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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第12章 19才の夏休み
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命令、自分からすべきこと

 ◈◈◈


 大学最初の夏休みを迎えて、取りあえず私は解放された。とは言っても、明後日にはもうライブがあってあまり落ち着いてられないんだけどね...。


「結羽歌ー、テストどうだったのよ?」


 午後9時過ぎ、私、池田結羽歌は、琴実ちゃんから声を掛けられて大学近くの飲み屋にいる。バーだからカラオケ付で、居酒屋と違って食べ物はない。基本お酒と申し訳程度のソフトドリンクだけしかなく、客層は老若男女バラバラだ。

 カウンター席で私と琴実ちゃんは焼酎のボトルを共有して嗜んでいたけど、1時間も居ればお互いに酔いが廻ってきて頭がふわふわしている。ちゃんと水で割ってるけど、やっぱり焼酎は酔いやすいな...。


「うん、なんとか、いけたかな...?」

「もうー、結羽歌らしくないわね、高校の時だったら自信満々に『出来た!』って言ってたのに」

「そこまでじゃないよ...、そういう琴実ちゃんはどうだったの?」

「今のところ成績出てるのは受かってるわよ、他のやつはわからないけどね」

「そっか...」


 琴実ちゃんとは高校時代、テストでは一位二位を争ってたからもし今回1個でも落としてたらどう顔向けしたらいいかわからないな...。ベースだって、練習はしてるけどまだまだ適わないし...。


「ほら、次結羽歌の番でしょ?」

「あ...、うん」


 琴実ちゃんからマイクを渡され、私は画面に流れてる歌詞に合わせて歌い出す。元々ベースをする前から色んな音楽を聴いていて、大学入ったら何か1つ趣味を作れたらいいな、なんて思ってたから、音楽に触れることが出来たのは本当に良かったと思っている。

 先輩達もちょっと怖いけど、飲み会の時は特に優しくて、私のことを必要としてくれている。だからもっとお酒の味を知っていこうと思っている。

 カクテルとかも、作ってみようかな...?


「やっぱ結羽歌上手いわよね、ベースボーカル目指してもいいんじゃない?」

「もう、大袈裟だよ...」

「いやいや、あんたのその透き通るよな綺麗な声は観客を魅了するに違いないわ!」


 琴実ちゃんからしたら私の声ってそんな風に聞こえてるんだ...。そんなに自身無いんだけどな...。それに、ボーカルしようとは思わないかな、ベースの方頑張りたいし...。


「そしたら次は私の番よ!」

 

 割と酔ってるのかな?琴実ちゃんは自分のすぐ近くにマイクがあるにも関わらず、私の持っているマイクを取り上げて歌い出した。

 でも...、私も何回も酔ってるし、音琶ちゃんにも迷惑掛けちゃってるし、あんまり人のこと言えないかな。それにしても...、琴実ちゃんって勢いで何でも歌っちゃう感じなのかな...。この曲、私がバンドでやってた曲...。


「やっぱりお酒飲みながら歌うのって最高に気持ちいいわね!」

「う、うん。琴実ちゃん凄いね」

「でしょでしょ!」


 ちょっと意味合いが違うんだけどな。でも楽しそうだからいいや。


「それでさ、あんたは新しいバンド組んだのかしら?」

「え?」

「私は音琶達と組むことにしたわ!明後日初披露よ!」

「そ、そうなんだ」


 結構みんなバンド組んでるのかな...、テスト期間中に何個か新しいバンドができたって話聞いたけど...。私もやりたい曲は沢山あるし、誰か誘った方が良かったのかな?でも、断られたら嫌だし、別にバンド全く組んでないわけじゃないし、練習頑張れば誰かがきっと声掛けてくれるよね?


「まさか組んでないの?」

「新しいのは、まだだよ。やりたいのはまずは個人で頑張ろうかなって」

「結羽歌、それは甘いわよ」

「えっと...」


 マイク越しのまま、琴実ちゃんは私に向けてしゃべり出す。琴実ちゃんの隣に座ってる人がマイク欲しがってたから私が代わりに渡すことになった。


「バンドってのは、誰かに誘われてやるもんじゃないのよ本当は。自分からやりたい曲やらないと誰も声掛けてくれないわよ?」

「でも、私の好きなバンドがみんな好きとは限らないし...」

「そんなの話してみないとわからないじゃない、それとも嫌なの?先輩とかが」

「そんなこと言ってないよ」

「だったら、誰でもいいから声かけなさい!これは私からの命令よ!」

「......」


 琴実ちゃんにそう言われて、今まで私が自分から何かを提案して誰かを引っ張っていったことがなかったことを思い知らされた。あの時はたまたま上手くいっただけで、私は誰かに支えられてないと何も出来てなかったな...。

 この前だってバンドで新しくコピーする曲決めるのも音琶ちゃんが言い出したことだったし...。練習は勿論ちゃんとしてるけど改めてそう言われるとちょっと後ろめたい。


「それに、結羽歌は一度私に勝負で負けたんだから、私の命令を聞く権利があるわ!だから今の命令を聞きなさい!」

「あ...」

「大丈夫よ、結羽歌は頑張ってるんだから、きっとそんな難しいことじゃないわ!」


 そういって琴実ちゃんはグラスの焼酎(ちゃんと水で割ってるよ)を一気に飲み干した。毎週の飲み会で思ったけど、琴実ちゃんも結構飲むよね...、私も人のこと言えないけど。


「頑張ってみる」

「その意気よ!結羽歌ならできる!」


 私達の会話を聞いていたマスターが苦笑していたけど、帰り際に応援されたのは無理もない。なんかちょっと恥ずかしかったけど頑張ってみるよ。

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