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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第11章 放課後のStudy
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一人、話したい相手

 7月26日


「例のブツだ、ありがたく受け取りな」

「お、ありがとな滝上」


 部室で杏兵先輩から過去問一式をもらい、すぐに日高に連絡。秒で返信が来て図書館で渡すことになった。土曜日の午後となれば沢山人が居るわけで席の確保が難しそうなのだが、日高は朝早くに来ていたから何とかなったらしい。


「にしても、相変わらず凄い人の数だな」

「みんな勉強頑張ってるよな、負けてられない」

「これだけネタがあれば大分楽になるだろ」

「まさか韓国語まであるとはね、助かったよ」

「ならよかった」


 そう言って日高は元の席に戻っていったけど、隣には立川が居た。どうやら二人で勉強していたらしいが、今まで二人だけで居る所をみたことがないから、まさかそういうことだったりするのだろうか。まあ誰が何しようと俺には関係ないことだし、明後日まで迫ったテストの対策でもしていくとするか。

 テスト期間はクラス毎に違うとは言え、大体2週間から3週間あるから割と長期戦になる。高校以前のテストは一日に3~5教科連続でやってたから1週間もかからずに終わったし、その間は部活動も禁止されてたから俺としては至福の時間であった。

 それに比べて大学のテストというものはクラスの編成を考慮しないといけないから、1日平均2教科もなく、補講もなければ完全に休みの日もあり、場合によっては全コマテストで埋まっている日も無いことはない。最高にバランスが悪い編成で頭がおかしくなりそうだ。そして何より、どれだけ愚痴をこぼしても思い通りになることがないのが一番の不満だ。

 明後日は物理と英語だけだったから、今日はこの2つを重点的にやることにするか。と言っても、俺は授業聞いてるから同じ事の繰り返しになるのだがな。

 にしても、自分の部屋で一人勉強しているとなると静かすぎてどうも落ち着かない。今までなら必ず誰かが部屋に入ってきて、どうでもいい話して時間を潰していたというのにな。

 音琶と結羽歌は多分バイトだろうから連絡取ろうとは思ってないし、日高と立川は今でも図書館にいるだろう。どうやら俺は完全に一人らしい、慣れているはずなのにどうしてこんなことになっているのだろうか。やっぱり俺はあいつらのせいで調子を狂わされているのだろうか、良い迷惑だ。



 7月27日


「......」


 今まで何度もやった所だからか、部屋が暑すぎるからなのか、夜勤で疲れているからなのか、それとも周りに誰も居ないからなのかはわからないが、勉強に集中出来ていなかった。

 別に単位を落としそうだとか、当日寝坊するかもとかいう問題ではない。集中出来てなくても問題が解けてないわけでもなく、ただ単にペンの進みが遅いだけだ。


「何なんだよ...」


 誰も居ない部屋で一人呟く。孤独なのは慣れているはずだし、むしろ今まで一人で生きてきたようなものだ。何を今更よく分からない感情に振り回されてんだよ俺。

 ペンの進みが遅いのは、目の前の問題よりも奴らと話した時のことを思い出していたからだ。何気ない日常会話すらしたこともなかった俺にとっては何か言葉に出来ないものに乗せられていると言っても過言ではない。

 とにかく、このままだと落ち着けないまま明日になってしまいそうだから、自分にとっての救済措置を探すことにした。因みにテスト前日ということもあり、夜勤は休みをもらっている。代わりに宮戸先輩が出てくれるみたいだがあの人だって忙しいはずだ、今度一応の礼は言うべきだろうな。

 そして俺は無意識にスマホを手に取っていた。3回ほどのコールで奴は出た。


『あれ?どうしたの?』

「何となく声が聞きたくなった」

『へえー、夏音にしては珍しい回答だね。部屋で勉強でもしてたの?』


 音琶と少しの時間だけでも話したら落ち着くのではないかと勝手に考えた結果がこれだ。音琶だってバイトかもしれないというのに、明日テストあるかもしれないというのに。


「まあそんなことろだ。音琶はバイトだったりしたか?」

『ううん、私も勉強してたよ。流石にテスト前日にバイトは入れないかな』

「まあそうだよな、そんな日に入れる奴は馬鹿だ」

『もう、そういうとこは相変わらずなんだから』

「単位は取れそうなのか?」

『最初は心配だったけど、今は何とかなりそう!』

「ならよかった。落としたりしたらサークル行く時間なくなりそうだしな」

『夏音とバンドやるためなら、何でも頑張れる気がするんだ。だからテスト絶対全部受かるから!』


 全部受からないと駄目だろ、と言おうと思ったが、何だかんだで音琶のことだからしっかりしてくれそうだし、特に心配する必要もないかもな。


「俺もだ、もうほとんどの教科は暗記できてるからな。今してるのは最終確認みたいなものだ」

『...本当は、ちょっとだけ不安なんでしょ?』

「は?」

『ううん、夏音から何でもない時に電話なんて今までなかったなーって思ったから』

「何でも無くねえよ」

『え?』

「俺がお前と話したくなったから掛けただけで、何でもない時なんてねえんだよ」

『...そっか』


 俺の言葉をどう受け止めたかは直接聞かないとわからないけども、それから音琶は数秒の沈黙の後こう言った。


『私も、夏音の声聞けたからテスト頑張れるよ!ありがとね!』


 まるで俺の思っていることを読んでいたかのように、音琶は今まで通りの話し方で俺に返してきた。何気ない会話が何かを変えることだって出来る。他の奴らにとっては些細なことでも、俺と音琶にとっては大事なことなのだ。

 落ち着かなかった俺の心も、音琶のおかげで今まで通りに動かすことができそうだ。


 ***


「夏音...、あんまり無理しないでね」


 電話を切った後、私は窓から見える夏音の部屋に向かって呟いた。部屋の中は見えないけど、さっきの口調から孤独を感じていたのかもしれない。

 私も一人で居るのはいつだって寂しい。夜になったら、部屋にお邪魔させてもらおうかな...。

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