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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第15章 Trouble Killing Party
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余暇、雨の日の午前

 8月29日


 朝ご飯を食べたら実羽歌は学校、お父さんは仕事、お母さんも暫くしたらパートに行ってしまう。琴実ちゃんも帰っちゃった...。

 帰省したばっかりなのに、家に居るのは私とカブトムシ達だけなんて...。でも、実羽歌だって私が居なくなってからはこんなひとりぼっちの日々が続いていたんだよね...。でも、部活入ってるし、友達も多いみたいだからそんなことはないのかな...?

 ベースも鳴成に置いて行っちゃったし、テレビのニュースかYouTubeでベースの弾いてみた動画でも見てよっかな...。

 テレビを付けても今の時間だと政治のニュースか昨日のスポーツの結果ばっかりだし、バラエティについて取り上げるのはやってない。適当にチャンネルを変えても、駅伝だったりゴルフだったり、特に見たいと思えるような番組もやってない。

 普段だったらサークルにバイトに勉強、それ以外にも音琶ちゃん達と遊んだりしてたから、何もすることない休日って思ってたより退屈かな...。お昼は冷蔵庫にあるもの適当に使って食べていいって言われたけどそれまで結構時間あるし、本当に何して過ごそうかな...。雨も昨日ほどじゃないけど降ってるし、あんまり外に出る気分にもなれなかった。


 スマホを頼りに色んなサイトにサーフィンすることにしたけど、普段からよくネットを見ている私からしたら、特に真新しい記事とか興味深いものが見つかることもなかった。まだ1時間も経ってないのに、どうしよう...。高校の同級生でまともに話した人なんて、琴実ちゃん以外にいないし...。

 途方に暮れていたそんな時、スマホが着信画面に切り替わって振動を始めた。静かな部屋の中でいきなり音がしたからちょっと驚いちゃった...。琴実ちゃんからだ...!


「もしもしっ?」


 電話に出るとき、思わず声が上ずっちゃうのは私の悪い癖だ。目上の人からでなくてもこうなっちゃうし、直したいとは思ってるけど、どうも上手くいけない。


『2時間ぶりになっちゃうんだけど、今暇してるかしら?』

「う、うん。家に誰も居なくて、退屈してたよ」

『そう、ちょっと海岸沿いのバス停前で集合しようと思ってるんだけど...』

「いいよ、そしたら準備するね」

『焦らなくてもいいわよ。私だって今家で退屈してたところだから』

「そうだったんだ...」


 ふと外を見ると、さっきよりも小雨になっていた。夕方になれば晴れてるかな...?


『雨も降ってるし、ゆっくり行きましょ』

「うん...」


 それからちょっとして電話を終えて、私は外に出る準備をした。何か買うかもしれないから、財布持っていこうかな。


 ・・・・・・・・・


 私の家から海岸沿いのバス停までは歩いて15分くらいの所にある。そこには屋根付きのベンチがあって、すぐ正面からは明日遊ぶ予定の海が見える。

 目的地に着くと琴実ちゃんはもう着いていて、私を見つけると手を振ってくれた。傘を閉じてベンチに座ると、琴実ちゃんは畏まったように私に視線を向けている。


「話すとしたら今しかないと思って。ここなら誰も来ないでしょ?雨降ってるんだし」

「えっと...」

「鳴フェスの時言ったじゃない、結羽歌の話聞いてあげるって」

「あ...」

「何?まさか忘れてたの?全く仕方のないこね...」

「......」


 昨日実羽歌と再会して気持ちが緩くなっていたせいか、あの時のことを忘れかけていた。電車に乗る前は引きずってたのに...。


「鈴乃先輩がグループ抜けて、連絡も取れなくて、それってあんたと無関係ではないんでしょ?」

「...うん」


 察しの良い琴実ちゃんのことだから、ある程度何があったか予測していたみたいで、鳴フェス最終日のあの時から今まで考えてくれてたみたい。だから私も、琴実ちゃんの優しさを蔑ろにしないように、本当のことを全部教えた。


「......」

「やっぱり、私のせいだよね...」


 全て話した私の前で、腕を組んで考え込むような表情をする琴実ちゃんだったけど、ようやく出した言葉は私の想像を超えていた。


「あいつら、本当に馬鹿よね」

「えっ...?」


 あいつらって、先輩達のことだよね...?


「あいつらって言うと語弊があるかしら、今回は特に茉弓先輩ね。あの人にベース教えてもらったこと1回だけだけどあったのよね」

「そうだったんだ...」


 琴実ちゃんはいつも浩矢先輩に教えてもらってる印象あったけど、茉弓先輩にも見てもらってたんだ。その時に何か思うことがあったのかな...?


「基本みんなそうだけど、あの人特に何考えてるかわかんないのよね。裏の顔って言うのかしらね?底知れない恐怖を感じたからあんまり関わらないようにしてるのよね」

「......」

「てかあんた、今まで鈴乃先輩達と色々裏でやってたのね。それくらい私に相談してくれても良かったのに。茉弓先輩もまだバラさないって言ってるんならチャンスじゃないの?」

「鈴乃先輩から口止めされてて...、それに、その時はまだ琴実ちゃんとは...」

「あっ...、そうよね、悪かったわ...」

「ううん、いいんだよ。それに、鈴乃先輩がいなくなって、どうしたらいいかわかんなくなってたから...」

「......」


 話していく内に泣いちゃいそうになってたけど、我慢する。ここで泣いたら、私は弱いままだもん...。


「結羽歌はどうしたいのよ」

「私は...」

「あんただって色々思うことあるでしょ?それをどうしたいと思ってるのかしら」

「鈴乃先輩の言ってたことが正しいって思ってる...。確かにお酒飲んで良くしてもらえると楽になれるかもしれないけど、そんなの本当に私の事思ってくれてるわけじゃないし...。それに、今の現状は...」


 そう言ってく内に、また涙が止まらなくなっていた。どうしてなんだろう...、どうして私は、こんなにも弱虫なんだろう...。


「よしよし、あんたはよく頑張ったわよ。私はいつでも結羽歌の味方だからね。音琶と夏音のことだって、気に病むことなんてないわよ。あの二人にも、二人なりのやり方ってのがあるんだから」

「うん...」

「仮に茉弓先輩以外にバレたとしても、あの二人はあんたのせいだと思ったりしないわよ」

「うん...」


 琴実ちゃんは私の頭に手を置いて撫でてくれた。小さいその手から伝わる暖かさが、私の鉛色の気持ちを少しずつ楽にしてくれた。


「音琶と夏音にも言っていいわよ、鈴乃先輩の代わりに私が仲間になるってね」

「琴実ちゃん...」

「きっと大丈夫よ、みんなで力合わせれば辛いことも乗り越えていけるし、いつか最高のライブもできるわよ。だから、サークル辞めたいなんて言わないでほしいな、そしたら結羽歌と競い合えないじゃない」

「私も、本当は、ベース、もっと上手くなりたいもん...!折角やりたいこと見つかったのに、こんなとこで終わりたくないもん...!」

「よかった、安心したよ。話してくれて、ありがとうね。結羽歌も、辛かったね...」


 雨が降る中、私と琴実ちゃんは二人抱き合って泣いていた。これで何かが変わるかはまだわかんないけど、何もしないと変わることは絶対にない。だから、何か行動を起こさないといけない。このままじゃダメなことを、このままでいいやなんて思うのは、私は絶対に嫌だ。

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