大雨、明後日まで晴れれば
「降ってきたわね...」
「うん...」
琴実ちゃんと台所に並んで夜ご飯を作っていると、窓の外から大きめの雨音が聞こえてきた。来る途中までは曇ってたからもしかしたら、なんて思ってたけど、案の定だった。
「ねえお姉ちゃん、明日は本降りだって。雷も来るみたいだよ」
「そうなんだ...」
ソファーに座りながら夕方のニュースを見ていた実羽歌は天気予報を教えてくれた。もし明日帰ることになってたら、電車動かなかったかもね...。
「ねえみう、明後日はどうだった?」
「予報だと快晴だって言ってたよ。それでももし降ったら日曜日に行こうね!」
「うん、そうしようね」
その時、玄関が開いてお父さんとお母さんが帰ってきた。私が帰ってくることは知ってたけど、二人とも私が実の娘だってことに気づくのに時間が掛かっていた。
なんか、別に二人には驚かせるつもりはなかったから、ちょっとだけショックでした...。
***
「やっぱり明日はやめるぞ」
「えっ!?」
午後6時、夜ご飯を作ってテーブルの上に置きだした夏音が唐突にそう言った。明日はやめるって、どういうこと?
「こんなに雨降ってんだし、予報も大雨だ。明後日から晴れるみたいだけど、シフトの方は大丈夫か?ってか、飯できたぞ、いい加減切り上げろ」
「もうちょっと待って!あと3個で100個なんだから!」
「四捨五入すれば100なんだし、もういいだろ。それに紙が勿体ないし」
「むう~」
「片付けてくれないと置けないだろ」
「はーい...」
頑張って作ったてるてる坊主をテーブルの上から除け、カーテンの上に括り付ける。全部で97個あるから一列で足りないけど、その分はもう一列ずつ付ければ大丈夫だね。
「バイトは大事を取って今月中は休み貰ってるよ、九月から頑張るんだから!」
両手を腰に当て、夏音の質問に答える。その間に夏音は、綺麗になったテーブルの上に次々と料理を置いていってるんだけど...。
「今日もカレー...?」
「贅沢言うな、今日は昨日と違ってチーズ入れてんだよ。隠し味はチョコだしな」
「そうだけど...」
「サラダもあるのだが」
「......」
いくら節約してるとはいえ、三日連続で同じメニューだと流石に飽きてしまう。夏音なりに工夫してるのはわかるけど、たまには違うのが食べたいな...。
「はあ、そんなことよりも大事な話があっただろ」
「うん...」
「そんな悲しそうな顔すんなよ、まだ行けなくなったわけじゃないんだからな」
「......」
事の発端は今日の夕方、丁度2時間ほど前の話...。
午後4時頃から雨が降ってきて、数分もしないうちに本降りになっていた。スマホの天気予報を見ると丁度低気圧が通過しているってことがわかった。その後テレビのニュース付けて、最新の天気予報だと明日は鳴成市だけでなく、西吹市や他の街が一日中雨みたいだった。天気予報のお姉さんは時々雷とか言っちゃってるし...。明後日からは晴れるみたいだけど、もしかしたら一日分ずれるかもしれないよね...。
夏音はそれを見て、電車が止まる可能性もあるし、明日は海どころじゃないと判断した。だから明後日に延ばそうって話になっていた。晴れることを祈ってつくった97個のてるてる坊主の効果を信じるしかないかな。
カレーを頬張りながら夏音の話を聞き、楽しみにしてた分ちょっと残念だけど、明後日まで我慢することにした。ちょっと辛かったけど、いつも通り美味しかった。
「平日だから混まないと思ったんだがな、これだとどうしようもねえよ」
「土曜日だから、誰かに会えたりして」
「あるかもな」
大学以外はもう学校が始まっているから、平日だと空いてるかな?なんて思ってたけど、結局土曜日に行く。これは決定事項だ。
待たなきゃいけないけど、待つのも楽しみの一つだよね?
・・・・・・・・・
夏音が先にシャワーを浴びることになって、私は用意していた鞄から袋を取り出した。その中には明後日着る水着が入っている。それを取り出し、目の前で広げてみる。夏音が見てない内に...。
「......」
人生で初めて買った水着...。中学校までのプールの授業は学校指定のものだったから、こうして自分で選んで買うのは初めてだった。しかも初めての水着がビキニタイプなんて...。
「夏音が見たら、何て言うんだろう...」
鳴フェス前に試着したのとはまた別の物だし、どうせまた胸ばっかり見てくるんだろうけど、違う種類だとまた違ったコメントが来るんじゃないかと密かに期待している私がいた。
鏡の前に立って、水着を身体の位置に合わせてみる。するとどうしてか恥ずかしくなって、赤面している自分の顔が映し出される。お腹は摘まめちゃうけど、試着したときはそんなに太ってるように見えなかったから、大丈夫...。だと思う。むしろ夏音はそういう所も好きになってくれたりなんて...、流石にそれは浮かれすぎかな。
その時、突如空が光って、間もない内に大きな轟音が外から響いた。その反動で部屋の中が少しだけ揺れ、私は思わず両手でおへそを隠す動作をしていた。
本当に明後日まで、晴れるよね...?てるてる坊主は、無駄にならないよね...?




