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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第11章 放課後のStudy
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勉強、教える効果

 ***


「うーん、何回やってもわからないよ...」

「ここ3回目な、先生言ってたろ出るって」

「まあまあ、俺もいまいち覚えてないしさここ」

「もう、結羽歌も日高もちゃんと授業聞いてるの?」


 テストまで1週間、俺の部屋には例の面子が揃って勉強している。これ、テスト終わるまで毎日続くのだろうか。流石にドラムの練習もしておきたいのだが。


「そもそも英語の授業なんて受験の時より遥かに簡単なんだから出来てないとおかしいレベルだと思うのだが」

「いや、合格って分かった途端全部解放された気がして、入学までの間全然勉強してなかったから...」

「まあそうだよな、第一推薦でもないから手続きの書類書くのに結構時間掛かったし」

「あんなのすぐ終わるよな、遊び優先してただけだろ」

「「...はい」」


 俺に言われると二人は暫く黙った後、同時に頷いた。全くこいつらときたら...。


「大体滝上は遊ばなかったのかよ、あの解放されたときの感覚ほどたまらないものなんてないってのに」

「遊んでねーよ」

「へえ...」


 遊んでなんかいない、そんなことする仲間も、時間も、余裕も、何もかもなかったから。卒業式から合格発表までは精神的にも参っていたし、合格が決まった後には...。やめておこう、思い出そうとするだけで吐きそうになる。


「ま、まあ俺らだって単位落としたいなんて思ってないし、あんまり心配しなくていいからな」

「最初から心配なんてしてねえよ、ただでさえ自分のことで精一杯なわけだし」

「そ、そうか。なんか悪いな」

「謝んなくていいから」


 別に俺を頼ること自体はどうとも思ってない。ただ自分の勉強に支障を来す様なことさえなければそれでいいのだ。だからいちいち他人の心配なんかしていない。


「あの、夏音君?」

「何だよ」

「ここの訳なんだけど...」


 さっきからずっと自分の勉強をしつつ、二人の馬鹿が分からないところを教えている。高校時代、放課後の図書館で見た光景に似ている気がする。先生から大学進学を勧められて嫌々図書館に籠もることになったのはまた別の話だ。模試で全国一位なんてザラだったから、先生からしたらそんな人を高校卒業後に就職なんて許せなかったのだろう、なかなか良い迷惑だったな。そのおかげで今があるのは間違いではないけども。


「英訳よりも和訳の方が簡単だから、結羽歌はそこで稼いだ方が良さそうだな。でもここの本試、結構英訳の問題多かった気がするのだが」

「あ、あの時は覚えてたけど...、それから暫くやってなかったから忘れちゃった...」

「おい」


 結羽歌の発言を聞いて、日高が俺から視線を逸らしていた。こいつもか、てか立川はさっきから黙々とプリント眺めてるけど大丈夫なのだろうか。

 割と余裕ある感じだから、勉強する時間は確保できてるみたいだな、確かバド部入ってるとかだったか、そこまで楽なサークルでもなさそうだが上手く時間を使いこなしているのだろう。特にどこのサークルにも所属していなくて、浪人していた過去を持つ日高はもっと頑張ってもらいたい。


「滝上も大変だねー、私が代わってあげようか?」

「いいのかよ」

「うん、丁度やろうと思ってたとこ終わったから」

「すまんな」


 立川の善意に助けられ、俺はしばらくの間解放されることになった。相も変わらず日高は苦戦しているみたいだし、結羽歌は立川に付きっきりで教えて貰っている。こう言った光景こそが本来学生の送るべき生活なのかもしれない。慣れてないから苛つくのは仕方ないことなのか、それとも今までずっと一人で居た俺自身がおかしいのか、他の人なら即答できそうなことすら分からなくなっていた。

 授業で習うことよりも遥かに難しいことだった、もしこの大学に「自分自身」に関する科目が必修であったとしたら絶対に合格なんかできないだろうし、再試験があっても再履修しても永遠に合格出来ないまま除籍になりそうだ。

 そんな科目がないことを俺は心から感謝している。もとい、どこの大学にも無いだろうけど。結局は勉強できても大人にはなれないということなのだろう、だから俺は一生ガキのままでいるのかもしれない。


 ・・・・・・・・・


「滝上、ありがとな。また明日も教えてもらっていいか?」

「好きにしろ」


 23時を過ぎ、解散になってそれぞれが自分の部屋に帰っていく。


「あーそれとさ、もし滝上のサークルの先輩が過去問持ってたら頼んで貰ってもいいか?」

「は?」


 日高から突拍子もないことを言われ、一瞬戸惑う。


「この前うちの大学のスレッド見たらさ、毎年似たような問題が出るって見たんだよ。だからさ、あったらでいいから聞いといてくれん?」


 こいつが勉強する時間確保できてない理由が何となく分かった気がする。どうせ夜遅くまでネットサーフィンしてるんだろ、視力落ちるぞ。


「駄目とは言わない」

「じゃあいいんだな?」

「別にいい、でもテスト期間中はネットばかり見んなよ」

「わかってるよ、そしたら頼む!」


 頼むだけ頼んで日高は帰っていった。まあ過去問貰うのも賢いやり方だよな、出欠の紙書いてそのまま帰る馬鹿もいるわけだし、そう言う奴らは過去問で勝負するのだろう。

 賢いというよりずる賢いと言った方がセンスあるかもな。別にそんなもの求めてもいないけど。


「くだらん」


 一人呟き、俺は自分の部屋に戻っていった。シャワー浴びて、英単語の復習でもしたら寝るか。

 てか、人に勉強教えたら自分にも効果あるな、面倒な奴らばかりだが悪いことではなさそうだ。

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