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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第12章 19才の夏休み
167/572

休日、予定は埋まっていく

 ***


 8月14日


 ようやくテストから解放され、夏休みに突入した。今日くらいはゆっくり休みたいと思っていたが、明後日には大学に入ってから2回目のライブがあるわけで、あまり休めるような時間は与えられてなかった。

 肝心のテストの出来はというと、勿論全て合格している。まだ結果が出ていない物もあるが、あんな簡単な問題を俺が間違えるはずがない。間抜けなミスさえしてなければ全教科満点は間違いなしだろう。日高と結羽歌は死んだ顔していたけども、それが疲れからのものなのか自信がないからなのかは敢えて聞かないでおいた。言い忘れていたが、名前を書き忘れるとかいう間抜けなミスもするわけがない。

 まあ時期も時期だし、テスト期間中もバンド練習しなければならなかったわけで色々な面で余裕がないのは皆同じだって事だろうか。どうしてこうも忙しい時期にイベントが被るかね、新たに結成されたバンドもいくつかあるみたいだけども。


「ねえ夏音!今私凄い高いとこにいるよ!落ちちゃいそう~~!」


 それはさておき...、俺は今、音琶と共にVRの中に入っていた。入っていたと言っても、漫画やアニメで出てくるようなVRMMOをしているわけではなく、ゲーセンにあるVR体験をしているのだ。なぜそんなことをしているのかは察しの通り、隣ではしゃいでいるバカが行きたいと言い出したからだ。1回30分で1500円と、そんな安いもんじゃないってのに、音琶が行きたいとか言い出すから俺も行かなきゃいけなくなるだろ。全く世話の焼ける奴だ。

 画面上にはビルが並んでいて、薄紫色の空が不気味な雰囲気を醸し出している。俺が立っているビルから道路越しにあるビルに、細い一本の木の棒を伝って歩くアレだ。俺からしたら本物じゃないからどうとも思わないし、恐怖なんて感じるわけないのだが、音琶はそのスリルとやらを存分に楽しんでいるようだった。


「ぎゃー!!落ちたー!!」


 このゲーム、落ちたらゲームオーバーらしいけども、音琶は今のところ一度もクリアしていなく、俺としてはもう少し頑張って貰いたいのだが。もう俺は10回クリアしているのだが。


「楽しそうだな」

「そう見えるか?」

「お前はともかく、上川がだよ」

「ああ」


 さらに運の悪いことに今日は日高のシフトの日だったらしく、VR体験を受け持っている。こんな大規模なモールのゲーセンとなれば最新機種が揃ってるのは最早当たり前で、VRが置かれているのも当たり前のようなものなのだ。俺は一度ゴーグルを外して日高と話すことにした。音琶はそんなことも知らずにゲームに夢中になっているし、好きにさせるとしよう。

 まあ、一度もVRなんて体験したことなかったし、音琶も充分に楽しんでいるみたいだから良しとするか。問題は明後日なのだがな。実際に勉強してたから練習もそこまで思うように出来てない。先輩達は留年野郎ばかりだから練習する時間あるのかもしれないけど、俺はあんたらとは違うんだよと文句言ってやりたい。大体淳詩はPA、鳴香は照明だ。あの二人、作業とか間に合っているのだろうか。 

 折角夏休みが始まって音琶と過ごせる時間が増えるかもしれないと思っていたが、どうも事は上手く進まないようだ。まだ始まったばかりだけどな。


「どうせまた上川が滝上を巻き込んだんだろ?」

「全くその通りだ」

「いいじゃないかよ。上川の奴、あんなに楽しそうにしてるんだからさ。今までバイトしてきてあそこまで楽しんでる人見たことないぞ」

「それは大袈裟では。小学生じゃあるまいし」

「まあまあ。お前も顔に出さないだけで嬉しいんだろ?」

「さあな、何のことだか」


 残り5分になった時、音琶が突然ゴーグルを外し、満面の笑みで叫びだした。


「やっとクリアしたよ夏音! ...って、何ゴーグル外してんのよ!」


 どうやら俺が日高と話している間に渡り終えたらしい。何回かかったのかは知らんが、取りあえず褒めてやろう。


「良かったな、俺はもう何回もクリアしてたからいいんだよ」

「駄目だよ!時間は限りある物なんだよ!」

「同じ事何回もするくらいなら他のことやるっての」

「むう~」


 音琶がふて腐れ出したので、話題を逸らして何とか機嫌を戻すこと言わないとな。俺に言えることといえば...、

 

「もうそろそろ時間だけど、この後どうするよ」

「えっとね...、実は見て欲しいものがあって...」

「あ?」


 ・・・・・・・・・


「どう、かな?」

「どうと言われてもな...」


 奴は何を思ってこんなことをしているのか、理解できない。少なくとも俺には。てかこれ、明後日にライブ備えてる人がすることなのか?いや俺が動揺しすぎてるだけなのかもしれないけどさ。


「か、感想くらい言ってよ!!」

「...似合ってる」

「それだけ?」

「まあ、そんなところ」

「......」


 音琶曰く、夏休み中に俺と海に行きたいらしく、その時に着る水着選びに手伝ってほしいとのことだった。とは言え、前から思っていたが音琶には豊満なモノが付いているわけで、そんなものが目の前に写ってしまっては動揺を隠せるわけがない。

 てかこいつよくこんな姿を俺に見せようと思ったな、そんなの自分で好きなの選んでおけばいいってのに。別にまだ、いつどこの海に行くなんて予定立ててるわけでもないのにさ、そりゃ8月にもなれば行きたくなるかもしれないけども。


「胸でかいな」

「なっ...!」

「感想言ったぞ」

「も、もう!!」


 流石にまずかったか...。今まで思ってたことを言ってみたのだが、言われた当人は全身が真っ赤だ。いつだったか、こいつの全裸(タオルでほとんど隠れてたけど、あと狙ったわけではないからな)を見た時と同じ反応をしていた。


「まあいいだろ、髪型とよく合っている。お前センスあるよ」

「むう、それは水着の感想なのかな?それとも胸の感想なのかな?」

「どっちもだ」

「...私、ちょっと着替えるから!絶対に開けちゃ駄目だからね!」


 何とか理性を保ち、音琶の可愛らしい恥じらいも見れたところで、俺はカーテン越しの音琶に向けて自分から話題を振ることにした。


「それで、いつ頃行きたいんだよ」

「えっ?」

「早いとこ決めとかないと、奴らの都合に振り回されることになるぞ」


 僅かに衣擦れの音が聞こえて色々想像が膨らんでしまうが、何とか抑えて話を続ける。


「一番近い所だと、大体8月末までだろ?」

「う、うん。そうだと思う」

「だったら、それまでに行くぞ」

「いいの?」

「いつ駄目って言ったよ」


 それから間もなくしてカーテンが開き、水着から華のある服に着替えた音琶が顔を出した。


「鳴フェスのあとに行こう!!」


 となれば25日から31日までを目安にして、これから二人で予定立てていくとするか。どうやら19才の夏休みは忙しくなりそうだ。勿論、悪い意味ではない。

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