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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第11章 放課後のStudy
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記憶、何も覚えてない

 7月13日


 14時前、俺は駅の改札前に並んでいるベンチに座って鳴香と茉弓先輩を待っていた。昨日の鈴乃先輩との電話の内容からして、今日という日は茉弓先輩の考えていることを少しでも知れるいい機会になるかもしれない。

 一応LINEは見られないように気をつけないとな、一応鈴乃先輩とのトークは削除しておいたが、音琶や結羽歌とのトークにもサークルに関する内容は入っている。


「お、夏音君早いね~」

 

 丁度LINEのトークを見ようとしていた時、茉弓先輩がいつの間にか俺の隣に座っていて、画面を覗こうとしていた。


「...お疲れ様です」

「今日はちょっと羽伸ばしちゃうよ~」


 俺としては緊迫感で伸ばせる羽もないのだが。今のタイミングもかなり危なかったし、帰るまではスマホ開かないようにした方がいいな。


「ごめん夏音!あと茉弓先輩もすいません!待ちましたか...?」


 開幕から冷や汗が出そうな出来事が起こり、焦っていたところに鳴香が現れた。


「鳴香おつかれ~、まだ3分前だし大丈夫だよ~」

「俺もそこまで待ってない」


 茉弓先輩の緩い感じの話し方はいつもと変わりはなかったが、その声の裏側に恐ろしい本性が隠されているということを考えると警戒しないといけない。本当は少しばかり待っていたから口では気にしてない素振りを見せているが、本心は全く異なるものなのかもしれない。俺の考えすぎかもしれないけどな。


「良かった...」


 鳴香が焦った表情をしているのは、やはりサークルの掟から時間を守るように言われているからだろう。例え遅刻してなくとも、時間がギリギリだと何か言われると思ってしまうのも無理はないはずだ。


「そしたら、行こっか!」

「は、はい!」


 茉弓先輩の合図と共に鳴香は側を歩き、俺は2人の後ろに付いていくような並びになっていた。


 ・・・・・・・・・


「......」

「滝上、今度はまた別の女子を連れてるのかよ。お前やるな」

「うるせえ」


 モールの最上階にあるゲーセンに足を運び、そこのカラオケに入ろうという流れになったまではいい。だが、予期せぬ問題が起こってしまった。

 予めカラオケの部屋は茉弓先輩が予約してくれてたらしく、待つことなく入れるのはいい。この時間のスタッフが日高だったということを除けばな。


「ん~?夏音君の友達かな?」

「茉弓先輩、こいつ最初の方しか居ませんでしたけど部員だったじゃないですか」

「あれ?こんな人いたっけ?」

 

 今の言葉を聞き、思わず茉弓先輩の方に視線を送ったが、嘘は付いていないようだった。確かに掟が配られてからすぐに辞めたが、名前や顔はともかく、「そんな感じの奴」がいたという記憶くらいは残っているだろう。


「えっと...、やっぱり俺忘れられてますか?」

「うん、君のことは知らないよ」


 この人、何の躊躇いもなく言ってるよな...。確かに辞めた奴は時間と共に忘れられるのかもしれないが、ほんの少しの間でも同じサークルに居た人間であったという記録は残っているはずだ。

 だが、こいつは違っていたようだ。


「えっと、間違ってたらごめんね。日高君だったっけ?」


 茉弓先輩を遮るかのように、鳴香が日高の名前を確かめた。


「あ、ああ。そうだけど、えっと...」

「私のことは覚えてないかな?日高君と同じ1年生なんだけどね」

「泉、とか言ったか?」

「そうそう!やっぱりこういうのって覚えているもんだよね」

「まあライブ行ったしな。俺がまだサークルに居た頃は話したことなかったから、あんま自身なかったけど」

「来てくれてたんだ、ありがと!」


 いつの間にか2人共意気投合していて、俺と茉弓先輩が置いてかれていた。早くルーム入らせてくれよ。



 数分後


 それから日高と鳴香が盛り上がり、店長らしき人物が日高に注意したところでようやくルームに入ることが出来た。


「茉弓先輩、本当に覚えてないんですか?」


 さっきの発言をまだ嘘だと思いたいのか、俺は茉弓先輩に問いかけていた。いくらなんでも綺麗さっぱり忘れているなんてことはないだろう。


「んー?覚えてないよ~。ほんとにあのこ誰?」

「......」


 鳴香も怪しいと思ったのか、さっきから茉弓先輩の方を見ている。


「今まで沢山の人が辞めていったと思いますけど、その一人一人すら覚えてないとかいいませんよね?」

「......?」


 すると俺の言ったことを確かめるかの如く、茉弓先輩は表情を怪しげな物に変え、俺を睨みつけながら言葉を放った。


「何で、なんで私達の学年の人達も沢山辞めてるってこと知ってるの?」


 俺はその言葉を聞いて背筋が凍った。この話も鈴乃先輩から聞いたものだ、そんなことを言った時点で俺が裏で企んでることを知られる一歩に成りかねない。

 どうする、どう返せばいい...?


「1年生の数と今居る先輩達の数に差があるからじゃないですか?それに関しては私も感じてましたよ」


 俺が戸惑っていると、鳴香がフォローしてくれた。焦ると言い訳するまでの判断が遅くなる。こういった場面で嘘をつけないから、鳴香のように上手く言葉を選べる人が羨ましい。


「...そう、それなら仕方ないか」

「......」

「でもね、さっきのバイトのこは知らないよ。特に最初の段階で辞めた人なんて覚えているわけないね。それに、入ったときと今で人数が減っていることはわかるけど、それが誰だったのかなんていちいち覚えてないから。そんな大事なことでもないし」


 いつもと違う、裏の顔と言ったらいいのだろうか。緩い声は鋭いものに変化し、恐怖すら感じた。俺は怖いのだろうか、確かに次に先輩と揉め事を起こしたら強制退部になると言われたが、それを知ってから感情のコントロールがより一層難しくなっている気がする。

 茉弓先輩に日高の話を振るのは一旦やめ、ルーム内にあるスピーカーやマイク、デンモクに意識を移したほうが良さそうだ。これ以上サークル関連の話に入ったら、うっかり口を滑らせてしまいそうだ。

 一応、同期や先輩に限らず、日高のことを覚えている奴がいないか聞いてみるのもありだな。

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