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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第13章 サマーフェスティバル!
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行動、見つからないように

 ***


「おい、起きろ馬鹿。早く降りるぞ」

「う~ん、あと5分...」

「寝ぼけたこと言ってねえで早くしろ」


 バスの中で幸せそうに眠りこける音琶を何とか起こそうとするが、徹夜の影響で全く起きる気配無し。もう目的地に着いてて乗客は俺と音琶だけなのだ。このままだと運転手だけでなく駅前で待っている客共にまで迷惑掛けることになる。


「全く、肩貸すぞ」


 言うことを聞かない音琶の肩を抱え、俺は何とかして外に出ることに成功した。運転手に謝らなきゃいけないのは音琶だってのに、何故か俺が謝る羽目になったのだが。後でなんか奢ってもらお。

 胸が当たって落ち着かない、早く起きてくれ。あと1時間もしない内に最初のバンドが始まるんだぞ、お前が見たい奴だろ、それなのに寝ていてどうする。すると突然...、


「はっ!この匂いは...!」


 何かを察知したのか、さっきまで深い眠りについていた音琶が目を覚まし、声を上げた。


「やっと起きたか、早くしねえと...」

「ねえ夏音!牛肉の匂いがするよ、行こ!」

「おいちょっと待て...、まずは会場の把握をだな...」


 俺の言葉を遮るように音琶は匂いの元へと掛けだして行った。さっき朝飯食ったばっかだろ、お前の胃袋は本当にどうなってんだ。この前の祭りの時と言い、本当に食べるのが好きな女だよな、可愛すぎかよ。


「早く早く!」

「そんなに急がなくても、お前のお目当てが逃げ出したりはしねえよ」


 呆れつつも音琶の元へ俺も着いていった。当初の目的が初っ端から大きく外れたが、音琶が楽しそうにしているから、まあ良しとするか。

 それからは完全に音琶のペースだ。それぞれ目当てのバンドの時間に合わせて行動はしているものの、どこかしこに並んでいる屋台の匂いに釣られる少女のせいで俺は振り回されていた。幸いバイトで稼いだ金を上手く貯金していたから今日の分の食費は多少無駄遣いしても問題はない。まあ、こういう日くらいは贅沢くらいしても罰は当たらないよな。


「ねえねえ、このアイス美味しそうだよ!」


 牛タン串を頬張りながら音琶は会場で配布されているパンフレットを指さして言った。このパンフレットには今日と明日のセットリストだけでなく、会場図や屋台で売られている飯、物販のリストが掲示されていた。

 こう言ったフェスに行くのは初めてだから、ライブだけでなく全国から集まってくるグルメまでも用意されているとは思っていなかった。これも大きな祭りの一つだから当たり前なのだがな。


「こんな時間から食ったら腹壊すぞ」

「そんなことないもん!」

「デザートは食後って言うだろ」

「別腹とも言うけどね!」

「はぁ...、食いたきゃ好きにしな。ただし後で腹痛いとか言っても知らねえからな」

「うん、ありがと!」


 鳴成市の牧場で取れた牛乳アイス、ね。これ、駅前のモールでも同じの売ってたぞ音琶よ。そこはせめて普段食えないようなのを選べよ。まあ音琶がいいならこれ以上口出しはしないけどな。

 それにしても凄い人の数である。あれから少々時間が経過してから屋台には行列ができているし、音琶もその中に入っている。これはステージの列の争奪戦は難しいものになりそうだな。

 その時スマホに通知が入り、確認すると結羽歌から個人LINEが入っていた。


 池田結羽歌:私達のテントの位置送るね


 この通知の後、すぐに会場図の写真が送られてきて、結羽歌達が建てたであろうテントの位置に赤いマークが描かれてあった。


 池田結羽歌:西側に居るから。丁度今自由行動になったとこで、先輩達も廻ってるから気をつけてね

 滝上夏音:すまんな


 最低限の返事をしてスマホをズボンの左ポケットに仕舞った。取りあえずこれから明日のライブ終了まで正念場だ。音琶と共にライブを楽しまなければいけないが、それと同時に部員に見つからないようにしないといけない。

 少なくとも人混みが密集しやすい場所に居ればある程度部員の目を誤魔化すことは出来るだろう。今こうして屋台を並んでいるのが一番危険だろう、後はグループLINEで誰がどこにいるのかが分かればいいのだが...。


「お待たせ!待たせたお詫びに夏音の分も買っちゃった!一緒に食べよ?」

「ああ...、そうだな」


 甘い物は苦手だとあれほど...、いや、今はそんなこと気にしたら負けだ。有難く貰うことにしよう。


「難しい顔してどうしたの?」

「いや、丁度さっき結羽歌から連絡があってだな」

「何て言ってた?」

「テントの場所と部員共が自由行動になったって連絡だ。あいつは今誰と居るんだろうな」

「多分琴実とかじゃない?夏音に送ったLINEの画面、誰かに見られてなきゃいいけど」

「出来れば先輩達とは行動しないで欲しさはある。最悪琴実にはバレるかもな」

「もう、怖いこと言わないでよ。琴実なら黙ってくれるかもしれないし」

「ならいいのだがな」


 ジェラート風のアイスを木のスプーンで掬いながら二人である程度の作戦を立て、いい時間になってきたので最初のバンドを見るべくステージへと向かうことにした。


「げっ...」


 開始30分前を過ぎ、既に人だかりが出来ていた。このライブではステージが全部で7つ用意されていて、それぞれ大きさもバラバラだ。

 最初に見るのはその中でも3番目の大きさなのだが、それでも予想以上の観客で埋め尽くされていた。辛うじて真ん中の列には行けそうだったから、人混みに紛れるべく何とかして前の方へ進んでいった。

 まだスタートしてもいないのにこの人数か...。これ、LoMの時だとどうなるのだろうか。考えただけでも恐ろしかった。

 あと音琶、怪我とセクハラだけにはくれぐれも気をつけてくれ。

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