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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第14章 TRUSTiNG ME
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集中、目の前に映るモノ

「しっかり捕まってろよ音琶」

「夏音!?まさか盛り上がってくれるの?」

「さあどうだろうな」


 盛り上がることを忘れている俺だが、目の前のバンドに真摯に向き合うことならできる。


「ね、ねえ。肩掴まれてたら腕上げれないから、支えるなら腰周り抑えて欲しいかな」

「あ、ああ」


 そう言われたから一度左手を音琶の肩から腰に移動させる。こうすれば腕も上げれるだろ、俺も音琶も...。


「......」


 音琶の腰に辿り着いた瞬間、以前感じたことのある柔らかさが掌に拡がった。こいつを守ることばかり考えてたから、自分の理性なんてそっちのけにしていたのが良くなかった。これだと尚更ライブに集中出来なくなるし、ライブに関係ないことで頭がいっぱいになってしまう。

 仕方ない、これは音琶にも頑張って貰うしかないな。


「すまん、やっぱり自分の身は自分で守ってくれ」

「へっ?なんで?」

「こっちにも色々事情があるんだよ」

「何それ意味分かんない、でも夏音が言うならその通りにするよ」

「ああ、頼む」


 後のことを考えると実に正確な判断だったと思う。ライブは帰るまでがライブなのだから、例えLoMがステージから去ろうとも完全なる終わりではないのだ。しかもメンバーから俺らが見える場所で変なことはできなかった。

 手を音琶から離し、何とか柵の上に乗せれたら再びステージに視線を向ける。メンバーは全員とっくに四十を超しているというのに、年齢を感じさせない威圧感がある。いや、威圧感というのは年齢を重ねているからこそ感じられるのかもしれない。勿論若いバンドでも力強い演奏をしているのは数え切れないほどあるし、曲だけ聴いたら若さを感じさせないバンドだってある。

 それに、LoMは決して難しい曲をやっているわけではない。どの楽器も比較的簡単なものばかりで、本気でやれば初心者だって一曲完成するのにそんなに時間は掛からないだろう。それなのにここまで人を魅了させる演奏をしているわけだ。技術も大事だし、曲の難しさを売りにするバンドもあるが、それが全てではない。単純でも音楽の素晴らしさを伝えることはできるし、伝わることもできる。

 音楽で大事なのは何なのか。その問いに対する正解はないし、みんなが同じ答えを出すわけがない。ならば、やるべき事は何か。目の前のバンドはそれがわかってるからこうして人を惹きつけることが出来るだろう。

 音琶はさっきから大きな声で演奏に合わせて歌っている。よっぽど楽しいのだろう、でも胴上げだけはされるなよ、最前で胴上げなんてされたら間違いなくスタッフに引きずり出されるからな。つい数秒前に後ろから胴上げされた奴がそうされてたんだからな。頭に足当たったしさ、打ち所悪かったら怪我してたかもな。

 気をつけるように呼びかけようと思ったが、お歌の時間を邪魔するわけにはいかなかったからそのまま楽しませておくことにした。

 俺も、歌うことはできなくとも、音琶と同じように腕を上げるという行為はできていた。もうすぐ1曲目が終わる。それから2曲くらい続けた後にMCに入るのだろうな。


 ◈◈◈


「想像以上ね...」

「うん...」


 開場した瞬間、前に居た人達が一斉にステージに向かっていって、ぎゅうぎゅう詰めになっている。私と琴実ちゃんは動かなかったけど、他に居た先輩達は一緒になって前の方に進んでいったし、一瞬で姿が見えなくなった。

 幸い酔いはそこまで廻ってなかったら冷静な判断ができたけど、あの人達の中に紛れ込んだら怪我しちゃいそうだな...。琴実ちゃんも引いてるし、もう音楽どころじゃないなんてこと、ないよね?

 てか、音琶ちゃんと夏音君は大丈夫かな?最前に居るってLINE来たけど、いざ開演してこの盛り上がり方を見たら充分危ないと思うけど...。伝わらないけど言うよ音琶ちゃん、後ろが一番安全だよ。


「音琶と夏音のバカタレはちゃんと生きて帰れるのかしらね」

「あの二人なら無傷で生還できると思うけど...」

「それもそうね、心配した私が一番バカタレだったわ!」

「もう、何言ってるの?」

「思ったままのことよ。でも後ろからでも充分に楽しめるから、私達は平和に終わらせましょ」

「そうだね」


 琴実ちゃん、こういうときは割とまともな考え持ってるもんね。先輩達もあの喧噪に巻き込まれていったけど、私は静かにしてるからね。

 あ、だからと言って腕を上げないわけじゃないよ、ちゃんと曲に合わせて盛り上がろうとは思ってるよ。

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