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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第12章 19才の夏休み
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祭り、準備と休憩

 8月16日


 その日はやってきた。昨日あれだけ不愉快な出来事があったにも関わらず、まるで何事もなかったかのように部員は集まってくるし、ライブは開催される。

 何も知らない音琶はやたら上機嫌で、これから起こる事への危機感など全く感じてない様子だった。別に何が起こるとかは誰にもわからないが、このサークルですることと言えばいつもとんでもないことしかないから、無意識に警戒してしまうのだ。

 一方、淳詩は集合の段階で顔色が悪く、昨日の飲みもあってか不安と焦燥に駆られていた。もう見てられない、嫌になったらサークル辞めたっていいんだからな。

 現地までは車で移動になるから最低限の機材を積んでいき、到着したら用意されているステージを作っていく。スピーカーやアンプといった大きめの機材は祭りの実行委員が昔から使っているものを用意してくれたから運ばずに済んだものの、楽器全般は部のものを使うから面倒だ。せめてドラムセットくらい向こうで用意してくれれば良かったのに、と思ったが、思ったところで突然ブツが用意されるわけでもないから仕方なく従うことにする。

 淳詩はというと、先輩達に扱かれている様子が窺えた。その度に顔色が青くなっていき、手先が震えているようにも見えた。本当に無理しやがって、きつくなったら俺にでも何か言ってくれれば協力するのだがな。はっきり言って俺と先輩達の知識には天と地の差があるからな。自慢してるわけではないが。

 榴次先輩と2人で組み立てと結線はしたが、圧倒的に俺の方が素早く作業出来てたし、正直俺一人でやった方が早いのではないか?他の奴らはそれぞれの作業に集中してたから榴次先輩の方は見ていなかったものの、流石にこれは先輩として恥ずかしいと思われても仕方が無いレベルだった。



 13時半


 俺のおかげでチューニングは完璧だし、ボーカルギターベースの奴らはいつの間にか屋台廻ってるし、俺もやることはほとんどないのだが、PAに関しては最初から最後までずっと作業が続くから休憩が与えられてない。別に一人だけでやってるわけじゃないのだから、交代制にしてやってもいい気がする。何というか、淳詩も先輩居ない方が精神的にも安定するだろうし、逆に一人でやった方が上手くやれるのではないかと思い始めたのだが。

 結局は人格の破綻した奴らがまともな人間にプレッシャーをかけるから淳詩も不安になってるわけで、サボっているわけではないのだ。あくまで仮説だけども。

 流石に可哀相だから、俺も休憩時間そっちのけで淳詩の面倒見てやることにするか。先輩の説教の時間ほど無駄なものはない。だったら少しでも時間を有効活用できる手段を試すだけだ。


 ***


「あれ?夏音君PAやってるね」

「本当だ、休憩すればいいのに」


 結羽歌と屋台を廻っていたら珍しい現場が見えた。最初に気づいたのは結羽歌だったからちょっと悔しい。


「なんか大変そうだね、私も手伝おうかな...?」

「うーん、私達が入ってきたら夏音に怒られそう」

「あー...、それはあるかもね」


 ギタリストとベーシストのすることは既に終わっていて、あとはPAがマイクのテストをすればいいから今は自由時間だ。少し遅めのお昼ご飯を食べながら会場を廻ってるけど、こういった所に足を踏み入れるのは初めてに等しいから少し不思議な感じだ。

 結羽歌もあんまり慣れてないみたいで、パック詰めされた焼きそばを頬張りながら辺りを見渡す動作を何度かしていた。それにしても、今日だけでお小遣い大分遣っちゃいそうで怖い。これが祭りの魔力というものなのかな、勝手に作った言葉だけど。


「音琶ちゃん?」

「あ!ごめん、考え事してた」

「本当は夏音君と廻りたかったんでしょ?」

「な、何言ってんの!?」


 唐突に結羽歌が意表を付くようなことを言ってきたから慌ててしまう。夏音と廻りたいのは勿論だし、てか今日という日を楽しみにしていたのはこれが原因だし...。当然ライブもだけどね!


「音琶ちゃん、本当に夏音君のこと好きだよね。いいなー、羨ましいなー」

「突然どうしたのよ、結羽歌らしくないのね」

「だって、好きな人がいて、その人と恋人同士になれるって、幸せなことだと思わない?」

「そりゃ、私は今すごい幸せだし、夏音に出会えて本当に良かったって思ってるよ」

「だよね、そうだよね」

「結羽歌、あんたどうしたのよ...?」


 どうもいつもと結羽歌の様子がおかしい。何かあったのかな?


「実はね、私も今、好きな人が居るんだ」


 いつも内気で、消極的な所がある結羽歌だけど、この瞬間だけは真剣な表情をしていた。まるで、ベースを弾いている時のように。


「え...?」

「えへへ、びっくりしたでしょ?」

「え、そりゃ、うん」


 すっかり焼きそばを平らげた結羽歌は真剣な表情から一変して、どこか照れくさそうに笑っていた。


「あ、音作り終わったみたいだよ、行こっか」

「う、うん」


 いつの間にかPAの仕事は終わったみたいで、私達はステージの方に向かうことにした。あとはリハーサルさえ乗り切れば本番になる。人生で2回目のライブ、楽しみだな。

 ...聞きそびれちゃったけど、結羽歌の好きな人って誰なんだろう...?

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