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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第14章 TRUSTiNG ME
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節約、遊び疲れた後に

 8月25日


 昨日の今日で疲れ切っていたはずなのに、どうしたわけか俺も音琶も目覚まし通り起きることが出来、再びいつもの日常が幕を開けようとしていた。していたのだが...、


「ねえ夏音、これはどういうことなのかな?」

「どういうこと、とは」

「どうして...!どうして朝ご飯が卵かけご飯だけなの!?いつもならもっとおかずあったじゃん!」

「あのなあ...」


 リビングの真ん中に位置するミニテーブルに置かれていたのは、申し訳程度の卵かけご飯のみ。いつもと全然違う食卓に音琶が不満の声を漏らしていた。こいつのことだからこうなるのは想定内だったけどもな。


「昨日一昨日でいくら金遣ったと思ってんだよ。本当なら朝食抜きにしたい所だが、それだと音琶が泣き喚くだろうから一日三食はやめれないんだよ」

「むう、それって私が悪いってこと?」

「そうかもな。でもまあ、栄養は摂って悪いことはねえし」


 何だかんだむくれながらも音琶は茶碗片手に卵かけご飯をかき込んでるし、こんな粗末な料理でもしっかり食べてくれる。しかも美味そうに。

 昨日のことはもう怒ってないみたいだし、あの後すぐにベッドに潜り込んでそのまま眠ってしまった。その間に夢をみていたのかは知らないが、音琶がずっと俺の腕にしがみついて離れようとしてなかった。だから俺も音琶を離すまいと、そっと肩を抱き寄せてやった。


「ごちそうさま!美味しかったよ!」

「そうかい、腹減ったら好きに間食して良いからな。自費になるけど」

「いいの!?」

「これだけだと足りないだろ、俺は耐えれるけど」

「そっか、ありがと」


 何かこいつ、前よりも可愛くなったか?いや、最初から可愛かったけど、色気づいたとでも言った方がいいのだろうか。


「ん?どしたの?」

「いや、別に...」

「いつもの嫌らしい目になってるよ?」

「なってねえよ...」


 ニヤニヤしながら問う音琶だったが、こう言った仕草も何か嫌らしい。俺の認識が変わったのかもしれないけど、こいつも女なのだ。初めて会ったときからいきなり馴れ馴れしく話しかけてきて何者だと思ったが、これも昨日の事と繋がっているし、真相を知ってからあの日を思い出すと、いかに音琶が必死だったのかがわかる。

 バンドマンを親に持つと、どういう生活になるのだろうか。結局音琶がどこに住んでるのかも分からず終いだが、LoMがデビューしてからを考えると一緒に過ごせる時間は限りなく短いだろう。

 とてもこいつがまともな家事できるとは思えないし、やっぱり今も誰かと暮らしているのは間違いなさそうだ。今は俺と暮らしているが夏休みの間だけだし、保護者と呼ぶべき人は許可しているのだろう。俺を部屋に呼ぼうとしないのも、保護者が居るから邪魔させるわけにもいかないと音琶なりに考えてるのかもしれない。


「とにかくだ、海だって行くんだし、これからまた稼がないと破産するだろ。バイトしてなかったらここまで贅沢出来ないんだからな」

「わかってるよ、そしたら予定決めちゃおっか」

「そうだな」


 茶碗と箸だけだったから、食器を洗い終わるのは一瞬だった。水道代も節約できるし一石二鳥と言うべきだろう。

 リビングに戻ってテレビを付けると、昨日の鳴フェスの様子がニュースになっていた。様々なバンドのステージが映し出されていて、どれほど盛り上がってたかが画面越しに伝わってくる。勿論LoMも特集されていて、昨日の感動を思い出させてもらった。


「お前の父さん映ってるぞ」

「うん」

「見なくていいのか?」


 自分の父親が映っているというのに、音琶は画面に視線を向けようとしていない。


「ちょっと、恥ずかしくて...」

「何だよそれ」

「私だってわかんないもん」

「全く...」


 そう言えば、音琶は父親に俺のことを言っているのだろうか。音琶のことだから俺と初めて出会ったときに『奇跡の出会いだ』みたいなこと言ってLINEしてそうだけど、流石にないか?


「予定、決めるんだったな」

「うん!」


 このまま微妙な雰囲気になるのもあれだし、8月中の予定は決めてしまうとするか。


「海はいつにするかだが、29日でいいか?」

「うん、大丈夫。えっと場所は、西吹市の海水浴場でいいんだよね?」

「一番近いとこはそこしかないからな。交通費も節約したいし」

「あと、まだ水着買えてないから、また付き合って貰ってもいい?」

「ああ、そしたら電車の時間だけど、朝イチじゃないと逃したら暫く無いし、早起きになるぞ」


 鳴成市は大都市だから行き先がどこであろうと多くの本数を設けている、というのは大きな間違いだ。西吹市は鳴成市とは比べものにならないくらい田舎町なわけで、俺の実家がある緑宴市よりも遥かに何も無い場所だ。


「一応言っておくが、オールは無しだからな」

「心がけても楽しみすぎて寝れないかも」

「寝ないとダメだからな」

「は、は~い」


 海の予定をある程度決めたから、あとはバイトか?と言ってもこれに関してはサークル活動が暫く無い以上特に心配する必要は無いか。するとしたら音琶のシフトの日にライブハウス行かなければいけないくらいで、そこまで難しく考える事ではないな。


「そしたら、今のことスマホのメモに書いておくからね!」

「ああ、頼む」


 そう言って音琶はスマホを取り出したが、画面を見た瞬間動作が止まっていた。


「どうしたんだよ」


 俺が聞いてもずっと黙っていて、何か衝撃を受けているようにも見えた。どうしたんだこいつ。


「な、夏音...、鈴乃先輩が...」

「鈴乃先輩がどうしたんだよ」


 声と手を震わせながら音琶はようやく口を開いた。本当にどうしたんだよ、しかも鈴乃先輩って...。


「グループ、退会してる...」


 ようやく開かれた奴の口からは、信じがたい言葉が放たれていた。


「......は?」


 信じがたいから俺もLINEを起動させて確認すると、『RINOが退会しました』という文字が一番下に書かれていた。日付的に今日の深夜には退会していて、見間違いとかではなった。

 だが、あの鈴乃先輩が俺らに何の連絡も無くサークルを辞めるなんてことがあるだろうか。鳴フェスの時に何かあったとしか思えない。

 すかさず音琶が鈴乃先輩に何度も電話を掛けていたが、一向に出る気配はなかった。


「何が、あったんだろう...」


 不安げな表情をする音琶だったが、俺も同じような顔をしていたのだろう。

 何はともあれ、味方をしてくれる人がまた一人、俺の前から居なくなったのであった。

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