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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第14章 TRUSTiNG ME
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迷惑、先輩に掛けるもの

 ◈◈◈


 何とか最初のバンドの時間には間に合って、ライブも楽しめたから昨日までの落ち込んだ気分を少しは回復できたと思っている。

 鈴乃先輩も付いてくれたし、安心感ってのもあったのかな。それとも好きなバンドのライブを間近で見れたことの嬉しさと楽しさが私の抱いていた感情を変えてくれたのかな。


「にしても、結羽歌って結構盛り上がるタイプだよね」

「えっ!?そうです、か?」

「うん、何か今までに見たことないくらい生き生きしてたし、腕も動かしてたし、楽しそうだったよ」

「そんな...、こと、ないです」

「もう、そんな恥ずかしがること無いんだよ」

「うぅ...」


 腕を動かしていた、なんて気づいてないよ...。普段はそんな性格じゃないのに、こんな所見られてたなんて、いくら鈴乃先輩でも恥ずかしいよ...。何とか気を紛らわせて、次のステージに向かわないと...!

 と思ってた時、私のお腹の虫が大きく鳴った。鈴乃先輩はおろか、周りの知らない人達にも聞こえるくらいの大きな音だったから、さっきのと二重で恥ずかしかった。もう、消えてしまいたいよ...。


「そいえば、私達朝ご飯まだだったよね。何か食べ物買おっか」

「は、はい...」


 我ながら顔が真っ赤だったと思う。鈴乃先輩にまた気を遣わせちゃったな...。それとも、私が勝手にそう思っているだけなのかな。


「そんなに恥ずかしがることないよ、私もお腹空いてるから」

「それなら...」

「何食べたい?奢るよ」

「そんな...、奢るなんて、悪いですよ...」

「遠慮しないの」

「でも...」


 これ以上迷惑を掛けるわけにはいかない、だから少しでも先輩の負担を減らそうと思っているのに、これだと借りを作ってばかりだよ...。

 私だって、ちゃんと今日のためにお金稼いでるんだし、これからもXYLOで頑張って接客してライブ盛り上げて、沢山のバンドしている人達に貢献したいって思ってるんだもん...。


「でもとか言わないの!結羽歌は少しネガティブだと思うよ!結羽歌が思っているより周りの人は悪く思っていないから!」

「す、すみません...」

「だから、そうやってすぐに謝る所がダメなんだよ。そもそも私はそんなに怒ってないし、結羽歌のこと嫌いとか全然思ってないからね」

「......」


 本当に、そうなのかな...。鈴乃先輩の言っていることは最もかもしれないけど、怒ってないわけがない。だって、さっきよりも口調が荒くなっているし、なんか否定された感じ...。


「周りの目を気にするのも悪いことじゃないけど、気にしすぎたら疲れちゃうよ。もっと気楽にいこ?」

「はい...」


「ちょっと鈴乃ー、後輩に負担掛けてどうするのよ~」


 私が返事をした直後、すぐ正面から浩矢先輩と一緒に歩く茉弓先輩の姿が映った。


「茉弓...」

「相変わらず鈴乃は不器用なんだから。後輩への接し方っていうのはこういうやり方なんだよ」


 そう言って茉弓先輩は素早く私の背後に回り、肩に手を置く。


「結羽歌~、何か困っていることない?」

「えっと...」

「遠慮無く先輩に聞いていいんだよ~」

「...わかりました」


 その場の空気に流された感じしかしなかったけど、困っていることは山ほどあるからいっそのこと全部話しちゃおう。少しは楽になるかもしれないから...。


 ・・・・・・・・・


「ふーん、なるほどね~」

「安直すぎる気もするけどな、今の1年はみんなこんな感じか」


 一通り話した私は、茉弓先輩と浩矢先輩の返答を真摯に聞いていた。


「あの...、私、どうやって人と関わっていけばいいか、わかんなくなって...」


 溢れそうな涙を堪えて私は言葉を放つ。隣で鈴乃先輩が不服そうな表情を浮かべているけど、やっぱり私が原因なのかな...。目を合わせるのも辛いよ...。


「結論から言うと、結羽歌は正直者なんだよね~」

「正直者...」

「嘘をつけない、隠し事をするのが苦手、そして思ったことをすぐに顔に出すってとこかな」

「......」


 茉弓先輩の言っていることは的を得ていた。今現在隠し事をしている最中だし、嘘をつこうとしてもすぐ顔に出てしまう。嘘も方便って言葉があるけど、その言葉さえ否定しまうかのように後ろめたさを感じてしまう。

