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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第12章 19才の夏休み
179/572

低音、好きな人の前で

 ◈◈◈


 どうしよう...、音琶ちゃんにバレちゃった...。自分であんなこと言っちゃったから仕方ないかもしれないけど、恥ずかしいな...。

 それにさっきから、日高君私の演奏見てるし、練習したとこちゃんと出来るか不安だな...。音琶ちゃんのMCも緊張している感じだし、もう次が最後の曲になるから、恥ずかしいとこ見せないようにしないと。


「えっと、これで最後の曲!だからみんなちゃんと聴いてね!ライブで初めてやる曲です!!」


 音琶ちゃんのテンパり気味な合図と共に、最後の曲が始まった。


 ・・・・・・・・・


 日高君と初めて会ったのは、歓迎ライブの時だった。ちょっとだけ、本当にちょっとだけ音楽に興味があった私は、学食前の掲示板に貼られていたポスターを見て、せめてライブだけでも見に行こうと思っていた。でも、いざ部室に入るとなると足がすくんでなかなか扉を開けることができないでいた。

 やっぱりやめようかな...、そう思っていた時、後ろから声を掛けられた。


「えっと...、見学者ですか?」

「ひゃっ!!」

「あー、驚かせちゃいました?」


 突然だったから、びっくりして変な声が出た。振り返ると、先輩?それとも私と同じ見学者かな?同じ髪色に染めた男の人が立っていた。

 大学生になったらちょっとでも変わりたいと思って、長かった髪をばっさり切って、髪も染めていたから、自分と同じ髪の色をしている人を見ると、ちょっとだけ複雑な気持ちになっていた。入学式の時、周りを見れば赤とか水色に染めている人もいたけど、流石にそこまでには出来なかった。だってあれはハードル高すぎるもん...。

 学生証の写真と今の容姿が全然違うのって結構恥ずかしいんだよ...。


「えっと...、すみません!」

「いや、謝ることないけど...」


 それから数秒沈黙が続いたけど、何とか頑張ってそれを破った。


「一応、見学者です。あの、サークルの先輩ですか?」

「いや、俺も見学者ですよ。てか敬語はやめとくか」

「は、はい...」

「俺、日高奏って言うんだ。君は?」

「池田...、結羽歌です」

「えっと...、取りあえず敬語はやめよう。あと早く入ろうよ」

「う、うん...」


 これが日高君との最初の出会いだった。隣の席に座り、日高君が率先して私に話しかけてきて、それに返事をするのを繰り返していたけど、いつの間にか緊張は緩和されていて、気持ちが少しずつ楽になっていった。同じクラスってことも分かって、折角の出会いは大事にしようって思うことが出来た。もしかしたら、大学生活がこれから楽しいものになるんじゃないかな、とも思えた。

 それから音琶ちゃんと夏音君が部室に入ってきたんだけど、この時私が日高君に話しかけられてなかったら、きっと今の私はいないんじゃないかな...?

 あの後日高君がサークル辞めちゃったのは残念だったけど、授業で毎回会えることを考えると、嬉しかった。いつの間にか、私は日高君が好きになっていたんだ...。


 ・・・・・・・・・


 長いこと過去の思い出に耽っていたように感じたけど、まだ曲はイントロまでしか進んでなかった。こうして演奏中に他のこと考えるのは良くないよね?何とか夏音君の音に合わせて指を動かさなきゃ...!

 新しくすることになった曲はベースのパートに休憩がない。つまり、最初から最後までずっと弾き続けなきゃいけない。私にそんな体力とメンタルがあるとは到底思えないけど、それでもやるって決めたことだし、投げ出すわけにはいかない。それに、無理なら最初からそう言えばいい。そしたら、他の曲を探すことだってできるから...。

 大丈夫、練習だって頑張ったんだし、日高君だって見てる。好きな人の前で情けない姿なんて、見せたくない!

 頭が真っ白になりそうなくらい緊張しているし、最初のライブの時よりも状況が違うけど、私は前より上手くなっている。それだけは絶対、だって何回も練習してきたし、出来ないところはメモ取ったりして繰り返した。だからきっと大丈夫、大丈夫なんだ。

 サビに入って、私は足下のエフェクターを踏んだ。テスト期間だけど、バイトで稼いだお金で買ったBOSSのエフェクター。3万円以上もするものを買うのは初めてで、何か悪いことしちゃうような感じだったけど、自分で貯めたお金なんだし、問題ないよね?お母さんにはベースやってること言ってないから、こんなことしてるの知られたら怒られたり、するのかな?

 でも、これも曲の特徴を活かすために必要なものだから、買って後悔なんてしていない。まだまだ欲しい機材あるし、また稼げばいいんだもん。

 エフェクターを踏むことで低音が良く聞こえるようになって、演者である私からしてもさっきよりずっと弾きやすくなっていた。音の幅が広がって、もっと工夫して使えば強弱も掴めるはず...!

 ちらっと日高君のいる方を見る。そこには千弦ちゃんもいて、日高君の隣でラムネを飲みながら私と夏音君を見ているように見えた。


 やっぱり、千弦ちゃんも日高君のこと、好きなのかな...?

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