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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第11章 放課後のStudy
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帰宅、道中の会話

 ***


 7月20日


「そろそろ話してもいいんじゃない?」


 ライブの打ち上げも終わり、日付も変わって洋美さんに車で送られている最中にこんなことを言われた。


「話すって...、夏音にですよね?」

「他に何かあったかな?」

「いや、ないです...」


 身近に私の過去を知っている人は洋美さんしかいない。他の人には知られていないし、話してもいない。高校に通わず、大切な人を失って、私自身にも良くないことが起こって...、それでも頑張ってここまで来た。

 再び大切な人に出会えて、今までに出来なかったことが今は出来ている。それが当たり前のことなのかもしれないけど、私にとってはそれが幸せだった。全てが上手くいくというわけではないけど、それでも充分だった。


「んん~、音琶ちゃん...、こんなに抱きしめられたら、苦しいよ...」


 座席をベッド代わりにして、私の膝の上で結羽歌は寝言を言っている。あれから飲む量は自分なりに制限しているみたいだけど、それなりに酔うことは前と変わりなかった。その分また部屋まで送らなきゃいけないんだけど...。

 元々お酒に弱い人が飲んだら飲む量は関係なく酔いが回る。制限したところで飲んだらその時点で終わりだと思った方がいいらしい。そしてこのこの夢の中には何度私が登場しているんだろう、近いうちに夢の中で私が何をしているのか聞いてみようかな。


「夏音だってずっと気になってるはずだよ。確かに言いにくいことだけどさ、ここまで隠し続けても辛いだけじゃないかな?」

「......」


 結羽歌の寝言を無視して洋美さんは続ける。勿論辛くないわけない、何度も言おうと思ってはいたけど言葉が出なくなるのだ。夏音と会った日にはタイミングを考えて話していたけど、結局言えず終いでその日は終わっていた。帰ってから何度も反省して、次こそはと思って言う練習だってしていた。

 でも、無理だよ...。確かに他の人からしたら簡単にできることかもしれない。私にはハードルが高すぎて、話そうとするだけで心臓が苦しくなって止まらない。どうしようもないことなのだ。


「ライブ始まる前に夏音がさ、音琶が全然自分のこと話してくれないって言ってたんだよ」

「夏音...が?」

「そうだよ、だから夏音の想いも考えてあげてもいいんじゃない?」


 出会ったばっかりの時も、他人に興味の無さそうにしている夏音は私の隠し事については知りたがっていた。私が夏音を求め続けている理由、話せば長いから勿論直接言うつもりだし、いつまでとは決めてないけど必ず言わないといけない。

 私の代わりに洋美さんが言うこともできなくはないけど、それは嫌だ。やっぱり自分のことは自分で言わないと絶対に後悔するし、今言えなくても心境の変化があっていつの間にか言えるようになっているかもしれない。この先何が起こるかわからない、それは今までの私の人生で何度も知らされたことだ。良いことよりも悪いことの方が圧倒的に多かったし、失う物も少なくなかった。

 何もかも、全てが嫌になって、それでも私を支えてくれる人が居て、何とかここまで来ているけど、タイムリミットがいつやってくるかもわからない。

 それまでには、私がまだ成し遂げれていないことが出来たらいいと思っている。


「夏音、本当に私のこと大切に思ってくれてるんですね...」

「何言ってんのさ、思ってないわけないでしょ。音琶だって何とかここまで頑張ってきたんだから、もう一息だよ」

「実は、鳴フェス一緒に行くんです」

「!!」


 その瞬間、車のアクセルが若干強く踏み込まれたように感じられた。驚いているのだろうか。


「音琶、あんたやるわね」

「そう、ですか?」

「もしかしてそこで言うの?てかLoM出るよね、いつ振り?」

「えっと...、鳴フェスに来るのは5年、位だったかな...?」

「いや、そうじゃなくて、音琶がLoM見るのがいつ振りかって聞いてんの」

「あ...、4ヶ月振りですね」

「そっか...」


 思い詰めたように話す洋美さん。私だって忘れるはずがない、あの日は私にとって運命の日だと言っても過言じゃないんだから。

 そのことも勿論洋美さんに話している。普通なら信じられないような話もこの人は何でも信じてくれた。バイトに復帰してから話したことなんだけどね。


「ちゃんと最前確保しときなよ、フェスはそこが勝負なんだから。特にLoMに関してはね」

「はい、頑張ります」


 ロックフェスは人気のあるバンドの最前を狙うにはそれなりの覚悟が必要だ。タイムテーブルを見て目当てのバンドを探すのは勿論のこと、バンドによって出来るだけ前で見たいものがあるはずだ。そのためには目当ての直前のバンドで予め前の方に行ってないと最前に行くのは難しい。

 まだタイムテーブルは発表されてないけど、LoMの様な大人気バンドともなると恐らく最後の方、一番大きなステージでトリを務める可能性だって充分にある。だとしたら、最後から3番目のバンドの時間からそこにいる必要がありそうだ。もし本当にそうなったら私は今思った通りのことをしようと思ってるけど、夏音はそれで納得するだろうか。そもそも夏音はどういった類いのバンドが好きなのかもよくわからない。

 まあ、事情を話すかは別としてLoMに関しては絶対に夏音と二人で、最前で見るつもりなんだけどね。


「ほら、着いたよ。結羽歌は私が部屋に入れるから、後は任せな」

「はい、ありがとうございます。お疲れ様でした」


 いつの間にか車は私の住むアパートの前に止まっていて、洋美さんに言われてやっと車を降りた。私はまだ部屋に夏音を入れていない。入れれるわけがない。入れてしまえば、今まで言えなかったことを吐き出さなければいけないからだ。

 今の私の心じゃ、話すことはおろか部屋の場所さえ言うこともできない。既に疑いの目は掛けられているのは承知だけど、どうすることも出来ないのだ。そんな自分が情けなくて仕方ないけど、時間は待ってくれないんだよな...。

 そう思って私は部屋に入り、窓の外から見える夏音の部屋を見ながらカーテンを閉めた。

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