 音琶ちゃんと夏音君のことも言ってしまえば楽になるのかもしれないけど、本当のことを言ってしまえば二人を裏切ることになってしまう。でも、嘘をつき続けるのも辛い。

 昨日から鈴乃先輩に負担を掛けていることも、鈴乃先輩は迷惑じゃないって言ってるけど、それは私に気を遣っているからで、本当は面倒に感じているのかもしれないと思うと辛かった。そのことに対する茉弓先輩の回答は...。


「鈴乃はお節介だな~、何を考えてるのかわかんないけど、こういう時ってそっとしておくのが一番良いと思うよ?結羽歌だって一人になりたい時ってあると思うしさ」

「ちょっと茉弓!?別に私はそこまでして...」

「鈴乃、ちょっと黙ってろ」

「は、はい...」


 反論しようとした鈴乃先輩の発言権が失われてしまった。これも私のせい...、私が悩んでいるから、巻き込んだ...。

 茉弓先輩の言ってることも間違ってないと思うけど、鈴乃先輩の考えも正しいと思う。どっちの言ってることを信じればいいんだろう...。

 確かに一人でいると楽になるかもしれない、でも、誰かが寄り添ってくれたら安心する。それと同時に更に負担を重ねることになるけど...。


「ま、結局は結羽歌がどうしたいかなんだけどね~。私としては悩んでいることは早めに解決した方がいいとは思うけど」


 悩んでいること、沢山あるけど一番の原因が何なのかはわかっている。でも、それを言ってしまったら...。


「あの...、私、一人で何とかできるので!これ以上私と関わるとみんなに迷惑掛けちゃうので!」


 そう言って私は一目散に走って行った。先輩達には申し訳ないけど、今の私にはこうする以外に方法がなかった。昨日あれだけ泣いて、もう大丈夫だと思ったのに、全然ダメだった...。

 何が正しくて何が間違っているのか、それって誰が決めた事なんだろう...。多数決で決まることなのかな?それとも偉い人が思っていることが尊重されるのかな?

 考えれば考えるほど正解から遠ざかっていって、私の脳内をぐちゃぐちゃに掻き乱していった。


「どうしたら、いいんだろう...」


 人の波が流れている中、私は一人立ち尽くしていた。その時、


「結羽歌!」


 後ろから鈴乃先輩に左腕を掴まれた。私を走りながら追いかけたのか息を切らしていた。


「さっきは、ごめん。でもね、これだけはわかってほしい」

「......」


 もうやめてよ...。私、辛いんだよ...。嫌なこと全部忘れちゃいたいよ...。


「後輩ってのは、先輩に迷惑掛けてもいいんだよ!先輩はその迷惑をちゃんと受け止めて、後輩を少しでも幸せにしなくちゃいけない使命があるの!だから、結羽歌は遠慮しないで私にどんどん迷惑掛けてよ!」

「......!」


 迷惑を掛けてもいい...?私が今までしてきたこと、それが迷惑であることは間違いないのに、悪いことじゃないって言いたいのかな...?


「大事な後輩を無視するなんてこと、私にはできない。茉弓は反対するかもしれないけど、放っておくなんてできないよ!」

「鈴乃先輩...」


 鈴乃先輩の眼差しを見て、本気であることがわかった。それに、私のことが大切なのも、嘘じゃない。

 嬉しいか、嬉しくないか。そんなの嬉しいに決まっている。否定されていると思っていたけど、そんなことはない。


「あのっ!私、実は...」


 今なら言える、そう確信して私は抱えていることを口に出した。

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