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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第11章 放課後のStudy
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派閥、2人の先輩

 7月12日


『そう、茉弓がね...』

「もう後戻りは出来ないと思うんです、このタイミングでバンド辞めたりしたら絶対怪しまれますし」

『そこはもう私が裏で何とかするしかないわね...』


 昨日(日付的には今日の真夜中)の茉弓先輩との会話から、直接鈴乃先輩に会って話すのはまずいと判断し、時間を貰って電話することにして今に至る。幸い鈴乃先輩は今自分の部屋に居るらしく、この会話も他の誰かに聞かれているということはまずない。


「てか、鈴乃先輩と茉弓先輩って仲良いんじゃなかったんですか?同じバンド組んでますし」

『あー、夏音にはそう見えたのか』

「はい?」


 スマホ越しに聞こえる鈴乃先輩の声はどこか悲しそうに聞こえた。どうやら先輩達の人間関係もややこしいことになっているのだろう。まあそうだよな、何人も辞めたサークルで残された僅かな部員で上手くやれるかって問われて首を縦に振れるかって話だ。

 結局、残ってる奴らの中ではサークルの現状の賛成派と反対派みたいになっているのだろう。そして、2年生以上の奴らで反対派に位置しているのは恐らく鈴乃先輩だけ。そう考えると上手くやれるわけないよな。


『私は何とか茉弓に合わせているだけだよ』

「そう言われたらそんな気もしなくないです」

『去年何があったか知りたい?』

「今後の活動の参考になるなら、聞く価値はあると思います」

『...まあいいわ、教えてあげる』


 そう言って、鈴乃先輩は去年のことについて語り出した。


 ・・・・・・・・・


 元々鈴乃先輩と茉弓先輩は同じクラスということもあり、最初の間は何かと仲が良かったという。部屋も近く、入部したばかりの頃は互いに部屋を行き来して練習もしていただとか。

 しかし、2人の考えには大きな違いがあった。それが何かというのは、勿論サークルの現状をどう思っているかだ。鈴乃先輩は入部した時からずっと違和感を感じていて、辞めるタイミングを探していたという。だが、茉弓先輩は上の人達に呑まれていき、酒が飲めるということもあり、辞める気はさらさらなかったという。

 まず、この時点で2人の考えに違いが生じていたのだ。鈴乃先輩は茉弓先輩を何度か説得したらしいが時既に遅し、夏休みが終わる頃には浩矢先輩と付き合いだし、それは今でも続いているとのことだ。

 もうこの段階であの人は駄目だと悟った。鈴乃先輩と仲良い様に見えたから僅かな希望を信じていたが、その希望は絶望に変わっていた。少しでも期待するあたり、俺は何も成長していないな。

 てか何であんな奴と付き合っているんだか。まともな会話も出来ず、後輩に八つ当たりするような''先輩''を好きになる時点で終わっている。この事実を結羽歌に伝えたらあいつは何て顔するのだろう。それこそ人間不信というものになってもおかしくない。

 分かり合えていた部員は居たもののその人達は次々と辞めていき、終いには鈴乃先輩は一人になっていた。今残っている2年生は鈴乃先輩以外全員賛成派の人間だという。

 それを聞いて俺はふと思った。今の1年生8人の内何人が、反対派の人間なのだろうと。少なくとも俺と音琶は反対派だ。だが、他の奴はどうだ?

 結羽歌も反対派だと思いたい。だが、あいつは酒に呑まれつつあるからそう簡単に信用できないし、音琶との関係も不安定に成りつつある。いつどこで寝返ってもおかしくない、琴実だって、鳴香だって、他の奴らもどこでどう心境が変わるかわからないのだ。

 その後鈴乃先輩は無理に賛成派の人間に合わせ、副部長という権力を手にすることで少しでも現状を変えていこうとしていったとのことだ。その話は最初の呼び出しで聞いたものだったが、それまでの過程を詳しく聞くと意味が違って聞こえた。


 ・・・・・・・・・


『本当はギターが弾きたくてここの入ったっていうのに、いつの間にか目的が変わっちゃった。だから、夏音達は私みたいにはならないで欲しいかな』

「......」


 皆それぞれの目的や、やりたいことがあってここにいるのだろう。俺だって昔はそれがあったはずだ。それなのに、過去に何を思っていたのかすら忘れてしまっていた。

 音琶に出会ってなかったら、あの場所にはいない。そのことを喜ぶべきなのか、悲しむべきなのかもわからない。


『バンドはどうするの?』

「このタイミングで辞めるなんて言ったら、ますます怪しまれますからやりますけど」

『そう、でも気をつけてね。うっかり私とのことは言わないように』

「わかってますよ」


 念を押す鈴乃先輩だったが、今までのことを思うとそうなっても仕方がないのだろう。もしかしたら、来年の俺も鈴乃先輩みたいに後輩にサークルの裏側を教える立場にいるのかもしれないのだからな。


「一つ聞きますけど」

『何?』

「鈴乃先輩、まさか俺らを取り残して1人でサークル辞めようなんて考えてませんよね?」

『......』


 少しの沈黙があって、鈴乃先輩は答えた。


『辞めるときは、みんな一緒だよ』


 その言葉の意味を、俺は瞬時に理解した。鈴乃先輩は今、大きな賭け事をしている。必ずしも成功するとは思えないことを誰にもバレずに成し遂げようとしているが、リスクの方が大きい。いくら副部長でも、そう簡単に変えることはできないだろう。

 それでも、少しでも現状が良くなるように自分と同じ考えを持っている後輩に託しているのだ。反対派の後輩が全員辞めてしまったら、自分も辞めるつもりなのだ。

 鈴乃先輩は、1人でも多く、味方が欲しかったのだ。


『明日、茉弓に会うんでしょ?一応だけど、何かあったらまた連絡してほしいな。バレない程度だったら、私も茉弓に何か言えるかもしれないから』


 言えるわけないだろ...。先輩だからって強がりやがって、それが原因で追放とかでもされたらどうするんだよ本当に。少しは自分の立場考えやがれよ。

 それに、これは決して他人事なんかではない。俺自身にも、降りかかるかもしれないことなのだ。誰かが裏切って、自分の居場所を無くし、ただそこに居るだけの存在に成り果てる。音琶に出会えてから、もう二度とあの時の様な想いは御免だ。

 何かを手にすることが出来ても、少しの間違いで得たモノを失うのは、容易いことなのだ。だから、俺のすべきこと。そんなのはもう決まっていた。

 

『そう言えばさ、今みんなのレポート見てるんだけど、夏音自分のことよくわかってるなー、って思ったよ。バレない位には点数付けておくからね』


 この人は俺の味方だ。だから、その味方を敵にするべきではない。

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