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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第2章 crossing mind
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相談、辞めるか否か

 4月21日


「お前マジかよ......」


 午後の授業が始める前、教室で日高に事の顛末を話した。

 そしたらこの反応である。


「あいつらにはあんな事言ったけどさ、バイトどうしようかね」

「それで俺に相談という訳か......」


 音琶と結羽歌には強気なこと言ったけど正直かなり焦っていた。

 いや、現在進行形で焦ってるから過去形はおかしいな。


 弁償代7万、3人で分けることになるだろうけどそれでも2万3千円以上は稼がないといけない。

 しかも所持金からして家賃、食費とかのこと考えるとそうすぐに払えるとは思えない、あいつらは大丈夫なのだろうか、あまり金無いとは言っていたよな。

 俺ほどではないと思いたいけど。


「この際コンビニの夜勤がいいと思うぞ」

「え?」

「駅前にあるとこだよ、俺この前求人票見たんだけどさ、時給1400円だってよ。週2以上は欲しいみたいだけどそれくらいで頑張れば1ヶ月で返せるんじゃね?」


 確かに時給は高いけど、夜勤ともなると体力的にもきついだろうし、やるとしたら金曜か土曜しか無理だな。

 他の日に入れたら確実に授業に響く。何より昼夜逆転なんて考えるだけで恐ろしい。  


「あとでその求人票見に行くか」

「そうするといいぞ」


 一応保留という形にはしたが、この際仕方ない。

 早いとこ決めとかないと部長に催促されそうだし、あいつらにも申し訳が立たない。   

 

「それしにてもさ......」


 日高が思い詰めたように口調で言った。


「俺あそこ無理かもしれん」

「は?」


 一瞬何に対して言ってるのか頭が追いつかなかったから拍子抜けたような声になったけど、少し間を置いてから理解した。


「ああお前......」


 言いかけた所で担当教員が入ってきたので、今の話はまたあとになった。


 ・・・・・・・・・


「すまんな、あんま綺麗なとこじゃないけど」

「いやむしろこっちが申し訳ないんだけどな、お邪魔します」


 全ての授業が終わったあと、昼間聞けなかった話を聞くべく日高を部屋に入れることにした。

 真ん中に置いてるミニテーブルにグラスを置き、麦茶を注いだあと肝心のことを聞き出すことにした。


「無理っていうのはサークルのことだろ」

「そうだよ」


 やっぱりか、こいつ結構しぶとそうだからもう少しいけるとは思ってたけど、人は見た目に寄らない。

 結羽歌もそうだけど。


「さっきお前らがやらかした話聞いてさ、ていうか部会の時から思ってたんだけど俺には向いてないなってね」


 日高が複雑そうな表情をしながら言った。


「それで俺に相談と。力になれるかはわからんけど」

「聞いてくれるだけで全然良いから」

「そうかい」


 俺がそう返すと、日高が話し出した。


「俺が高校まで体育系の部活入ってたって前言ったじゃん?」


 最初話したときそんなこと言ってたな、それと何か関係があるのだろうか。


「簡単に言うと体育系の部活ってめちゃくちゃ厳しいわけだよ。朝から夜まで練習漬けで体力なんて持たねえし、それでもレギュラーは欲しかったし。そんなこともあって、大学行ったら文化系のとこ入ろうって思ったんだよね」


 なるほどそういうことか。

 つまりこいつは部活に縛られるのが嫌なわけだ、にしてもよくその状態でこの大学受かったな、3年で引退した後死ぬほど勉強したのだろうか。


「でもさ、この前の部会でもらった掟とかいうやつ全部読んだんだけど、あれだとまるで高校の時とあんま変わんないじゃん。ギターくらいなら割と自由に楽しくやれると思ったのに無理だろあんなの。しかもお前の話だとなおさら抵抗あるし」


 こいつの言ってることはよくわかる。

 正直俺も同じこと思ってるし、音琶がいなかったら部会の後速攻辞めてただろうし。

 いや、音琶がいなかったら最初から部会にも出てないか。


「それにさ......」

「ん?」

「部会の後の飲み会さ、確かに俺も飲んだけど先輩達ほとんど酔ってたじゃん、あの雰囲気も無理だわ。大学生って言ったら酒とも言うかもしれんけど、飲めない人のことちゃんと考えてんのかな。なんか色々言ったけど軽音部って軽い音楽だろ? これじゃ重い音楽だよ?」


 最後のはどう突っ込んだらいいのか皆目つかないけど適当に流しとこ。

 現実の軽音部なんて放課後に紅茶と菓子を嗜んで雑談出来るほど甘い世界では無いと思うけどな。

 何も知らない奴は勝手に緩い部活だと思い込んで途中で挫折するのだろう。

 これも一種の社会勉強......、とまでは行かないか。


「お前の高校もやっぱり飲酒禁止令出てたか?」

「出てたよ」

「まあそうだよな」


 18歳から成人になったとは言え、今の日本には高校生である内は飲酒を禁止にしている高校がほとんどだ。

 これは下の学年の生徒に悪影響を与えないようにするためのものである。

 学校側が書類を提出することで成立するわけだが、稀に提出しない高校もあったりする。後者は素行の悪い生徒が集う高校に限るがな。


 18歳から飲めるとはいっても合法的に飲めるのは書類が提出されてない高校だったり、高校に通ってない人だけに絞られているのだ。


「すまんな、酒に慣れてないとこうも言っちゃうよ、親もあんま飲まないし」


 親、か。

 俺には関係ない言葉だ。酒に慣れてないのは俺も一緒だけどな。


「まあ、色々考えとけよ。辞めるときは音琶と結羽歌にもちゃんと言うんだぞ」

「そうだな......」


 日高は迷いながらも納得したようだが、俺はこいつのちゃんとした相談相手になれただろうか。

 今まで他人なんてどうでもよかったのに何故か気になっている。日高に対しては出会った当初、うざい陽キャ位にしか思えてなかったというのに、最近変だな。


「取りあえず夜はここで食ってけよ」

「いいのか? 金無いんだろ?」

「勝手に家入れといて何もしないわけにはいかねえだろ」

「それじゃお言葉に甘えて」


 そうして俺は台所に向かった。

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