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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第12章 19才の夏休み
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未熟、実力の足りなさ

 ***


 あいつ、またやりやがったな...。意見を言うのはもっともだし、少しでも良くしようという姿勢は充分に伝わってくるが、音琶の場合は自分の出来ることは他の人も出来てて当たり前みたいに解釈しているのだ。それが原因で何人か今の琴実みたいにさせたというのに、全く学習しない奴だ。

 結局気まずいままで本番始まったわけだが、音琶も琴実も表情固いしミスしてるしで状況は最悪だな。音琶が余計なこと言わなければまだ少しは良くなっていただろうに。

 そんな俺は淳詩の隣に座ってPAのヘルプをしているのだが、淳詩の奴、完全に俺に任せてるな。本当は怪しくなったところを指摘する程度で済ませようと思っていたのだが、いつの間にか俺が率先してやっている、という状況に変わっていた。

 これだとまるで高校時代と一緒じゃねえかよ、淳詩はあいつらと違ってやる気はあるんだろうけどさ、だとしてもそれが結果に繋がってない。先輩達は相変わらず動かないし、俺一人がやっていると言っても過言ではない。しかもあのズタズタのバンドを上手く魅せるためにも音響がどうにか工夫しないと客が帰るぞ、最初のバンドからこうなってしまっては何の集客にもならない。


「夏音」

「何だよ、今作業中だ」

「今度俺にPA教えて」

「......」


 不意打ちだった。目の前の作業に集中していたからこんな言葉が出てくるとは思いもせず、考え込むように俺は手を動かす。


「唐突だな」

「なかなか覚えられなくて、でも夏音なら色々知ってそうだし」

「仕方ねえな」

「ありがと」


 まあ奴の隣で立ち尽くしている先輩共から教えてもらうより俺から教えてもらう方がいいだろう。少なくともあいつらよりは出来てる自信あるし、教え方も俺の方が上手いはずだ。長年のキャリアを舐められては困る。


「あとで詳しく話すぞ、日程とか」

「うん」


 そうやって作業と会話を両立している内に一つ目のバンドは終わり、次は俺の出番になった。俺が演奏している間ヘルプ入れるわけがないけども、淳詩は大丈夫だろうか。まあいい、他人の心配している暇など俺には無いわけだし、急いで転換入らねえと時間が押して面倒なことになる。

 ステージに上がり、落ち込んだ表情の音琶に一声掛ける。


「お疲れだな」

「うん...」

「終わったら屋台廻るぞ」

「うん...」


 励ましたつもりだったのだが、あまり効果はなかったようだ。仕方ねえよな、こいつ馬鹿だから後先考えないし、自分の発言で他人がどう思うのかとか、何も考えてないし。

 それのせいで、俺も何度音琶の奇行に巻き込まれたことだか...。数え切れないほどだ。


「ごめん音琶、もういい?」

「あ、ごめん。すぐに片付けるから」


 髪を後ろに束ね、心の準備ができたであろう鳴香が音琶の位置に立とうとする。何気にこいつのボーカル、上手いのだ。多分音琶より上手い。ギターの腕前は最初のライブよりはあまり変わりないものの、どうやら高校時代にカラオケによく通っていて、そこで歌い方のコツを覚えたらしい。実際高得点出せてたからな。

 とは言え、ギター一本でどれほどその歌唱力を試せるのかが課題だ。練習の時に感じた事は鳴香のボーカルは以前カラオケで聴いた時ほどの技術は感じられなかったことだ。やはりギターを持った状態で歌うと本来のボーカルを手にすることは難しいのでは無いかと思われる。音琶もそうだったし、あいつの練習に付き合うことになったときは正直色々困った。

 そんな音琶は今、結羽歌と何か話して居るみたいだったが、表情は相変わらず暗いままだった。あいつらしくねえな。

 そして肝心のバンドの方だが、結局用意した曲は2曲でギターが一本だからそんなに難しい曲は選べず、何とか程よく出来る曲を探さなければならず、テスト期間であるにも関わらずかなりの時間を費やすことになってた。鳴香の奴、結局単位は拾えたのだろうか。落としたとかいう噂は聞いてないし、もしかしたら取れたのかも知れないが、隠している可能性だってある。茉弓先輩はというと...、どうやら2年後期で本当に頑張らないと留年らしい。この時期でそんな言葉が出てくるとか洒落にならないな、俺だったら自殺してるレベルだ。

 そんな中、何とかしてライブに間に合わせようと練習してきたのだが、本音を言うと不安しか無い。大体忙しい時期にライブ企画するこのサークル自体も頭がおかしいとしか。勉強のことを全く考えてないとしか思えない。

 はっきり言わせて貰おう、曲が始まって数秒、早くもギターが終わった。以上だ。


 ・・・・・・・・・


「鈴乃先輩達、上手くなってたね」

「そうだな」

 

 初日は最悪の結果に終わった俺と音琶だが、屋台に廻るという約束は決して反故にはしない。機材は実行委員が用意したテントの中に収納されていて、明日の準備時間を削るためにステージから出来るだけ近い所に置かれている。だからわざわざ部室に戻る必要はなく、ある程度の片付けが終わったら解散になった。


「音琶は練習どうなんだよ、今日の見る限りあんまりしてないように見えたのだが」

「そう言う夏音だって、ちゃんと他の楽器の音聴けてた?全然鳴香のミスフォロー出来てなかったよ?」

「演奏中死んだ顔してた奴には言われたくねえよ」

「むむ、私そんなに落ち込んでたかな?」

「ああ、滑稽だったぞ」


 俺がそう言うと音琶は無言で頬を膨らませ、林檎飴を二つ丸ごと頬張ったようになっていた。


「はいはい、可愛い可愛い」


 そう言って俺は音琶の愛らしい頬を人差し指で突いた。相変わらず柔らかいなこいつ。


「取りあえず、今日のことは忘れて何か食えよ、まだ明日あるわけだし」

「そ、そうだね。夏音が言うなら...」

「いつもの覇気はどこ行ったんだよ、そこは喜んで俺の手を取るのが普通だろ」

「夏音、リクエスト多すぎ。でも嬉しい!」

「なら黙って従えよ、ほら早く」

「うん!」


 明日は終わったらすぐに撤収して部室に戻る。花火大会があるのに、音琶とは見れない。だからこそ、今この時間を大切にしないといけない。笑顔で屋台の飯を頬張る音琶を見て、俺はそう感じた。

 本音を言えば、音琶の浴衣姿が見たかった。

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