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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第14章 TRUSTiNG ME
200/572

視界、よく知っているバンド

 ***


 午後を過ぎ、相変わらず俺は音琶と同行していた。適当な考察をした所で全てが当たっているとも限らないわけだし、するだけ時間が勿体ない。だったらもっと他のことに頭を使うべきだ。


「えっと、次はWEST STAGEだよね。この時間からだと前の方行けるかな?」

「さっきの見てからだとそんな時間に余裕はないよな。取りあえず急ぐしか」

「そうだね!早く行こう!」

「おい待てよ」


 楽しみなのは分かるが、生憎の人だかりの中走ろうとするなんて馬鹿のすることだ。つまり音琶は馬鹿なのだが、元々常識知らずのこいつならやりそうなことだ。それに対する予習を怠った俺も充分に馬鹿だった。

 誰かとぶつかったり転んだりして怪我なんてされたら元も子もないわけだから、俺は無意識に奴の左手を掴んでいた。


「!!」

「あ...」


 後になって自分のしたことに気づいたがもう遅い。異様な光景が浮かんでいることには特に気にならなかったが、あくまで音琶のことを気遣っただけで思わず手を握ってしまうなんてな。


「ありがと」

「......」


 手を握られたことに気づき、振り返った音琶は頬を赤らめて笑顔でこう言った。いつもなら無邪気に大声で言う台詞のはずなのに、握った手は僅かに震えているように感じられた。

 まあ、こういうときもあるよな。


「周りの迷惑は考えな。別に俺は前じゃ無くてもいいから」

「それ、LoMの時だけは言っちゃだめだよ」

「そんなことくらいわかってる」

「良かった」


 さっきからずっと思ってたことだが、こいつLoMにそこまでの拘りがあったのだな。こいつの知らなかったことが新たに知れたのはいいことなのだが、これだけ長く一緒に居る時間があれば好きなバンドくらい遅くても2週間で把握できるんじゃないのか?

 何故今更なのかはわからないが、ただ単に俺が知ろうとしなかっただけなのかね。確かに出会った当初は音楽とは別の方向を向いていたわけだし、自分から音琶に聞かなかったのは自然かもしれないな。


「何とか間に合った~」

「もう前の方は難しいかもしれないけどな」

「うん、残念...」


 若干だが肩を落とす音琶。LoMほどではなくても、このバンドは俺らにとって思い入れが無いとも言えないしな。今現在コピーしているバンドだし。

 結羽歌が提案して練習することになった四ヶ月前が懐かしく思えた。嫌々音琶の後を付いていたはずなのに、俺が今こんな所にいるなんてあの時の自分に教えても絶対に信じないだろう。自分自身のことも信じられなかった人間のことだしな。


「まあいいだろ、近くで見れば見るほど自分たちの技術がまだまだだってこと分かって自信無くすよりは」

「夏音!」

「何そんなムキになってんだよ、別に音琶だけに対して言ったわけじゃねえからな」

「そ、そんなの...、わかってるけど...!」

「けど、なんだ?」

「...もう、本当に相変わらずなんだから」

「今後のためにも言っておいただけだ。どうだ、悔しいか?」

「それは、始まる前に言うことじゃないと思う...!でも、コピーしている以上ちゃんと参考にはするよ、言われなくても!」

「...そうかよ」


 どうやらライブを楽しむよりも大事なことに音琶は気づいていたみたいだ。俺がわざわざ言うまでもなかったな。

 にしても、このガールズバンド、RefLectの時間帯は注意が必要だ。俺と同じ考えを持っている部員が居てもおかしくない。サークル内でコピーしているバンドが存在している以上、バンドメンバーでなくても誰かしら見に来ている可能性は高い。

 俺らが居るのは本当に後ろの方、野次馬に踏まれる危険性が一切なく、周りをよく見渡せる場所だ。恐らく結羽歌は居る、ほぼ、というか確実に居る。いくら遠くても真ん中の列の手前くらいには居る。

 別に結羽歌一人だけならいいのだが、誰かと一緒に居たら面倒だからさっきまで見ていたバンドの閉演時間がRefLectの開演時間と近かったのが唯一の救いだ。10分でもずれていたら鉢合わせする可能性も否定できなかったからな。


「相変わらずの夏音にはこのライブを目一杯楽しんで貰わないとだね!」

「少しでも再現できるように追求することを楽しむから安心しろ。心配しなくても今この状況を楽しんでいる」

「もう!!」


 俺の返答を聞いた音琶は両手を腰に当て、頬を膨らませていた。この反応も何回見たことだろうか、何度見ても見飽きない。


「本当は楽しむことより部員の誰かに見つかるんじゃないかってソワソワしてるんでしょ?私にはわかるんだよ」

「何でだよ...」

「ふふーん、図星だったんだ~」

「うるせえな」

「ダメだぞ夏音、細かいこと気にしてたらライブ楽しめないんだからさ!」

「......」


 強がってんじゃねえよ、お前だってさっき手震えてたじゃねえかよ。本当はバレるのが怖くて自棄になってるってことくらい、俺だってわかってるんだからな。


「ほらほら!もう始まっちゃうよ!」


 音琶が言ったのと同時にステージでアナウンスが響き、4人組のガールズバンドが姿を現した。

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