前日準備、出かける前の対策
8月22日
「体調は戻ったのかよ」
「はい、もう大丈夫です」
「気をつけろ」
部会後、私は部長に呼び出されて小言を言われていた。とはいえ、病人ということもあってかそこまで責め立てるようなことは言ってこなかったから少し驚いた。
てっきり最後のバンドの出番が無くなっちゃったからこっぴどく怒られるのかな、なんて思ってたけど流石にそこまではしなかったか。和兄のこともあるから、こういうのには敏感なのかな?部長と和兄は同い年だったはずだし。
「すみません...」
「暫く部会は休みだから安静にしてろ。その間いくらでも部室使ってもいいけどな」
「はい」
そう言われて部長の話は終わった。一応、みんなには完治したことを報告している。洋美さんからも話が流れてきたみたいで、バイトも今週分のシフトは全部休みにしてもらった。別にそこまでしてくれなくてもいいんだけどな...。私のこと知っている人からしたら仕方ないか...。
「言っておくが、明日は鳴フェスだ。集合時間早いから今日の飲み会は自由参加にする」
部長の全体への告知を聞いて、私はそのまま夏音と部屋に戻ることにした。
・・・・・・・・・
「怒られたか?」
「ううん、そこまで」
「なら良かった」
部屋に入ってすぐ、私は夏音と明日の荷造りをしていた。本当は参加できる部員が全員で行かなきゃダメみたいだけど、そんな告知が来る前に私と夏音の二人だけで行くって決めてたから、そんなの知らない。
元々結羽歌の提案でこうなって、結羽歌自身は凄い申し訳なさそうに謝ってきたけど、そんなの結羽歌は悪くないから全然大丈夫。あとは部員に見つからずに行動するしかない。
どうやってバレずに行動するか?一応の対策はしている。だからといって絶対に見つからないって保証はないけどね。
取りあえず、サークルの全体LINEと部員のTwitterを参考にして、大体どこに居るのかを把握しておく。夏音はTwitterやってないからそこは私がLINEで連絡取ることになるけど、誰がどこのステージに行くのかとかは全体LINEで話しているかもしれないし、そこを上手く使っていくしかない。
私が部員のTwitter、特に先輩のをフォローしているのは別に仲良くなりたいからとかいうわけではない。ある程度の性格とか趣味、どんな生活をしているのか、そして今何してるのかを把握して、なるべく弱みを探すためだ。
そしたら、どんな手段を使ってでも、和兄のことを知るチャンスが得られるかもしれない。
「さっきから手が止まってるぞ」
「あっ...!」
「どうしたんだよ、まさか今になって行きたくないとか言い出したりしないだろうな」
「そんなわけないじゃん!」
「あー、いつも通りの音琶さんだったな。俺は安心したよ」
私が黙り込んで何か考えていると、いつも夏音は気に掛けて私をからかってくれるから私は元気になれるんだ。だからいつも通りなのは夏音のおかげ。
「忘れ物はないよな?」
「うん、大丈夫。チケットもバス券も、財布もスマホも鞄に入れたよ!あとは物販買うスペースも作ってる!」
「スマホは部屋出る直前でいいだろ」
「あ、そうだね!」
「全く...」
明日の予定、ネットで公開されたタイムテーブルや物販、ご飯、そしてバスの時間を二人で調べていった。だから何が何でも二人でライブを楽しみたい。
勿論、見たいバンドも二人で話し合ったから出演時間を上手く考えてご飯の時間も決めていた。半分以上は一緒に見るけどね。
部員のみんなはテント借りてるから会場で泊まるみたいだけど、私達は一度部屋に戻って二日目も楽しむことにしている。最後のバンドが終わる頃には日付が変わっているけど、バスは一番遅くて2時まで動いているみたいで人が多ければ増便もするという。駅前到着だから交通網の心配をする必要もない。
「明日早いからシャワー浴びたら早く寝るぞ」
「えー、もうちょっとだけ起きてたいよ~」
「ダメだ、寝坊したら音琶と楽しむ時間が短くなるだろ」
「はーい」
そう言われたから寝間着を用意して、先に浴室に向かった。
***
音琶がシャワーを浴びている間、スマホを触って暇を潰していたが、どうも落ち着かない。明日音琶と二人きりで鳴フェス行くわけだし、部員には隠しているからバレた時何て言い訳するか考えてるし、今壁の向こうの音琶は全裸だろうしで、思考が危ない方向にしか進んでいなかった。
「はあ...」
声にならない溜息をつき、僅かに聞こえるシャワーの音に聞き耳立てる。自分からシャワーは一人一日一回とか決めておいたものの、一緒に入った方が水道代浮かせられるのだろうか?そんなこと考えている自分が情けないが、多分これは金の心配ではなくただ単に音琶の素肌が見たいだけだろう。
本当に何を考えているのか、そんなこと音琶には絶対に言えない。今まで何度か身体に触れたことあったが、あれはほとんど故意によるものではないし、あいつが突然抱きついてきて、あの豊満で柔らかな胸が当たっていたのもただの不可抗力だ。だから何も気にする必要ない、きっとそうだ。
それから20分ほど経っただろうか、肩にバスタオルを掛けた寝間着姿の音琶が浴室から上がってきた。見るのは二回目だが、身体のラインがくっきりして、肩と太股ががっつり露出しているタイプの寝間着は非常に目のやり場に困るもので、思わず目を逸らす自分がいた。
「夏音ー、次ね」
「あ、ああ」
「?」
無防備な格好で迫ってくる音琶は、俺が何を考えているのかも気づいてないようで、そのままベッドに腰掛けてリモコンを取り、テレビの電源を付けた。テレビのニュースでは明日の天気が映し出されていて、鳴成市は快晴と予報されていた。これは熱中症には気をつけないとな。音琶が一番心配だ。
「音琶、明日倒れないように熱中症対策はしっかりしとけ」
「うん、そうだね。でも何したらいいかな?」
「取りあえず明日でいいから水多めに買うか、あと鍔付の帽子とか持ってたか?」
「私持ってないよ、夏音も多分もってないよね」
「まあな、それも買うか」
「そうだね」
「あと服装は...、なるべく涼しげなのにした方が良いな」
「うん、服はいっぱい持ってきたから、その中で良さそうなのにするね」
「ああ」
「もしかして、私の明日の服、楽しみにしてる?」
「まあな」
「へえ~」
流石音琶だ。持ち前の抜群のプロポーションで俺を誘惑しやがって...。とにかく、明日楽しみだ。勿論音琶の服装もだ。




