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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第14章 TRUSTiNG ME
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脅迫、本当のことを言わなければ

 ◈◈◈


「やっぱりRefLectは最高でしたね」

「うん、にしても結羽歌があそこまで前に行くとは思わなかったよ」

「私、好きなバンドは積極的に行きますよ?」

「そうだよね、コピーしてるまでだからね」


 一番好きなバンドは一番前で見たい。きっとみんなそう思うよね?


「次は何見るの?私は何でもいいよ」

「鈴乃先輩?目当てのバンドとか無いんですか?」

「うん、私別にこれと言って絶対見たいっての無いからさ」

「そう、なんですね...」

「結羽歌の見たいのに付いてくよ」


「あれー、鈴乃と結羽歌じゃん。また会ったね」


「......」


 次見たいバンドは同じステージでやるから、このまま暫く待機することになる。そうして待っていたとき、正面から茉弓先輩が話しかけてきた。まるで私達がここに居ることを知っていたかのように。


「茉弓...」

「何その顔、なんか都合の悪いことでも?」

「別に、今は一人なんだと思って」

「浩矢先輩とは別行動なのだよ、後輩がコピーしているバンドとなれば是非とも本家を見たくなってだね」

「そう...」


 話し終えると、茉弓先輩の視線が鈴乃先輩から私に移った。


「どうだった?自分がコピーしているバンドの演奏は」

「どう...、ですか?えっと...、見ていて参考になることが多くて...、その、もっと頑張ろうって...」

「それだけ?」

「え...?」


 あれ?何かまずいこと、言っちゃったかな?


「折角本物見れて、自分のベースと比較して、色々得られたものあったはずだけど、本当にそれだけなの?」

「えっと...、みんなかっこよくて...」

「格好いいなんてこと誰だって言えるでしょ、それは音楽に触れてない人が言うこと。4ヶ月も触れてれば他にもっと感じることあるはずだけど?」

「......」

「まさか結羽歌、あんたただ楽器が出来ればいいとか思ってないよね?こんな機会を無駄にしていいと思ってるの?」

「そんな、こと...。私は...」


 どうしよう...。嫌だよ...。どうして、こんなこと言われなきゃいけないんだろう...。茉弓先輩からはベース教えて貰ったり、お世話になってるのに、どうしてこんな想いしなきゃいけないんだろう...。

 格好いいとかだけじゃ、ダメなのかな...。もっと何か、別の言葉使わないと、ダメなのかな?いつだって真面目に練習してきているのに。さっきだって、何も考えないで見ていたわけじゃないのに...。


「茉弓、あんた何が言いたいの?」


 黙り込んでしまった私を心配したのか、鈴乃先輩が割って入ってくれた。


「こんな場で後輩を困らせるなんて悪趣味にもほどがあると思うけど?」

「悪趣味、ねぇ...」


 鈴乃先輩に言われた茉弓先輩は不敵な笑みを浮かべ、小さく笑い出した。


「鈴乃達がしてることだって、なかなか悪趣味よねぇ...。私達を騙して何がしたいのかな?」

「何の、こと?」

「え...」


 思わず声を漏らしてしまった。さっきまでのはただの挑発だったのかもしれないけど、今の話は音楽の価値観とかとはまた違った次元の問題だよね。


「夏音と音琶、本当は居るんでしょ?」


 茉弓先輩は口角を上げて笑いながらそう言った。笑ってたけど、目の奥は笑ってなくて、私は背筋が凍る感覚を覚えた。


「...どういうこと?」

「あれ~、バレてないとでも思ってた?」

「私、知らないです、二人とは仲良いので。ライブ行けないのは、別に用事があるからって」

「私さ、結羽歌のこと割と理解してるんだけどな~。嘘ついたらすぐに顔に出るところとかさ」

「......」


 反論したいのに、次に出す言葉が見当たらない。どうしよう...、何か、見つけないと...。


「さっき二人が話してるとこ、全部聞いちゃったんだよね~。いつもと違って鈴乃は相談されなかったってことも知ってるんだから」

「今回に限っては何も聞いてないし、あの二人が今何してるのかなんて知らないわよ」


 鈴乃先輩の今の言葉を聞き逃さなかった茉弓先輩は、口の端を上げてこう言ってきた。


「''今回に限って''ね。嘘を吐けない人ってどうしてこんなに単純なのかしらね~」

「っ!」

「本当のこと吐いちゃいなよ~。楽になるよ~」


 どうしようどうしようどうしよう...。このままだと鈴乃先輩が...。でも私に出来ることって何があるんだろう...。何か、何か探さないと...!


「何も...、ないわよ」

「へぇ~」


 そう言うと茉弓先輩はスマホを取り出し、一つのファイルを開いた。


「「......!!」」


 音声が再生され、私と鈴乃先輩の声が聞こえてきた。周りのノイズのせいで全部は聞き取れないけど、大体何について話しているかは理解できる内容だった。


「本当のこと言わないとこの録音データ、グループLINEに載せちゃうよ?」

「それはダメ!!」


 時間までまだ余裕があるからか、周りに人はあまりいない。それをいいことに、次々と茉弓先輩は追い打ちをかけてくる。それを何とか止めようと、鈴乃先輩は反論してるけど上手くいかない。


「ふ~ん。まあ条件さえ呑んでくれれば載せないでいてあげるけど」

「そんな姑息な手には乗らないわよ。大体私は違うって言ってる」

「証拠が挙がってるのに違うなんてよく言えたことよね。あんたが面倒くさい性格だってことは前から知ってたけど、ここまでとはね」

「......」

「認めなよ、まだ百パーで載せるなんて言ってないんだから」


 こういう時だけ優しい口調になる茉弓先輩だったけど、私が思っていた茉弓先輩はこんな人じゃない。面倒見が良くて、優しい先輩だと思ってたのに...。

 夏音君が言ってたこと、本当だったんだ...。


「わかったわよ...」

「鈴乃先輩...」

「やっと認める気になったのね」


 鈴乃先輩が話し、情報を得られたことに満足したのか、茉弓先輩はしてやったりとでも言いそうな表情になった。そして私に視線を移し...。


「結羽歌も、これ以上サークルのマイナスになることに手を突っ込んじゃダメだからね」

「は、はい...」

「まさか、あの二人に今のこと言おうとしてないでしょうね」

「し、しないです...」

「言ったことがわかった瞬間、流石にどうなるかはわかってるだろうし、今回で自分がどれほどのことをしたのか理解したよね。そしたら今後は気をつけるようにね」


 私達から去ろうとした瞬間、もう一度振り返って茉弓先輩は最後にこう言った。


「分かってると思うけど鈴乃、あんたは今日をもって副部長の座から降りてもらうから」

「え...」

「こんなこと企んでる奴が幹部なんて任せられないんだよ~。理由は誤魔化して良いから今日中に部長に言いなさいよね。もし言わなかったら、あのデータ載せるからね~」


 そう言って、今度こそ茉弓先輩は去っていった。隣の鈴乃先輩は身体が震えていて、恐怖に怯えるような表情になっていた。

 またも何も出来なかった私は、話しかけることしか出来ずにいて...、


「あの...、鈴乃先輩...」

「ごめんね結羽歌、私ちょっとテントに戻ってる」

「あっ...」

「今のことは忘れて、ライブ最後まで楽しんで欲しいな。落ち込んだ結羽歌は見たくないから...」


 そして鈴乃先輩は逃げるように、私を避けるように、行ってしまった。これからまたライブ始まるのに、楽しめる気がしないよ...。それに、これからどうやって鈴乃先輩と顔を合わせればいいのかわかんなくなっちゃったよ...。

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