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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第14章 TRUSTiNG ME
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反射、本物と自分

 開演した途端観客共は数メートル程前に進んで歓声が沸き上がる。これはさっきからずっと繰り返されている光景だったが、後ろから見るとこいつらがいかに目の前のバンドを愛しているのかがわかる。隣に居たはずの音琶もいつの間にか前の方に移動しているわけだし。

 その場を一歩も動かなかった俺は周りの奴らからどう見えているのだろうな。


「夏音ー!」


 俺が居ないことに気づいた音琶が振り返って手を振ってきた。もう曲始まってんのに危ねえだろ全く。


「仕方ねえな...」


 自ら危険な地に行く意味も、こいつが教えてくれれば少しは理解できるのかもしれないな。昨日が散々だっただけに。


「もう、はぐれちゃったかと思ったよ」

「音琶ももう少し気持ち抑えた方がいいかもな」

「ダメだよ、折角のライブなんだから」

「はいはい」


 ステージでの演奏に集中を始める俺だが、正直な話RefLectというバンドは結羽歌がコピーしたいと言い出すまでよく知らなかった。

 名前こそ知っていたもののどんな曲をやっているのかとか、メンバーの名前とか、いつデビューしたのかとかは何一つわかっておらず、今だって有名所の曲しか知らない。結羽歌が言っていたのだが、コピーしたのはどれもかなり人気の曲らしい。

 腕を振り回す笑顔の音琶の口元は曲に合わせて歌っているようだったが、こいつ自分の演奏の参考にするとか言ってたよな。それについて忘れてなければいいのだが...。楽しむのも重要かもしれないけど、バンドマンである以上やらなければいけないことは貫き通してもらいたかったりする。


「......」


 腕を上げること無く1曲目が終わった。そのまま2曲目に繋げ、聞き慣れたギターサウンドが響き渡った。俺らがやったやつじゃねえかよ...。これは上手く比較しておかないとな。

 相変わらず音琶は何も気にせず腕を振るなり手を叩くなりしているが、自分が歌った曲であることに対する自覚はしているだろうな?

 まあいい、俺は俺なりのライブの楽しみ方ってものを実行してやるからな。別に音琶が俺と同じ事をしていなくても、俺一人がバンドに対する改善点を見つけることができればいいのだ。意見を言い合うことが出来なかったらそれはそれで残念だけどな。

 聴いた感じ俺らに圧倒的に足りないもの、それが何か。多分ライブをこんなことに全振りしている奴なんて俺くらいだろう。だが、そのおかげで少しずつ感覚を掴みつつある。

 ドラムの技術そのものについてはもの申すことは無さそうだし、技術面だけみれば俺の方が上手いだろう。ならその音に他の奴らがどう付いていくかが問題だろうか。その前に改善しなければいけない所は色々ありそうだが。

 この曲ってこんな遅かったっけ、と思ったのは無理もない。元々誰が原因で早くなってるのかとかはよく分からなくなっている。練習や本番での演奏の方を聴き慣れてしまったせいでいざ本物を見ると違和感が半端ない。どこかのリードギター野郎が暴走したせいで俺まで巻き込まれたと判断した方がいいと思う。

 本番だと焦りや緊張で走ってしまうことは誰にだってあるだろうし、誰だって通った道だろう。だが、経験を積んでいけばいずれは慣れる。俺だってこれだけ長い間音楽に触れていれば緊張というものは無くなりつつあった。

 緊張に関しては結羽歌が一番心配な所だろう。唯一初心者なのにここまでよく頑張ってきているし、日に日にベースの腕前が向上しているわけだ。きっと今も前の方で、ベーシストの近くで演奏に釘付けになっていることだろう。さほど難しい曲は無い感じだし、緊張にさえ勝てればもっと良くなるだろう。

 あとは弾き方だろうか。人それぞれ弾き方があるが、コピーしているバンドメンバーの弾き方を参考にするのが一番良いだろう。指遣いを少し変化させるだけで原曲の音により近づけることが出来るだろう。

 動画サイトに投稿されている数多の「弾いてみた動画」の演奏者も皆それぞれ違う弾き方だし、全く同じ演奏をする人間なんてこの世には一人も居ない。だが、近づけることは可能だ。今こうして本物を見ているわけだから、細かいところを見てみてどうすればいいかを個人的に考えてみればいいだろう。コピーするのだから、どれだけ再現できているかも重要なのだ。

 あとはボーカルか...。隣の音琶は相変わらずだからこのままにしてやろう。折角楽しんでいるのに水を差すのは申し訳ないからな。

 楽器を演奏しながら歌うということ。それがギターだろうがベースだろうがピアノだろうが難しいことに変わりはない。ただでさえ触れている楽器に集中しないといけないのに、声まで出すのだ。音程や速さ、声の大きさ、全てを調整するのは想像するよりずっと難しいことだ。

 それを任せられた音琶は自分の役割を全うすべくここまでやってきてくれた。当たり前のことではあるが、途中で投げ出す奴だっていないわけではない。だからこそ、今の段階を限界だと思って欲しくない。

 RefLectのボーカルの歌い方と音琶の歌い方を比較して分かったことだが、まず身体の動きに大きな差があった。音琶には動きが足りない。本物に対する再現率が圧倒的に低い。

 恐らく身体を大きく動かすことで呼吸のタイミングや肺活量の調整がしやすいのだろう。だから継続して本来の声が出せているわけだし、息切れすら感じられない。

 音琶に関してはギターの実力は底知れない力を持っているし、どれだけギターに触れていたのかを思わず知りたくなるほどの上手さだ。誰もを魅了することができる音琶の強みとして誇りに思ってもいいくらいだし、俺だってそんな奴とバンドを組めていることを誇りに思っている。

 だからだ、ボーカルとしてもギターと同じくらいの力を身につけて欲しい。そうすれば同期の中で、いや、サークルの中で最も優れた奴として認識されるだろうし、まだまだ伸びる可能性を秘めている。


 曲が終わるまでずっと考えていた。間違った楽しみ方でも構わない、コピー元のバンドの演奏を見て参考にするのも立派な勉強だ。批判したい奴は勝手にしてればいい。

 MCに入って再び歓声とともに指笛を鳴らす奴やメンバーの名前を叫ぶ奴が現れた。音琶もその中の一人だった。


「お前、見てたか?」


 楽しんでいる中申し訳ないが音琶に最低限の質問をする。2曲目に関する答えが気になるところだしな。


「うんっ!ちゃんと見てたよ!」

「そうか、ならいい」

「見てないわけないじゃん!夏音も真剣に見てたよね!」

「......!」


 こいつ、ずっとステージの方しか見ていないと思ったけど、俺の方も見てたのか。これだとまた腕上げろだの何だのってうるさく言われるのでは...。


「私もね、どうしたら良くなるかちょっとだけだけど考えてみたよ」

「音琶...」

「後で、話し合えたらいいね」


 ...そうだよな、自分が演奏した曲を目の前で見たんだ、意識しないわけがない。

 全く、そんな器用なことができるのだから、こいつがギタボを形作るのもそんなに時間は掛からなそうだな。

 音琶のことを信じ切っていると思っていたけども、まだまだだな俺...。

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