ラスト、手前で起こる事態
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ライブは本気でやるもの、それが当たり前なのは重々承知だ。その当たり前が出来なくなっていた俺からしたら、大切な人と創り上げるモノは何なのだろう。まだ、何かが見つかるはずだ。俺と音琶なら、きっと見つけられると信じている。
さて、最初のサビまで終わったわけだが、初めて披露する曲ということもあり心構えが違ったせいかそこまで悪いものとは思わなかった。特に、ベースの低音が活かされていて俺としてもやりやすかった。結羽歌の奴、日を増す毎に実力が上がっているからいつどのタイミングで琴実を追い抜いてもおかしくない。割と本音だ。
流石にここまで客数が多いと周囲の視線を感じてやりにくいが、気にした所で目の前の大衆が居なくなるわけないから、自分の演奏に集中しないと意味がない。サビが終わってからも集中させてもらうぞ。
Aメロともなると曲によると思うがギターのカッティングの音が目立つわけで、この間はベースよりも八分のタイミングに合わせて叩かせてもらっている。まさに今やっている曲がそれで、クローズされたハイハットの金属音がギターの音と共鳴している。タイミングは問題なしとして、Bメロから唐突に入るリードギターが気になるところだ。どうせ暴走するだろうからまた俺が上手くBPMを調整しないといけないのだろうが、どうも簡単にはいく問題じゃないので、改善点は俺だけのものじゃないと思う。どうせ言っても無駄なんだろうけどさ。
それにしても、サビのベースが練習以上に聞こえてくるのは何故だろうか。別に悪いことではないのだが、練習では出来ていなかったことが本番では出来ているわけだから、違和感は完全には拭えなかった。
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2サビ後のギターソロが何とか終わり、後はラスサビとアウトロのみとなった。完璧とは言えなくとも今まで一番良いのではないかという出来で順調に進んでいた。せめて最後のタイミングは気持ちよく抑えて終わらせよう、そう思っていた。
それは唐突に訪れる。ラスサビの直前、音琶の歌声が掠れ気味になっていたのだ。まあキーが高めの曲だから無理したのだろう、なんて考えて演奏に集中していたから特に気にも留めていなかった。何故この時、少しでも不思議に思わなかったのだろうか。いくら上手く演奏が進んでいたからと言って、俺の注意が散漫になっていたのは紛れもない事実だ。
そもそも、今までの練習で音琶は上手く歌えていたではないか。音琶の様子がおかしければすぐに気づけると過信していたのが後に招いた結果だ。そもそも気づけていなかったのだからな。
ラスサビがもうすぐ終わるというタイミングで、突然、音琶の身体が崩れ落ちたのだった。
次の瞬間、力の無い音がスピーカーから響き、会場内は騒然となった。




