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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第15章 Trouble Killing Party
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取引、妹からのお願い

 ◈◈◈


「琴実ちゃん、今日は泊まったら?」

「えっ?」

「本降りになってきてるし、傘差しても濡れちゃうと思うな。さっきお父さんとお母さんにも相談したんだけど、泊めても全然いいって」


 さっきよりも雨足は強くなっていて、窓からのぞくと斜めに降っていた。台風が近づいてるわけじゃないけど、夜にこの雨だとちょっと危ないよね...?


「そうね、お言葉に甘えて泊まらせてもらおうかしら。親には私から連絡しとくわよ」

「琴実ちゃんがうちに泊まるなんて、いつ以来かな。嬉しいな」

「もう、昔からの付き合いなんだから、珍しいことでもないじゃない」


 夜ご飯を食べ終わって、私は2階の部屋に行こうと階段を登る。この部屋は私と実羽歌の共同部屋になっていて、ベッドは部屋の左端と右端にある。一応来客用として真ん中に布団が敷けるから、琴実ちゃんにはそこで寝てもらおうかな。

 それにしても、さっきから実羽歌が何かいいたげにしているけど...。


「ねえお姉ちゃん...」

「ん?どうしたのかな?」

「部屋に入る前に確認したいんだけど...」

「......?」


 何かお願い事かな?実羽歌のお願いなら何でも聞いてあげれる自信はあるけど、何だろう...?


「部屋に入っても、驚かない?」

「え?うん。驚かないと思うけど...」


 と、その時、部屋の中から微かに鈍い音が聞こえた。何の音だろう...?


「どうしたの実羽歌、お姉ちゃん達に隠し事とは悪い子だな~」


 琴実ちゃんが実羽歌をからかってくれたからか、実羽歌は少し表情が和らいでいだ。琴実ちゃんの両手が実羽歌の肩に乗り、決心が付いた実羽歌は部屋のドアを開けた。


「実はね...」


 電気を付け、辺りを見渡すと懐かしい部屋が視界に拡がるはずだった。はずだったんだけど...。


「「!!」」


 そこに拡がる景色に私と琴実ちゃんは声にならない声で驚いた。


「えっと、これは...」

「実は、夏休みの間にいっぱい捕まえちゃって...」

「なるほど...」


 そこには20個くらいかな?大量のクリアケースがあった。中の4分の1くらいは土で埋め尽くされていて、あちこちに小さめの切り株が置かれていた。その周りにはカブトムシが歩き回ったり飛んだりしていた。

 実羽歌って小学生の頃から昆虫大好きだったもんね、高校生になってもその趣味は続けているんだ...。こんな田舎町だとカブトムシなんてすぐ見つかるんだろうな...。

 さっきの鈍い音はカブトムシが飛んでる音だったんだね。


「む、虫...!」

「琴実ちゃん?」


 透明のケースから見える雄雌バラバラのカブトムシを見た琴実ちゃんは私に抱きつきながら青ざめていた。あれ?まさか...。


「そういえば琴実ちゃん、私と遊ぶときはいっつも虫取りだけは避けてたもんね。まだトラウマなの?」

「そ、そうよ!大の苦手なんだもん!」


 実羽歌の質問に声を荒げて答える琴実ちゃん。琴実ちゃんにそんな弱点があったなんて...。ちょっと可愛いな。


「ま、まさかだと思うけど、この部屋で私も寝るのよね!?」

「そのつもりだったんだけど...」

「~~~!!」


 涙目になりながら私に抱きついたままの琴実ちゃん。実羽歌はそれを無視するように飼育ケースに近づき、蓋を開ける。


「あー、またエサ無くなってるよー。交換しなきゃ、ほんとみんなよく食べるなー」


 そう言って実羽歌は1階に降りていった。


「琴実ちゃん、まさかやっぱり帰るとか言わないよね?」

「そ、それは...」

「私、琴実ちゃんとお泊まりできるの嬉しいんだよ?それなのに、虫が苦手って理由だけでやっぱりやめるとか言わないよね?」

「ぐぬぬ...」


 悔しそうな顔する琴実ちゃんを見て、私の中の悪い子が目を覚ます。私も飼育ケースに近づき、さっき実羽歌が開けたのとは違うのを開ける。そこには雄と雌が一緒に入れられていて、2匹とも切り株の周りを歩き回っていた。その中から雄のカブトムシの角の部分を持って、琴実ちゃんに近づける。


「見てみて、可愛いよ?」

「や、やめなさいよっ...!結羽歌の方が可愛いから!」

「怖くないよー、ほらよく見てみて?」

「くぅ~~っ!」


 角を持たれて足をばたつかせるカブトムシを前に琴実ちゃんが弱ってる...、なんか可愛い、それに楽しい。そんなことしている間に昆虫ゼリーの入った袋を持った実羽歌が戻ってきて、私達そっちのけでカブトムシにエサを与えていた。


「それで、相談なんだけど...」

「う、うん...」

「ここにいるのは全部、捕まえてから1ヶ月経ってないんだ。だから、ちょっとだけでいいから引き取ってもらえないかな?って思って...」

「どれくらい引き取ってほしい?」

「えっと...、少なくても半分くらい...、かな...」

「......」


 実羽歌の言いたいことは分かったけど、この量の半分だとケース10個分だよね...。それはちょっと多すぎかな、せめて多くても3個分かな?

 琴実ちゃんは引き取ってくれるとは思わないけど...。


「半分は厳しいかな、私も忙しいから...」

「そうだよね...」

「高校の友達とかには相談したの?」

「みう、友達と昆虫採集してたから、みんな持ってるんだよ」

「そっか...」

「一番多く採れた人が勝ちってゲームもしたんだよ」

「......」


 実羽歌の友達ってみんなそういうの好きなの?もうちょっと女の子らしいことすればいいのに、なんて思ったけど、こんな田舎町じゃ難しいのかな。

 琴実ちゃんは除外するとして、音琶ちゃんや夏音君、鳴香ちゃんとかなら引き取ってくれたりするかな...?


「鳴成に戻るまで、大学の友達に引き取れないか連絡してみるね」

「ほんと!?」

「うん、いいよって言ってくれたらいいんだけどね」

「ううん、お姉ちゃんありがと!」

「私は雄と雌、3匹ずつもらうからね」


 私と実羽歌が話している間、琴実ちゃんは相変わらず震えたままだった。流石にこのままは良くないから、あることを提案する。


「琴実ちゃん、みう、今日は三人一緒のベッドで寝よっか」

「えっ?」


 私の提案に実羽歌が少し驚いてたけど、すぐに笑顔になって...、


「うん!二人のお姉ちゃんに囲まれて寝れるなんて、みうは幸せだよ!」

「琴実ちゃんも、それでいいよね?」


 さっきより少しは顔色が良くなった琴実ちゃんは、渋々ながらも頷いた。


「仕方ないわね...、別に、そうしてくれるなら、いいわよ...」

「やったあ!」


 無邪気な実羽歌は琴実ちゃんとも一緒に寝れることを心から喜んでいた。今まで三人で寝るなんてことなかったから、私も結構楽しみなんだ。

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