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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第12章 19才の夏休み
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欠陥、どうしようもないことでも

 大津のソロが終わったら俺の出番になるわけだが、せめてドラムを叩いている間はさっきみたいに考え事をするのはやめよう。確かに良い思い出はないけれども今は音琶が付いている。それなら少しは不安な気持ちも緩和されるだろう。実際、最初のライブの時も前ほど酷い出来ではなかったからな、課題が山積みなのは相変わらずだけども。


「夏音っていつも表情硬いよな、やっぱ俺がリードで走らないときついんじゃね?」

「自覚あったのかよ...」

「ドラマーが頼りないと他のパートがどうにかするしかなくね?」


 大津のソロを眺めながら湯川が話しかけてくる。練習の時から協調性の見られないリードを鳴らし続けているこいつだが、経験者ともなれば自分なりの解決法を考えているらしい。それが結果に繋がっているとは限らないけどな。


「俺だけじゃなくて、音琶と結羽歌にも迷惑掛けんなよ。お前の暴走で困るのは俺だけじゃないんだからな」

「まあまあ、夏音は音琶がいればそれで満足なんだろ?どうにかなるとは思ってるよ」

「はあ...」

「本当は俺、音琶のこと狙ってたんだけど、夏音に先取りされちゃったから譲ってやるよ」

「.........?」


 何言ってんだこいつ、ますます意味がわからない。てか音琶に告った話、あれマジだったんだな。酔っててボロが出たんだろうけど、これも俺を陥れる何かの罠だったりするのか...?

 今の話を聞いていたのか、奥の方にいる音琶が俺を見ていた。これから本番だってのに何てことしやがる、やっぱりこれは罠だ。どこかに黒幕が居てもおかしくない。


「あーそれと」

「今度は何だよクソ野郎」

「あんまり変なこと企むのは良くないことだと思わない?」

「何のことだか」


 平静を保ったつもりだったが、俺や音琶達が考えていることは見透かされているようだった。やはりこれ以上奥の方に介入するのは避けた方がいいのだろうか、いやでも、それは音琶が望まないだろう。あいつが隠していることを知りたいのも事実だし、あいつが元から鳴成市出身だとしたら、ということを考えると色々想像が膨らむのだ。どんな些細な情報でも聞き逃してはいけないから、これからより一層警戒しつつ真実に辿り着ければと思ってはいる。


 ・・・・・・・・・


 音琶が最初に簡単なMCを済ませて曲を始める。一応セトリは最初のライブの時と同じ奴ともう1曲、新たに練習したものにしている。どれも同じバンドのコピーだからそこまで難しくないものの、要所を抑えなければちゃんとした曲の形を保てなくなるから安心できない。特に俺が一番心配だ、自分でもよく分かっている。

 まあ何だ、音楽する以上メンバー内での話し合いやまとまりがないと始まらないとか言う奴がいるが、このサークルでしっかりとメンバーとしての体裁を保ててるのは聖奈先輩達のバンドだけだろう。それが分かってここまで来ている奴はいるのか怪しいが、少なくとも俺はわかっているつもりだ。それに対する解決法が見当たらないのはまた別の話だが。

 相も変わらずリードは走っているし、曲のBPMだって10くらい上がっているし、俺だって合わせるのが大変だ。普通はもっとドラムの音に合わせて他のパートが続くように曲を進めていくはずなのに、これだと何からどうすればいいのかすら分からなくなる。

 それに、俺が頼りないのも原因の一つだろう。課題があるのはメンバー全員なのだ。これだと一生満足の行く演奏が出来ないままだろうな。俺は演奏中ずっと心の中で嘲笑っていた。


「えっと、これで最後の曲!だからみんなちゃんと聴いてね!ライブで初めてやる曲です!!」


 若干テンパった音琶のMCが響き渡り、観客からは歓声が挙がる。こんな演奏でも歓声が挙がるとは一般人は音楽知らずの凡人なのだろう。中には経験者がいるかもしれないけども。

 よくよく見れば、高校生くらいの奴や子供連れの大人だって俺らに視線を向けている。特に理由も無く、ただ視界に写ったから見てやろう位の気持ちだろうが、こうして見ている以上最低限の演奏はしないといけない。

 チケット代が必要ないからと言う理由で手を抜くのは以ての外だ。せめて最後の曲だけでも満足出来るように心がけるくらいは俺だって出来るはずだ。なぜなら、音琶があれほど楽しそうにしているというのに、技術不足を理由にして後ろめたい気持ちになるのは良くないと判断したからだ。

 どうしてこうも、ライブをしている時になると音琶との約束を大切にしたいという想いが強くなっていくのだろうな。

 まるで過去の出来事を全て吹き飛ばすかのような力があると言っても過言ではなかった。

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