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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第14章 TRUSTiNG ME
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正体、言葉を失うほどの

 全てが終わってしまった。始まる前は2日間なんて長すぎると思っていたのに、体感時間は遥かに短かった。

 『音楽』という言葉の意味を身体で感じ取って、忘れることなくこれから生きていく。俺がこの世界にいる意味を改めて実感し、俺は何一つ間違ってなかったと言えるようにはなれただろう。あんな短時間でヒトの感性に変化が訪れるなんて思ってもなかったことだが、人生何が起こるかなんて当の本人でも分からないのだ。


「終わっちゃったね...」

「ああ...」


 ステージの照明が消え、スタッフの誘導と会場の所々に設置された街灯の光を頼りに、俺と音琶は移動する。辺りを見渡すと、泥だらけの靴や派手に割れた腕時計が落ちている。中には落としたであろう所持品を探す人も居れば、諦めてそのまま帰る人も居る。

 幸い、俺も音琶も紛失物はなさそうだからそのまま歩き出したが、靴の中は湿った砂の感触がしたから少しばかり抵抗がある。これは帰ったらすぐに洗濯だな。


「夏音、楽しそうにしてたよね」

「まあな」

「私嬉しかったよ」

「お前がそう思ってくれたんなら、俺も嬉しいかもな」

「''かも''じゃないでしょ!本当は嬉しくてたまらないくせに」

「ああ、そうだよ。言わなくても音琶ならわかってくれると思ったんだよ」

「そっか。でも、少しは素直になれたんだね」

「...それはわからん」


 まだダメか...。自分の感情を心の内に留めておくことは出来ても、外に出すことはまだ出来てなかった。でもまあ、俺にも自分らしく何かを愛することができるのだな。


「もうちょっと待った方がいいかな?まだ先輩達居るかもしれないし」

「そう、だったな。忘れてた」

「もう、ライブに夢中になって大事なこと忘れるなんて、夏音らしくないぞ?」

「うるせえな...」

「とにかく!見つからないように様子見ないとね!」


 とは言っても、今が絶好のチャンスなのではないかと。人混みに紛れれば見つかることはないだろうし、待ち伏せされてたら元も子もない。結羽歌から来たLINEから、バス停に向かうまでに奴らがいるテントの近くに通りかかるのは避けられないし、ここは思い切って行ってしまった方が吉だろう。


「いや、もう行くぞ」

「え!?」

「こうして人が沢山居る内に出た方が安全なんだよ。迷ってる暇なんてないからな」

「あ、その方がいいかもね!そしたら行っちゃおっか!」

「はぐれんなよ」


 音琶から離れてしまわぬよう、右手で前を歩く奴の手を握る。右手一杯に音琶の温もりと柔らかい感触が拡がる。このまま指を絡めてしまいたいと思ったが、一応今は色々な意味で自分の身を守る場面だから我慢する。


「......」


 何変な感じになってんだよ...。こんなの恋人同士だったら当たり前のことだろうに、やり慣れてないせいでどうも落ち着かない。音琶も無言だし、何かを感じているのはわかってるものの、せめて何か言ってくれたらこっちも楽にはなれるのだが。


「も、もう。なにボーッとしてるの?早く行くよ!」


 手を握ってから数秒立ち止まってた俺を見て、音琶は顔を紅くしながらそう言った。我に返って歩き出したが、音琶が早歩きしてるせいで手が引っ張られて転びそうになった。

 何焦ってんだよ...。俺だってお前と同じ気持ちなんだからよ...。


 ・・・・・・・・・


 上手く人混みを利用し、陰に隠れるように俺と音琶はバス停に向かう。EAST STAGEからは大分離れた場所まで来たから、何とか切り抜けれたのかもしれない。キャンプ場も通り過ぎたし、あとは帰って眠るだけだろう。

 キャンプ場に向かう人とバス停に向かう人とで分散し出したから、さっきよりは人は少ない。それでも暫く並ばなければならなそうだし、その間に音琶と歓談でもしながら時間を潰す以外の選択肢は無い。


 時間は21時半を過ぎている。これからどれくらいの時間を並ばなければいけないかはわからないが、駅までの循環バスだから人が居なくなるまで運行はしている。とは言ったものの、バス一台で何人が乗れるか

を考えるとやはり相当の時間が掛かることは覚悟しないといけないかもな。

 他の並んでいる奴らは今日一日のエネルギーを使い果たしたのだろう、しゃがみ込む奴もいればスマホから目を離さない奴もいる。こんな夢のような時間を過ごしたのだから、明日から現実に引き戻されることを悲観する奴もいるだろう。

 音琶もその一人なのだろうか。終わった瞬間でも満足している感じだったから、思い残すことは何も無いかもな。当の音琶はスマホを必死に触りながら真剣な表情をしている。誰かとLINEでもしているのだろうか。


「何スマホに夢中になってんだよ」

「夢中にはなってないもん。ゲームのログイン忘れてただけだもん」

「へえ」


 画面と覗くとバトルフィールドが展開されていた。こいつも結構流行に乗るタイプだよな、俺もそのゲーム始めてフレンド登録してもらおうか?

 と思ったが、音琶はすぐにスマホを仕舞い、俺に何かを訴えかけようとしている。いつものあれだ、俺に話を聞いて欲しい時の表情だ。まあ音琶が何を言おうと俺は最後まで話を聞いて、奴の言葉を受け止めるって決めてるからな。例えどんな内容でも適当に済ませる気はない。


「どうしたんだよ」

「......」


 呼びかけても黙り込むだけで、特に何か突拍子も無いことが起こるわけでもなかった。


「言いたくないことなら無理して言わなくても大丈夫だからな」

「...待って」

「......?」


 小さい声で音琶は呟き、俯きながら上着の袖を掴む。緊張しているのか?だとしたら何故だ?


「あんまり大きい声では言えないから、びっくりするかもしれないけど、抑えてくれるなら、今言うよ」

「は、はあ...」


 こいつ何を企んでやがる。


「LoMのMC、ちゃんと聞いてたよね?」

「聞いてたぞ、何一つ聞き逃さずな」

「そしたら、家族が来てたって話も...」

「ああ、聞いてた。あれは確かドラムのAKIが言ってたよな」

「うん...」


 家族、と言ったら両親か、年齢からして結婚もしてるだろうから嫁か子供か、遠い親戚か、その中の誰かが来てたのだろう。メンバーが既婚者なのかも公表されてないからもしかしたら未婚なのかもしれないけど、親に関しては隠す必要ないよな?

 あまり好きな言葉ではないが、血の繋がった人間が自分の晴れ舞台に来てくれたら誰だって嬉しいのだろう。


 次の瞬間、音琶は俺の耳元で囁いた。考えることすらなかった、衝撃の一言を...。


「私のことなんだよ」


 一瞬何を言ってるのか理解できなかった。その言葉の意味がわかるまで思考が止まっていたし、聞き間違いなのかもしれないと、思った。

 だが、それは...、


「びっくりした...、よね?」

「......」


 驚かないわけがない。考えもつかなかったことを言われ、俺は言葉を失い立ち尽くしていた。

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