表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第14章 TRUSTiNG ME
217/572

存在証明、いつか巡り会える

 ***


 夏音が、泣いていた...。無表情で、ぶっきらぼうで、感情を無くした一匹の猫みたいになってたあの夏音が...。

 昔、夏音に何があったのかはわからないけど、あの音楽を目の前に感情を露わにしてしまうなんて、よっぽど好きなんだなって、思っちゃった...。きっとそれも夏音の過去と繋がってるんだよね...。大学で初めて会った時は『夏音に何があったのか知らないし、知る必要もない』って言っちゃったけど、あの時やっぱりちゃんと聞いておけば良かったかな...?そしたら、夏音がここまで追い込まれて泣いちゃうなんてこと、なかったかもしれないし...。

 さっきは我慢したけど、私だって思いっきり夏音の胸に飛び込んで泣いちゃいたい。一緒に泣けたら嬉しいし、ずっと見たかったライブへの気持ちを共有できることが幸せだった。だから、これが終わったら、夏音に5ヶ月前のことを、ちゃんと話そう。それが出来たら、私はこの先も夏音の隣に居て、やりたいことを何一つ取りこぼさずに...、

 少しでも、過去に囚われてないで、今この時を生きていかないとだよね...!


 もうセトリの半分以上は終わったかな、もうすぐ1時間くらい経つと思うけど、トリともなると他のバンドよりも長く時間が確保されていた。これまでに最近の曲も昔の曲も沢山やっていて、久しぶりに音楽で満たされた気持ちになった。やっぱり、私の演奏ってつまらないものだし、ギターを弾いていても満足に弾けた試しがなかった。まだ見つけられてないけど、四人はそれがわかっているから今こうしてステージに立っているんだよね...。

 上手いだけじゃだめなんだ、夏音にも散々言ってきたけど、私だって出来てない。みんな出来てない。だからこそ、やらなければいけないことが山ほどだ。まだまだやれる、こんな所で終われない。私のいくつもある願いは、まだ一つしか叶えられてないし、その願いも始まりにすぎないんだ。

 2回目のMCに入ったとき、四人は再びこのステージに立てたこと、長い間活動を続けられたのは毎回ライブに来てくれる人達のおかげだということ、そして、家族が来ていることを話してくれた。

 これだけのバンドでも、毎年鳴フェスに出演できるというわけではない。勿論スケジュールの都合とかもあると思うけど、どの予定を押し切ってでも毎年ここに立ちたいって思ってるはずだよ。


「嬉しいな...」


 思わず口に出していた。今の言葉の意味、夏音にはわかっちゃったかな。鋭い夏音のことだから、私が言わなくてもわかっちゃうかもね。でも、夏音だって私の想いに鈍感な所はあったし、気づかれてなかったり、するかな?

 夏音って、状況判断とか素早い所あるけど、私の気持ちに疎かったりする。敢えて本音を言ってないだけだよね?だって、私の事大切だって言ってくれたもん。分かってるけど、気づいてない振りしてるだけ。素直になれてないだけ。そんなのとっくにわかってるよ、わかってるよ...。


「ねえ夏音」

「どうしたんだよ、慰めにきてくれたのか?」

「それはさっきしたじゃん、本当に夏音は泣き虫さんなんだから」

「お前には言われたくねえよ」

「そうだったね、でもありがと」


 私も、夏音の前で何回泣いたかな。別に泣くことは恥ずかしいことじゃない。むしろ、自分の中にあったモヤモヤが吹き飛ぶ感じがして、気持ち良いくらいだ。

 我慢してたって、嫌なことが続くだけなんだもん。


「何がだよ...」

「何でもだよ!」


 夏音の反応から、さっきの言葉は聞いてなかったのか、気にも留めてなかったのか、何かを言及してくることはなかった。この段階で話すわけにもいかないし、とにかく今はライブの時間だから、それ以外のことはするつもりはない。

 まだ終わって欲しくないし、ずっと見ていたいけど、どうやらあと3曲しかないらしい。基本このフェスはアンコールがないから、トリのバンドでも終わりと言ったら本当に終わりだ。お客さん達は『あと3曲』という言葉に溜息を漏らしたり、『もっとやって!』とか大きな声で言ったりしている。もっとやってほしいという気持ちは同じだし、私も何か大声で叫びたかったけど、このバンドの前だとやり辛かった。


 いいよ、一番前で自分が居ることはちゃんと証明されてるんだし、目が合って無くてもきっとわかってくれてる。だって、私の事はずっと大切にしてくれてたんだもん。

 ある日突然、私達のために部屋を出て行って、今でも日本中を旅している。全然会えなくても、いつも連絡をもらったし、あれから一人ぼっちになった私を何より心配してくれた。

 だから、遠く離れててもちゃんと繋がってるし、どれもこれも、そして今、こうして巡り会っている。大丈夫だよね、きっと私がここに居ること、分かってるよね。だって、家族なんだから...。


 だから、大好きだよ、お父さん。

 会えて本当に、嬉しかったよ。

 最後まで、見てるからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