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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第14章 TRUSTiNG ME
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願望、叶えられるのなら

「結羽歌と、琴実?」


 1曲目が終わって2曲目が始まり、再び会場に熱気が訪れた時、横から呼びかけられた感じがしたから声の聞こえた方に視線を向ける。


「淳詩、くん?」

「あらどうしたのよ、あんたLoM凄い好きとか言ってたのに前の方には行かないのね」

「ああ、それが...」


 さっきよりも数歩だけ前に出て、ステージのメンバーが少しでも近くで見れたら、なんて思ってしまうのはバンドマンの特権なのかもしれないかな。音琶ちゃん達の心配していた私だけど、私達もいつの間にか誰かに心配される立場になってたり...、なんて。

 メンバーの顔が微妙に見えるくらいの距離だけど、モニターのおかげで演奏の様子がよくわかる。活動が長いバンドの演奏を見てたら何となくわかってきたんだけど、ベースの弾き方とか音の出し方が他のバンドよりも貫禄がある感じがした。曲の間で素早くこまめにチューニングしていて、聴いてる身からしたら曲によって出す音の違いとかも、始めたばっかりの頃よりは理解できているとは思う。

 そしていつの間にか私達の近くに来ていた淳詩君はというと...。


「流石に怪我しちゃいそうだったから、スタッフ呼んで退場させてもらった。俺運ばれるのと同じタイミングでさ、気分悪くしてぐったりしてる人居て俺も他人事じゃないなって」

「そうだったんだ...。琴実ちゃん、やっぱり後ろに居て正解だったね」

「そうね、でも結羽歌だったらその小さな身体で身の安全は守れるんじゃない?」

「何言ってるのさ、琴実ちゃんだってそんなに大きくないくせに」

「あんたより5センチ背高いし、胸なんて比べものにならないじゃない」

「あの...、琴実さん?」

「はっ...!」


 琴実ちゃんは我に返り、僅かに頬を赤らめていた。男子の前で胸の話なんて、デリカシーないよね。淳詩君だって気まずい顔してるし...。それに今はそんな話する場面じゃないと思うかな。

 これでも琴実ちゃんと淳詩君、同じバンド組んでたんだから相手のこと少しはわかってると思うんだけど...。


「悪かったわよ...。さ、ライブちゃんと見ないと!」


 いつものペースで私達を巻き込もうとする琴実ちゃんだったけど、もうすぐ2曲目終わっちゃうよ。私の知らない曲だったけど、有名所は最後の方にやるのかな...?

 ファンの人って、セトリとか大体予測出来ちゃうみたいだけど、そういうのってライブ何回も行ってればわかってくるのかな?一番最初にやる曲とか、アンコールにやる曲なら私でも何となくだけど分かる気がしないこともないかな。現に一番好きなバンドがあるんだし、シングルとかアルバムの表題曲とかなら1曲目か最後の方にやってる印象がさっきのステージで感じられたし...。

 夏音君なら100曲以上あるLoMの曲の中で何が演奏されるのかとかわかる...、よね。今度会ったときに聞いてみようかな、ライブの疑問なら夏音君に聞くと何でも知ってそうだし...。


「なあ、結羽歌」


 不意に淳詩君から声を掛けられ、3曲目の始まったステージから一旦目を離す。基本誰かと話すときは目を合わせないとダメだよね、去年までは自分の性格のせいで出来なかったことだけど、いつの間にか怖くなくなっていた。今までと環境が変わると、人ってここまで変われるんだな...。

 淳詩君とは飲み会くらいでしか話したことなかったけど、PAとかドラムに対して一生懸命だし、私も見習いたいかな...。


「何?」

「結羽歌ってLoM好きだったの?」

「えっと...、そういうわけじゃないんだけど...。他のステージのバンドは知らないのしかなかったから...」

「そっか...」


 私の答えに淳詩君は少し残念そうにしてたけど、彼は続ける。


「でもさ、こういうのいいと思わない?フェスのトリ見れるなんてさ」

「うん、みんな格好良いよね...。私もあんな風に誰かを盛り上げたいかな...」

「だったらさ...、一緒にバンド組まない...?」

「え...?」

「いやほら、俺今バンド組めてないし、ちょっと焦ってるってのもあるんだよね...。同じ初心者として、もし良かったらなんだけど...」


 淳詩君にそう言われ、一瞬琴実ちゃんの方を見てしまったけど、琴実ちゃんは腕を上げて足踏みしながらライブを見ていた。今の会話は聞いてなかったみたいでちょっと安心したような、寂しいような...。

 でも、夏休みが始まったばかりの頃に琴実ちゃんとは『誰かとバンド組む』って約束したんだし、もしかしたら果たすことが出来るかもしれない...!

 ここは喜んで淳詩君のお願いを聞こう!何よりも、新しくバンド組めるなんて嬉しすぎてワクワクが止まらないよ!


「私、一緒にバンド、やりたいかな...。みんな新しいの組んでるのに、何もしないのは嫌だもん...」

「......!」


 私の答えに、淳詩君は思わず目を見開いていた。やっぱり、バンド組めるのは嬉しいし、これからのことを考えると楽しくなっちゃうよね...。私も、誘われて嬉しかったんだもん...!


「結羽歌ありがとう!一緒に頑張ろう!」

「う、うん!頑張るよ!」


 何の曲をやるのかとか、残りのメンバーは誰にするかとか、そういうのはまた後日決めることになると思うけど、今はとにかくバンド組めることへの喜びを噛みしめていた。もし出来るなら、LoMの曲とか、やってみたかったりするかも...。


「いつまで話してるのよ、ついさっきライブ集中しないとって私言ったわよね?」

「ご、ごめんね。ちょっと立て込んでて...」

「あ、ああ。結羽歌と割と大事な話してた...」


 予想外の出来事にライブのこと忘れかけてたけど、本来の目的を果たさないとね。

 相も変わらずメンバーの顔はちょっとしか見えないけど、手の動きや大まかなフォームは良く見えていた。そして琴実ちゃんは...、


「結羽歌もあれくらいの演奏しないといけないわよね」

「もう、それは琴実ちゃんにも言えることだと思うかな」

「これからバンド組むあんたからしたら、結構重要なことだと思うわよ?」

「!!」


 琴実ちゃん、さっきの会話聞いてたんだ...。


「期待してるから、あの人達の演奏しっかり見て勉強しないとね。これは第二の命令よ」

「う、うん!」


 琴実ちゃんとのこの関係、ずっと続けていきたいな。しっかりしないとだよね!

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