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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第12章 19才の夏休み
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自信、音作りをする理由

 ***


 思わず溜息が漏れた。普通に考えてこれはおかしい、何故ライブ前日になっても飲み会というものがあるのか。しかも今回に関してはドラマー4人が兼斗先輩の部屋で集まることになってるし。

 こんな状況でも避けに溺れてる奴らはまず演奏面に気を掛けるべきだろう。実際に俺だってまだまだ練習時間が欲しいわけだし。

 明日明後日の予定だが、鳴成市でやってる割と大規模な祭りではこのサークルは毎年出演しているそうで、どうもサークルOBの人が祭りの実行委員の人と仲が良かったらしく、その縁として出させてもらっているとのことだった。

 伝統というのか歴史というのか、この大学も設立してから相当な年月が経っているわけだし、こういった人間関係が繁栄されていてもおかしくはない。それはいいとして問題は明日のタイムスケジュールだ。

 

 ''PAとドラマーは他の人よりも2時間早く部室に集合''


 それが今日の部会で言われたことだ。意味が分からない。なぜそうなったのか、それは部会後に飲み会をするからPAの音調整とドラムのチューニングを次の日の朝早くにやる必要があるとのことだった。

 正直な感想を言うと、下らない飲み会をする暇があればその時間に音作りをすればいいと思う。大体他のパートの奴らは12時に部室集合なわけだし、そいつらに関しては最低限の機材を用意して車に運べばそれで済むのだ。だったらドラマーも同じ時間に集合させておけば平等に事が進むだろう。

 確かに、PAやドラマーは他のパートに比べてすることが多いのは承知だが、部会はいくら長引いても20時には終わるのだからその後にやればいいのだ。俺が部長だったら絶対にそうする。

 まあ俺の長年の知識と技術を駆使すればそんなもの1時間も掛からずに終わるのだがな。だが面倒事に費やす時間があまりにも勿体ないのだ。

 そして肝心の現地でのセットリストだが、出演バンドが6つあるから2日に分けて3バンドずつでやることになっている。俺の出番は16日と17日で、他にも新たに結成されたバンドがあったりする。なんか俺の知らないうちに音琶もバンド組み始めたらしく、少しばかり寂しい気持ちがあったりする。

 ある程度準備が終わったら15時にスタートして2時間で撤収の予定だが、初日ライブ後は自由時間らしい。機材を片付けて部室に戻すのはいいとして、その後に屋台を廻るのは許可されている。俺としてはそっちの方がメインだと思ってるのだがな。音琶とは一緒に廻るって話はしてるし。

 どうせ二日目は打ち上げするとかほざかれて飲まされることになるんだろうけど。その日花火あるのに、音琶と2人で見たかったのに。


「さてと、お前ら明日の準備は出来てるだろうな?」


 酔いが廻ってきた頃合いだろうか、今まで適当に話を受け流してたから何を話したか覚えてないものの、唐突に兼斗先輩が尋問してきた。


「出来てないとでも思ってるんですか?」

「いや、お前は心配ないだろう。どっちかと言えば淳詩が心配だ」

「はあ...」


 今まで、と言っても1回だけか。ドラマーにおける最低限の仕事はほとんど俺が受け持っているようなもので、この前の新入生ライブではチューニングにしろ結線にしろ俺が素早くやったから成り立ったのだ。PAが忙しかったから出来なかったというのはただの言い訳だ。だからこそ淳詩にはしっかりしてもらいたいのだが...。


「正直、不安です...」


 淳詩はそう答えた。あまりこの分からず屋の前で自信なさげに話すと後々面倒なことに成りかねない気がするのだが。そして相も変わらず榴次先輩は黙り込んだままだし。


「おいおい、PA講習申し込んできたのはお前自身だろ?それにチューニングだって陰で練習してたの俺は知ってるんだからな?」

「はい...」


 顔死んでるな。大丈夫なわけないのにプレッシャーかけるようなこと言う兼斗先輩は馬鹿なのか?いや、こいつは正真正銘とんでもない馬鹿野郎だったか。てか淳詩の奴、いつの間にそんな練習してたんだ?基本バンドか個人での練習以外部室に行かない俺が知らなかったのは無理もない話かもしれないが。


「淳詩」

「何?」

 

 自信なさげにしている淳詩を見ているのが苦痛になってきたから、こいつに少しでも自信を持たせるように言葉を用意する。


「お前がしっかりしねえとライブ始まんないだろ」


 確かに俺はPAも照明もチューニングも結線も何もかも出来る身だ。記憶力がいいからとかそういう問題ではなく、やりたくなくてもやらなければいけない状況に追い込まれて、努力せざるを得なくなった結果がこれだ。やりたくないことも、他の馬鹿共のためにやらなければいけなくなってそうなったのだ。

 だけども、今はそれぞれの役割がある。だから、淳詩にはやるべきことは最後まで成し遂げて欲しい。勿論俺もフォローはするけども。


「そうだぞ、お前は何のためにPAをやってるのか、ちゃんとした理由があるんだろ?」


 いや待て、俺が言ったことに便乗して兼斗先輩は何か面倒なこと言い始めたけど、俺はそんなつもり全く無いからな。思ってることの僅かな違いでややこしいことになるからあんたは何も喋らないでくれ。本当にマジで。


「理由、ですか?」

「そうだよ、まさか何となくでPAをやろうと思ったとかじゃないよな?」


 うわぁ...、始まったよ。別に何をしようと何となくでいいと俺は思うけどな。そもそも音楽をしている人は『何となく』とか『興味があったから』、みたいな理由で始めたのがほとんどだろう。あくまでその人が好きで音楽をしているのだから、関係ない奴が割り込んでくる権利なんて無いはずだ。

 音楽だけじゃない、人それぞれ趣味というものがあって、何故それを好きになったのかには特に理由なんて無いだろう。直感でも構わない、俺だって12年前にテレビでLoM見てドラムやってみたいと思ったくらい、単純な理由で始めたわけだしな。


「えっと、自分が作った音で、演者の人が演奏しやすくなるようにしようとは...」

「お前は明日、それが出来るのか?」

「できる限り出来るようにします」

「はあ...、できる限りじゃダメなんだよ、榴次、一杯こいつに注いでやれ」

「わ、わかりました!」


 兼斗先輩によって溺れさせていく淳詩を見るだけでこっちが吐きそうになった。大体貴様が勝手に質問したのが原因だというのに、何故か淳詩が悪いみたいになっているし、意味が分からない。

 この場を止めようとも思ったが、退部させられる可能性を充分に秘めている俺に出来ることは何もなかった。ただ飲まされる淳詩を見ているだけで良心が痛んだが、何も出来ないことが一番情けなかった。


「どうだ、すっきりしたか?」

「は、はい。すっきりしましたぁ~」


 兼斗先輩に飲まされた淳詩は一気に酔いが廻っていた。榴次先輩が持っているボトルを見ると、そこには「VODKA alc39」という強烈な文字が刻まれていた。

 この状況を動画に撮ってSNSに投稿したらどうなるのだろう?

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