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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第14章 TRUSTiNG ME
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ともだち、悩みを打ち明けられる

 夕方5時、この時間にもなると空の色が朱くなりつつあり、辺りの照明が光り出した。それでも会場の熱気はどんどん上がっていって止まらない。

 トリであるLoMの出番は夜の10時からだからそれまでには充分に時間があるが、この人混みだと移動するのもままならない。午前中にテントの中で体力を温存して夕方になったらライブに参戦する、そういったスタイルの人が沢山いるからこんな状況になっているのだろう。


「食べたらステージ行こ!」

「そうだな」

「LoMまでEAST STAGEで待機して、その間に3つもあれば前には行けるよね?あと食べ歩きでもいいよね?」

「好きにしろよ、通りすがりの参戦者達もそうしてるだろ。あとトイレも忘れるな」

「並ぶのに時間かかりそうなのは我慢するからね」


 大体ひとバンドに与えられている時間はリハ音作り含めて1時間半から2時間程度だ。リハ音作りの時間になると各ステージでは次のバンドを待つ奴らと別のステージに移動する奴らに分かれる。

 これから俺と音琶は待つ奴らになるのだが、同じ場所で立ちっぱなしで待機するのに耐えられるか怪しい。俺はともかく音琶はじっとしているのが嫌いな奴だし、待っている間に色々我儘を言ってきそうだ。冷える心配は無いだろうから今日が猛暑日だったのが不幸中の幸いか。

 どうせ前の方を確保できたら柵の手すりに寄りかかればいい話だし、暇なんてリハを見てればいくらでも潰せる。音琶は中身の無いことを話してくるだろうけど、それに付き合うのも立派な暇つぶしだしな。


「ねえねえ夏音!あそこの温玉ローストビーフ丼食べていい?待ち時間1時間半みたいだけど!」

「......」


 お前のさっきの我慢するって言葉はなんだったんだよ...。


 ◈◈◈


「結羽歌から私を呼び出すなんて珍しいわね」

「うん...」

「何かあったの?」

「さっきまで、鈴乃先輩と一緒だったんだけど、その、体調悪くなったからって言われて...。それで、一人で廻るのはちょっと...。だから...」


 きっとこの嘘も琴実ちゃんにはすぐにバレちゃうんだろうな...。でも、こんなことを誰かに言ったところ解決できるような問題じゃないと思うし、今の会話だって先輩達に聞かれたらって思うと...。

 琴実ちゃんは私の味方してくれると思うけど、どうしたらいいのかわかんなくなっちゃったよ...。


「そうよね、私もさっきまでずっと一人だったから退屈してたわよ。結羽歌は全然起きないし、鳴香と二人きりは御免だし」

「ごめんね、私がもっと早く起きてたら...」

「別にそんな気にすることないわよ。ただ誰かと廻った方がいいって思っただけ」

「......」


 私の嘘、気づいてないのかな...?でも、私すぐに顔に出るし、今までそのことについて琴実ちゃんはすぐに気づいてたし...。


「それに、結羽歌、元気ないみたいだから放っとけないし」

「......!」


 少し照れたように私から目を逸らす琴実ちゃん。1本に結んでいる髪を一度解き、整えたら結び直して琴実ちゃんは更に続ける。


「どうせまた何かあったんでしょ?何かあったらいつも私を頼ろうとするところ、高校の時と何も変わってないわね」

「琴実ちゃん...。あのね...」

「別に今話さなくてもいいわよ。どうせ人が居る所では話しづらい内容なんでしょ?」

「うん...」


 3年前から、琴実ちゃんは私の事なら何でもお見通しだった。私の抱えていること、悩み...。私が琴実ちゃんに相談しようとしたら、何があったのかをすぐに察してくれた。

 色々あったけど、弱い私を何度も助けてくれたのは琴実ちゃんだった。だから、自分でも何とかしたいって思ってるんだけど...。


「そんな悲しい顔しないの。フェスにそんな顔合わないわよ」

「でも...」

「今の間だけでもいいから忘れなさいよ。終わってからならいつでも悩めるでしょ?」

「......」


 ほんの数時間前の出来事を今の間だけ綺麗に忘れることなんて私にはできない...。そんなすぐに切り替えできる性格じゃないってことくらい私が一番良く分かってる。琴実ちゃんみたいに強いわけでもない。

 あんなサークルに関わることをしてしまって、鈴乃先輩の副部長としての権限すら失わせるような罪の発端は私なんだ...。罰を受けるのは、本当は私だけでいいんだ...。


「ほんとにしょうがない子ね。それで、いつ帰省するのよ」

「き、帰省!?」

「ここで話せないなら、私と二人だけで安全に話せるような場所で話しなさい。流石に帰省先まで先輩達が着いてくる、なんてことないでしょ?」

「う、うん...。28日頃...、には帰ろうかなって思ってるよ」

「そ、じゃあ私もその日に帰るわよ。同じ電車乗るから詳しい時間決めたら教えて」

「え...、いいの?」

「いいわよ、暫くサークル活動はないし、バイトもしてないし、遠くないから帰ろうと思えばいつでも帰れるし」

「ありがと...」

「その代わり!今の間は悩み事は忘れて、ライブ楽しみなさいよね!1秒でも悩み出したら相談に乗ってやらないんだから!」

「......!」


 折角琴実ちゃんが相談に乗ってくれるんだ...!言われたこと、ちゃんとしないと...!


「ほんとに、ありがとね」

「礼には及ばないわよ。あんたの悩み相談するのは私の役目なんだから」

「琴実ちゃん...」

「帰省したら実羽歌に会えるのね。ちゃんと勉強してるのかしらね」

「お昼頃電話掛かってきたんだけど、頑張ってるみたいだよ」

「私が来たら何て言うのかしらね。今から楽しみになってきた!」

「みうには内緒にしておくからね」

「うん!」


 これからあと何時間琴実ちゃんと居ることになるかわからないけど、大切な友達に言われた分嫌なことは一旦忘れて楽しむことにした。

 帰省したら、琴実ちゃんに全部話して、すっきりしよう。

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