!何ボサッとしてるのさ!早く海行くよ!」


 リュックサックを背負った音琶が俺の前で今にも走り出しそうな動作をし、俺を誘導している。電車から降りたと思えばいつも通り騒がしくなる少女は、俺から考え事をさせる時間も与えてくれない。だが、そのおかげで俺は歩き出すことが出来る。


「そうだな、時間は有限って言うからな」

「それ私の言葉じゃん!」

「忘れるわけねえだろ」


 改札を通り、少し歩けば浜辺に辿り着く。休日で明後日には閉鎖されるからか、予想以上に人が多かった。海の家も混んでいて、昼飯を食べる頃には行列ができているだろう。


「着いた~!」


 石造りのの階段を駆け下り、音琶は先に行ってしまった。全く、転んで怪我でもしたらどうするつもりなのだか。俺も砂浜まで歩き、サンダルに履き替える。少しでも歩けば足の指の隙間に砂粒が入ってきて変な感触になったが、そんなこと気にしてたら音琶との時間を楽しめない。

 適当に空いている場所に立って手を振る音琶の元に行くと、音琶はリュックからシートを取り出し、その場に敷き始めた。その上にリュックを置き、座り込む。


「ここでいいよね?」

「いいぞ」


 万が一に備えてできるだけ人気の少ないところを選び、そのまま更衣室に向かうのかと思いきや、音琶は徐に服を脱ぎだした。


「ちょ...、お前ここで着替えるなよ!」

「え?」


 両腕を交差させて上着の裾をめくり上げた音琶の手が止まる。露わになった柔らかな肌に目を取られながらも、俺は奴に注意を促す。いくら俺の前だからって、こんな大勢の人が居る前で着替えを公開させるわけにもいかないだろ...。


「大丈夫だよ、ちゃんと中に着てきたから!」

「......」

「もう、夏音は心配性なんだから」

「うるせえな...」


 そう言いながら音琶は着ていた服を脱ぎ、露出の多い水着姿になった。まさかこいつ、替えの下着忘れてたりしないよな...?それはさておき...、


「何か言うことあるんじゃないの?」

「いや、それはな...」


 まずい、魅力的すぎて直視できねえ...。何度かこいつの素肌を見たことはあったものの、ここまで間近で見せられたことなんてなかったし、鳴フェスから帰った後のアレに関しては音琶が心配だったからそれどころではなかった。だが、今は違う。


「ちゃんと見て欲しいな」

「ああ...」

「ね、どう?似合ってるかな?」

「...似合いすぎて、直視できません...」

「だーかーら!ちゃんと見ないとダメだってば!」


 前屈みになりながら腰に手を当て、頬を膨らます音琶。だからだな、その体勢だとお前の豊満な二つの塊が上下左右に揺れるんだよ...。本当にどこ見ればいいんだか。


「極力見るようにします...」

「へえ~」

「てか、音琶と違って俺は中に着てないから着替えに行くからな」

「そうやって誤魔化すとこ、本当に変わってないんだから...。行ってらっしゃい」


 音琶から逃げるように俺は更衣室に向かった。目に毒とはまさにこのことだし、少しでも精神的に落ち着かせて、どうにかしなくては。

 もう少しで更衣室という時、右から走ってきた少女とぶつかった。まあこれは俺が考え事してて周りを見てなかったのが原因だから、謝って早く終わらせよう。


「あ、すいません」

「はぅっ!みうの方こそ、ごめんなさい!」


 ぶつかった少女は中学生くらいだろうか、白の水玉のワンピース型水着を着ていて、目元が誰かに似ているように見えた。その誰かが割と親しい人だったりすることがあるのだが、なかなか思い出せないものだったりする。


「いや、考え事してたんで...、っておい...」


 俺の話を聞く前に、少女はどこかに行ってしまった。


「誰に似てたんだ...?」


 ふと疑問に思ったが、まあいい。早いとこ着替えて音琶の元に戻るとしよう。

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