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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第12章 19才の夏休み
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差異、聴く側の立ち位置

 リハーサルっていうけど、今日の分は3バンドしかないからそんなに時間はかからない。出演するバンドは最近結成した私のバンドと、夏音が新しく組んだバンドと、鈴乃先輩達の2年生バンドだ。

 演奏順とは逆順にリハーサルをするから今は鈴乃先輩達がステージに上がっている。会場に並べられている椅子には何人かが座っていて、私達の演奏を心待ちにしているみたいだった。確か、こういった野外ライブってリハの時間でも見ている人っているんだよね。ライブハウスとかでやるのとはまた違うからプレッシャーが凄い。

 それにしても、ステージ上でベースを弾いている茉弓先輩は注意が必要だ。テスト前だったかな、夏音から聞いた話を思い出す。そして、これから起こり得ることも考えないといけない。

 テストが終わった日に結羽歌から来たLINE、他人事で済まされるようなものじゃなかった。私が夏音と一緒に行く鳴フェス、どうやらサークル内では私と夏音は行かないことになっているらしい。

 どうしてこうなったのかはわからないけど、部会の時に鳴フェスに行く人は部長に連絡するように言われていて、ほとんどの部員が行くと言った。そして、連絡をしなかった私と夏音は''行かないから連絡しなかった''と解釈されたのだ。

 連絡しなかったからと言って、必ずしも行かないというわけではないのに、変な風に思われたせいで少々まずいことになっている。夏音も事の異常さは理解しているみたいで、当日はライブを楽しみつつ、部員に見つからないようにしよう、って話もした。対策の仕様がないんだけどね。

 結羽歌も結羽歌で、私と夏音のデートの提案で鳴フェスの話題を出してたから、こんな事になってしまった責任を感じているみたい、別に結羽歌は何も悪くないのにね。むしろこんないい提案思いついたんだから凄い感謝してるのに...。

 それにしても、もし二人だけサークルから離れてライブ見ている所が誰かに見つかったらどうなるんだろう...。減点は確実だと思うけど、夏音が関わっているとなれば、私も退部させられたりするのかな...。

 鈴乃先輩にも相談しようと思ってたけど、下手に会っている所とかLINEで話している所を茉弓先輩とかに見られたら、ってこと考えると怖くて出来なかった。


「音琶ちゃん?」

「あっ...!」

「考え事してたの?次のリハ、音琶ちゃんもいるよね?」

「そ、そうだった!ごめん」


 次のバンド、私がリードギターでベースが琴実、ドラムは榴次先輩でギターボーカルに杏兵先輩といった、1年生と2年生のバンドだ。琴実に誘われて、テスト期間中であるにも関わらず練習をする羽目になったバンドだ。私と琴実はちゃんと勉強もできていたから良かったけど、二人の先輩は早々単位を落としたとのこと。何か再履修の教科もあったとかいう話を聞いたけど、この人達危機感ないのかな?何を今更かもしれないけど。

 いけない、そうやって考え事をするから周りが見えなくなるんだった。危うくギターのタイミング遅れるところだった...。気を取り直してまずは目の前のことに集中する。色々抱えてることはあるけど、そんなんじゃダメだよね。

 リハの時間は10分、最初のライブのリハよりも短い時間でいかに上手く音を拾えるかが勝負だ。淳詩にこれ以上負担をかけるわけにもいかないし、私自身の音も他のメンバーにしっかり聞こえるようにしないといけないから、どうもこの作業は慣れない。バイトしているはずなんだけどね。

 さて、ここで思うことなんだけど、琴実のベース、観客として聴く分には問題ないように感じるんだけど、いざ演者として並んで聴くと違和感が半端ない。なぜそう感じるのかはわかってるんだけど、これは琴実自身に改善の余地が必要なのだ。例えるなら、音楽を音源で聴くのと、生演奏で聴くのとで印象が違ってくるのと似たような現象かな?

 まずエフェクターの使い方がなっていない。今回やる曲はメロ毎にベースの音が若干変わっていくんだけど、踏むタイミングとか強弱がおかしいせいで合わせるのが難しいのだ。これは練習の時でも指摘したんだけど、琴実もまだエフェクターの扱い方に慣れていないみたいで、悪戦苦闘しているのはよくわかっていた。

 確かにテストとかで忙しいのはわかるけど、ちょっとでも練習してほしかったかな...。


「すみません、ベースの音もっとください!」


 これでどうにかなるとも思えないけど、少しでも音は大きい方がいいから私はそうPAにお願いした。


 ・・・・・・・・・


「ねえ音琶」

「うん?」


 私達のリハが終わって観客側に戻った途端、琴実が不満そうな口調で声を掛けてきた。


「どうしてあの状況でベースの音要求したのかしら?あれ以上大きくすると他のパートに支障が出ると思うんだけど?」

「でも、あのままだと合わせ辛いし」

「まさかまだ練習の時のこと気に掛けてるの?」

「もうちょっと使い方分かって欲しかったな、って思っただけ」

「あれは、テスト勉強忙しくてなかなか上手くいかなかっただけよ、前にも言ったと思うけど?」

「バンドの方は琴実から誘ってきたわけじゃん。だったら誘ったなりにしっかりして欲しいとは思っちゃうよ。テストはただの言い訳じゃん」

「何それ、私がまるで何もしてないみたいじゃない!」


 これから本番だというのに、琴実を怒らせてしまった。まずいこと言っちゃったかな?いや、琴実にとってまずいこと言ったから怒ってるんだよね...。別に琴実は何もしてないわけじゃないし...。

 そもそも、私は普通の人とは違う。琴実のように、勉強も部活も上手く両立しようと努力しているわけじゃない。少なくとも、勉強に関してはそんなに時間を費やす必要があまりない。だからその分ギターの練習だって出来ていた。犠牲にする時間がない分、何もかも上手く進んでいた。

 不安になることだってあったけど、それはやる前の自分で、やってからだとその不安は無くなっていく。短時間で上手く片付けることが私には出来る。だから、私は普通の人と違う。

 さっきの琴実とのやり取りを見ていた夏音は、ステージ上で呆れ顔になりながら私のことを見つめていた。

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